Primary Source : Rafu Shimpo 21 Dec. 1983: 9, 17, 22, 38.
自分の体験をもとにした小説なのかまったくのフィクションなのか、さっぱりさっぱりな小説。とりあえず、2008年の邦訳がイヌイットでなくエスキモーと、1983年の原題をそのまま踏襲してるのは、主人公の文通相手の青年がイヌイットでなくユッピックだから。
原文では"A Yupik" とシンプルですが、邦訳では「ユピック族」と、族にしちまってます。1983年に発表した小説ですが、1975年から二年くらいの出来事としていて、主人公は作者と同じ文筆家ですが、エミコ・トヤマという名前です。で、現実のヒサエさんの夫のアンソニー・デソトさんは2003年までご健勝なわけですが、この小説のエミコは未亡人という設定になってます。
"Nisei widow"に何か意味を込めたかったのかどうか。邦訳からは、それを読み取ることは出来ません。同民族同士の結婚前提で云うなら、夫は日系人部隊で戦死したのかとか、勘ぐってしまいたいところ。邦訳では死亡した夫の名前は「ミツ」原文でも"Mits" (みつお等の略称っぽい)なので、日系人なのかなあと。ヒサエさんの夫のデソトさんは白人。ミッツ・マングローブは"Mits"でなく"Mitz"ですが、徳光からとってるので、日系人男性の名前として、ありそうな感じでもあります。
ミッツマングローブさんの名前の由来は何ですか? - 最近オカマが... - Yahoo!知恵袋
最近のブルージャイアントでも、アメリカ横断中のダイに、ネイティヴアメリカンが話しかけてきて、ともに蒙古斑があるでよ、と、どっかで聞いたような親近感を見せるのですが、この若干23歳のエスキモー男性が獄中から手紙を書いてきたのも、そうした連帯感からと解釈されています。アジア人のシンママによってくる男性というのも世の中にはいたでしょうけれど、でも23歳が40代50代にマサカ、とは小説中の主人公の独白。
主人公は囚人がなんの罪を犯したか、本人が言わないので聞きませんし、本人はアルコール依存症者の獄中自助グループに関わったり、キリスト教学習に熱心だったり、ほかの囚人の同性愛関係を官にちくってほかの刑務所に移送されたりします。で、ヒサエさんはたぶん、下記のダジャレを思いついて、それを言いたいだけなんじゃいかと思いました。
エミコにエスを加えて並べ替えると、エスキモーになるじゃん、これがホントのエスの解放、なんちて。
それだけの小説に見せかけて、釈放後彼からの手紙が途絶え、出した手紙も宛先人不明のエンディングです。矯正の道は険しく、遠い。そういう落ちでもないのかもしれませんが… 以上
ヒサエ・ヤマモト作品集 : 「十七文字」ほか十八編 (南雲堂フェニックス): 2008|書誌詳細|国立国会図書館サーチ