カバーデザイン 辰巳四郎 デザイン 菊地信義 解説 池上冬樹
工藤夕貴のハリウッド進出作のひとつで、イーサン・ホークと共演した「ヒマラヤ杉に降る雪」(1999年)の原作です。邦訳は先行して1996年刊行。映画封切りに合わせた改題再版とかはしなかったようです。在庫が余ってたのか。現在は品切れ再版未定、電子化未。
東海岸の話です。西海岸の日系人苺栽培は石川好『ストロベリー・ロード』などで戦後も知られた話でしたが、東海岸でもやってたんですね。知りませんでした。『ストロベリー・ロード』は、雇ったメキシコ人が食卓にデカデカと脱糞して逐電するくだりが印象的でした。
1954年初秋、白人漁師が死体となって発見され、戦争と強制収用でウヤムヤになった資産売買を巡る遺恨から日系漁師が手を下したものと思われたが、息詰まる法廷闘争という、一時期のパターンです。
米国市民である日系人の強制収用への米国政府謝罪と賠償を求める運動の盛り上がりと、本書のベストセラー化、各国語へのすみやかな翻訳(佛獨伊蘭瑞丹許諾葡希)は無縁ではないと思われ、戦争中は二世部隊に所属していた被告が黙してちゃんとしゃべらないので、裁判は真相に近づきません。映画ではこの人を韓国系アメリカ人が演じています。
グターソンサンは本書が長編デビュー作だそうですが、事前に日系人や邦人に見せなかったのか、男性名を「カプオ・ミヨモト」と書き、ペーパーバック版で修正したものの、やはりおかしな「カブオ・ミヤモト」にして、この邦訳でやっと訳者が原作者諒解の元、「カズオ・ミヤモト」に直しています。舞台の街がアミティという名前で、「ジョーズ」といっしょじゃんと思いました。
ニーナ・ルヴォワル『ある日系人の肖像』の解説に本書が出て、先にDVDで映画を観て、それから読みました。
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工藤夕貴演じるハツエは、カズオと結婚する前、白人少年イシュマエルとひそかにつきあっていて、それが強制収容所へのラブレターで発覚し、別れてカズオと結婚するのですが、イシュマエルはタラワ環礁でまだ気力戦力ともに充分だった時代の日本守備隊相手の激烈な上陸戦に参加し、片腕を失うという展開になっています。
映画でどう描いていたか忘れましたが、小説では、友軍の艦砲射撃等による絨毯攻撃で、完全に敵勢力を沈黙させてから上陸する手はずだったのが、全然成果があがらず、日本軍の戦闘能力がろくに落ちていなかったので、阿鼻叫喚の生き地獄になったとなっています。この戦いはサンケイの第二次世界大戦ブックスで一冊の本になっており、私も読みました。サンケイの第二次世界大戦ブックスを読むと、日本はなんでこんな勝ち目のないことしたんかなあと思うこと請け合いなので、復刊すればいいのにと思います。後年インドネシア人から、「日本兵は木の上にいる」と言われ、木に登って隠れてそこから狙撃するのが得意だったとサンケイの第二次世界大戦ブックスに書いてあったのは覚えていたので、現地で伝承化されるくらい有名な話なんだなと納得しました。
頁87
ホレスは、硬膜に凝固している血と、脳の一部がはみ出している硬膜の裂け目をアート・モランのために指さして示した。「やつは、かなり平らなもので相当強く打たれたんだ、アート。戦時中何度か見た、銃床で出来た傷を思い出すよ。ジャップの剣道の一撃で出来るような傷さ」
「ケンドー?」とアート・モランは聞き返した。
「棒を使っての戦いさ」とホレスは説明した。「ジャップは子供の頃から習うんだ。棒で人を殺す術を」
韓国が起源とか世界大会でドイツが強豪とかいうのが21世紀の現在地ですので、この頃はまだそんなに知られていなかったのかもしれません。剣道。ケンコバの由来。
頁172
「おれは、ミヤモトたちの目がどっちに吊り上がっていようと、全然かまわない。
サン・ピエトロ島にはアメリカ先住民もいて、ニューカマーの日系人は、彼らとも比較されます。上は、偏見を持つ女性に息子が言い返す場面の一部。
頁298
「島の日本人、軍の退去命令を受諾」「日本婦人、最後のPTAの仕事で称賛される」「退去命令で高校の野球チーム打撃を蒙る」。それに加え、アーサーは「率直な話」のコラムで、「時間の不足」と題し、「我らの嶋の日系アメリカ人を意味もなく無慈悲に追い立てるようにして退去させる」として、戦時移住局をこっぴどくやっつけた。翌朝七時半に、アーサーに匿名の電話がかかってきた。「ジャップ好きはキンタマを切られるぞ」と甲高いテノールの声が言った。「ジャップ好きは、キンタマを喉に押し込まれる――」アーサーは電話を切り、新聞の次の版のための記事をタイプで打ち始めた。(略)
ハワイの日系人は強制収容されず、ペルーの日系人はわざわざ合衆国まで移送されて収容というように、けっきょく人のやることなので、バラツキがあったとか、なんだかなあと思います。
あともう一冊、非日系人が書いた日系人主人公の小説を読みます。たぶんこれより、カッとんでて、そのぶんしょうもない話のはず。以上