『酔』(日本の名随筆 66)読了

日本の名随筆 (66) 酔

日本の名随筆 (66) 酔

収録一覧
http://www.sakuhinsha.com/essay/9664.html
あとは後報で。
【後報】
日本の名随筆シリーズ別巻の「酒場」*1をまず読み、
巻末のシリーズ既刊に、ほかにも酒がテーマの巻があったので、
借りました。この本以外に、あと2冊あります。
日本の名随筆 (26) 肴

日本の名随筆 (26) 肴

日本の名随筆 (11) 酒

日本の名随筆 (11) 酒

この後、講談社文芸文庫の、吉行淳之介編だったアンソロジーも読む予定ですが、
相当ダブってる予感がします。

頁18 高橋義孝「夜更の酒と雲」
 人が寝鎮まって、家の中が森閑として物音一つしない真夜中、台所でひとり冷酒をコップで飲む味ッたらないと師匠は言う。全く同感である。私も深夜の台所のコップ酒の味はよく知っている。相当飲んで、これならもう寝られると床に入り、いい心持ちで寝入るが、真夜中にふと眼が覚める。その時は自分では、全く素面に戻っているつもりなのである。恐らく本当に素面の自分から見れば、真夜中にふと眼を覚まして、全くの素面だと思っている自分は決して素面なんかではなくて、かなり酔っているのであろう。しかし眼が覚めると、もう寝つけない。床の中でもぞもぞしながら、台所へ行って一杯飲もうかと考える。そしてそっと床から匍い出して、台所の椅子に坐って、冷酒をコップで一杯飲む。あたりはしんとしている。頭の中も空っぽである。ただ一つだけ全身全霊で感じていることは、何かしみじみとした情緒である。いつもより深いところに身を置いているという感じである。一種の深さの味わいである。

アルコール血中濃度が濃い状態を平常と身体が誤認識するから、
アルコールが分解されて、血中濃度が下がると目が覚めて眠れない、
所謂アル中の不眠という奴なのかと思いましたが、
そうやって分析されるのも寂しいことです。
この文章の後半は、そうして見上げた夜更けの十三夜や星の美しさですが、
それは酔っていなくても、しょんべんに起きるだけでも見ることは出来ます。
頁20で立原正秋は、酒に関しての古文、徒然草百七十五段を紹介しています。
はてなダイアリーに現代語訳されてる方がいらっしゃいましたので、トラバします。

http://d.hatena.ne.jp/tsureduregusa/20090709/1247124510

頁69 内田百輭「我が酒歴」
酔ふのはいい心持だが、酔つてしまつた後はつまらない。飲んでゐて次第に酔つて来るその移り変りが一番大切な味はひである。

酔ってしまった後はつまらない。本当です。

頁98 秦恒平「猿酒をぬすむ」
「よほどお好きですか」と聞かれることがある。
「旨い間だけ、好きです」と返事をする。
 量では飲まない。酒と折り合い、話し合いで飲む。もうこの辺でとか、今日はこの辺でとか、酒の方で気をつけてくれる。気は機だと思って礼を言って盃を置く。原則である。原則は時々破られる。破った時の酒が格別旨い。しかし、あと味は苦い。

苦いで済まなくなると、大変だと思います。
頁54河上徹太郎は、吉田ケニチさんとの対談*2でちらっと言っていた、
警察のお世話になった問題飲酒について書いています。
毅然を、必ず「キ然」と記してる。自らの態度の描写。キ然、キ然。
頁185開高健で、陳舜臣のけっこうエゲツない博学とロジスティクスが出てきますが、
本人が描いた頁191「夜光杯」はどこまでも冷静かつきれいな話。
タラス河畔の戦いとか出てくる。中華文人のオモテウラでしょうか。*3
久里浜院長の回顧録*4はあまり患者のエピソードを語りませんが、
この本の頁221なだいなだ「忘れえぬアル中たち」はそれを補っています。
海外ネタで、稀代の否認演技者まで登場させている。

あと二冊、ゆっくり読みます。
(2014/3/18)