『人殺し』《杀人》 "Murder" ཚེ་རིང་ནོར་བུ། tse ring nor bu 次仁罗布 / 『チベット幻想奇譚』བོད་ཀྱི༌འདྲེ༌སྒུང༌ངོ༌མཚར༌གཏམ༌ཚོགས། "Tibetan Fantasy Tales"より 読了

チベット幻想奇譚|星泉 チベットの現代作家たちが描く、現実と非現実が交錯する物語

装画・扉絵 蔵西 装釘 宗利淳一 ←クギの字を使った「装釘」は、暮らしの手帖などに使われていると、ほかの方のはてなブログで拝見しました。

チベット文学研究会の女子会ユニットが出した本がネットにあり、紀伊国屋取り置きで買いました。勉誠出版から春陽堂に移った編集者堀郁夫さんという方が企画したそうで、「おわりに」で、星泉サンから謝辞が捧げられています。礼には礼、阿呆にはビンタ。

「おわりに」によると、意外にもチベット人作家の作品には怪奇ホラーがろくろくないので、当初の恐怖アンソロジーの方針を変更して、「奇妙な」レベルまで幅を広げて収録作品を集めたそうです。スリラー、サスペンスジャンルがまだ発達せずこれからで、ファンタジーもそんなになく、いきおい魔術的リアリズムという魔法のことばでカテゴライズされる作品群の比重が多くなるということかと。まあ、現実を甘く書いた作品なんて読みたくないし、かといって現実をそのまま書いたり訳したりだと、中国がどう反応してくるかの問題もあるしだし。じゃ、ファンタジーでどやさという感じで、スティーブン・キングやディヴィッド・マレルみたいな作品を探したが、難航したのだと理解しました。

チベット語文法は相変わらずよく分からなくて、漢語では二重山括弧《》を日本語の二重鍵括弧『』よりもう少し広い幅で使っているようなのですが、チベット語に関してはどうしてるか分からず、セルニャのバックナンバーをぺらぺらめくってみましたが、ツェラン・トンドゥプのように二重山括弧を使っている人もいれば、なんも使ってない人もおり、まだ固まってないのかなと思いましたので、この読書感想の題名のチベット文字も、カッコつけるかは保留にしてます。

また、おそろしいことに本書は題名もチベット語が併記されており、今回は『ナクツァン』と違って、内山書店もそれを打ち込んでくれたりはしなかったので、自分で見よう見まねで打ち込みましたが、検索結果が何もないので、どこか間違ってる可能性は低くないと思います。「チベット」の意味の、ブーが文頭のབོད་なのですが、「幻想」と「奇譚」をどうチベット語にしてるのか、やけに長いその後の文字の羅列が、何を意味してるのかは分からないままで、気になっても気になってもチベット語やゾンカ語はグーグル翻訳ナシ。

その調子で全作家さんと小説タイトルを、また本書は蛇の生殺しでぜんぶチベット語併記してくれてますので、いちいち写そうと思ってますが、時間がかかるので、それもあって、収められている十三の短編を、一個一個感想書くことにします。

トップバッターは「西藏文學」編集長(本書刊行時)による漢語作品。本書収録で、漢語作品はこれだけ。第一のチャプター「Ⅰ まぼろしを見る」カテの作品。

baike.baidu.com

バイドゥチベット語併記してくれないので、この人の名前のチベット文字も自分で打ち込んでみました。たぶんあってると思います。

ノルブリンカ - Wikipedia

ノルブーは上のノルブリンカནོར་བུ་གླིང་ཀ་の前半部分で、

ja.wikipedia.org

ツェリンはツェリン・オーセルをまず見ましたが、チベット語が併記されておらず(漢語名も、使用する漢字が異なっている)ほかをさがすこととし、

ja.wikipedia.org

ブータンの元首相ツェリン・トブゲཚེ་རིང་སྟོབས་རྒྱས།の前半が一致していたので、使いました。

しかしまあཚེ་རིང་ནོར་བུ། で画像検索してもなかなか作者写真が出ないもので、やきもきしました。

だれこの少年みたいのがいちばん上に来ます。チベット語はページ翻訳も出来ませんので、それぞれのウェブサイトの意味も分かりません。

右上の写真は、本書収録の、別の作家さんだったような…

やっと出てきた。この次のページでは、ダラムサラ側の誰かも出ます。

初出は2006年の西藏文学。ペマ・ツェテン監督「ひき殺された羊」の、ふたつある原作のうちのひとつだとか。その映画は、岩波ホールから巡回のチベット映画特集に入っておらず、見てません。岩波ホールさいごの戦い、チベット映画特集。

youtu.be

お話としては、トラックドライバーが、途中で乗っけた男の復讐譚のようで、しかし全然復讐の元となった事件のあらましも何も語られず、男の行方もまた、という話。愛はかげろう。〈萨嘎〉という地名はチベットの地図でよく見るのですが、行ったことはなく、検索するとシガツェの行政内なので、あれあれこんなに近いのかと思いました。

ja.wikipedia.org

www.google.com

サガは、小説を読むと、青海の玛多のように公道から道をそれて一本道を少し行った先に街が作ってある*1ような感じですが、グーグルマップで見ると、公道から一本隣の道路に入るだけでメインストリートなので、公道に沿って作られた、トラックストップ発展型の街だと分かります。羊飼いがいて毎日コルラに行くお寺もあるようですが、山裾のほうにある建造物のどれかがモナストリーなのでしょう。川のほうにでっかいソーラーパネルがあるのが目を引きます。小説に出てくる視線飯屋、否四川飯屋が地図に出るレストランのどれなのか見ようと思いましたが、VPN遮断のグーグルマップに書き込みがあるはずもなく(でもなぜかレストランやホテルがそれなりに載ってるのは不思議)てきとうな〈菜館〉をクリックすると、自動で「ベジタブルショップ」と英訳してくれて、笑いました。

復讐者の男はカムバなのですが、この小説では「カンパ」と訳されています。海老原志穂サン訳。『翼よ、白い鶴子を貸しておくれ』では「カムパ」でしたので、訳者が変わると、「m」音の表記も変わるのかと思いましたが、星泉サンのほかの小説で「オンマニペメフン」(フムでなく)と書いてあったりしましたので、会の中で「m」音表記のルールを変えたのかもと思いました。以上

【後報】

私が打ち込んだ『チベット幻想奇譚』の、チベット文字がいちぶ違ってるとご教示頂きましたので、つつしんで訂正します。まだほかにもあるんだろうなあ。

✖: བོད་ཀྱི༌འདྲེ༌སྒུང༌ངོ༌མཚར༌གཏམ༌ཚོགས།

○: བོད་ཀྱི༌འདྲེ༌སྒྲུང༌ངོ༌མཚར༌གཏམ༌ཚོགས། 

 

トッホッホ。(2022/11/16)