『酔っぱらい読本・伍 -A BOOZE BOOK 5-』読了

酔っぱらい読本〈5〉 (1979年)

酔っぱらい読本〈5〉 (1979年)

初版を読みました。
これまでの本より、カストリ時代の記憶や、厭酒の傾向が強くなった、
気がします。飽和すると、そうなるのか。
私が今の生活になってから読んだワインズバーグ・オハイオ*1や、
パヴェーゼ*2が収録されていて、おおっ、と思いました。
次巻にはモラヴィアが収められているとの由。モラヴィアは、生活が混乱しだした頃に、
読んだ作家です。あと、飲めない人の文章も適度に散りばめられている。

頁99「酒」金子光晴
義弟のKなども、酒でいのち失っている。上水の上、萩山の近くに家があり、上水が両岸から草をかぶって水がみえないので、ある霜月の夜、そのまま我家にかえってしまえばよかったのに、のみ足りなかったとみえて、その水にはまりこみ五日たっても、十日たってもゆくえがわからなくなった。遂に、警察で川ざらえをすることになったが、水をせきとめてみると、外套を頭の上から逆に引きずって、ひどくながくみえたので、はじめは、駐留軍の兵士かと思ったが、ひっくり返すと、まぎれもなく彼だった。そればかりでなく、その時おもいもかけない別人の水死人が五人もみつかった。

金子光晴は吞めないとのこと。

頁116「泥酔懺悔」獅子文六
 もう、一生、泥酔する機会がないのかと思えば、寂しくならずにいられない。
 泥酔は不徳であり、バカであるなぞと、考えるのは、私の負け惜しみらしい。米内光政とか、水上滝太郎とかいう人は、生涯に、泥酔することがなかったらしい。真に、酒に強いのである。

獅子文六は、飲めなくなった人。

頁173「うれしうましの柳家小半治」安藤鶴夫
 戦後、寄席の楽屋にヒロポンが流行したことは凄いようだった。
(中略)
 ポン中でないのはまず志ん生ぐらいなものかといわれた。アル中だからである。
 しかし、小半治みたいなポン中は、広い日本にもまず一人もあるまいといわれた。ポン中というものは、みんな自分の金でポンを買い込んで、それでポン中になるのに、小半治だけはまるッきり自分ではポンを買わずに、一本残らず仲間からただで注射して貰ったそのポンでポン中になったというのである。

小半治というしとは…知らない。吉行淳之介自体が、本巻収録作品は支離滅裂だわ、
あとがきは田村隆一ばりに辞書からの引用で大半埋めて、悦に澄ましてるわで。

なだ いなだのこの小文は、たぶん前にも読んでるのですが、前は感銘を受けなかった箇所が、
今回はすっと入った。出だしは、パパのおくりもの*3のあの語り口で、
青い目の嫁は連れてくるなと親に言われたが緑の目の嫁なので約束は破ってない、
というあの名出だしを思い出しました。

頁209「忘れえぬアル中たち」なだ いなだ
過去の失敗を声高に話すことの出来ないアル中を、パパは、信じることが出来ない。

この部分、以前は、理由が、ちょっと違うな、と感じられ、わだかまりがあったのですが、
今は、理由は兎も角、事実として共感出来ると思ってます。
一般論や、他人の話、関係ない話しか出来ない人は、否認の病ですし、
苦しんでるんだな、とは思いますが、信じるか信じないかでいうと、信じられない。
他人の話の、混乱してる時期が一番面白いとか、そういう批評しかしない人に、
空いた口がふさがらなかった。話す理由はなだと違えど、大切さに変わりはないです。

私はこの人の『民族という宗教』がキライなのですが、
個=普遍という学問、心理学を学んだからと思ってました。が、
スカーフ論争の頃はまだ、自由博愛平等のフランスの革命理念理想を、
彼らは建前上守ろうとしてるんじゃいかと思っていたのが、シャルリで完全に鼻白み、
そんな国で学んだからじゃねえかと最近は思ってます。

で、この話で、断酒会が出てくるのですが、全く記憶から抜けてた。
出てたんだあ、と改めて認識した次第。

この後、ラスト、徳川夢聲「あなたも酒がやめられる」とチャールズ・ラムが、
たたみかけるように攻めてきます。アダリンは知らなかったので検索しました。

アダリン - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%80%E3%83%AA%E3%83%B3
Yahoo!知恵袋
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1372887028

徳川夢声の7回の入院と数々の大事な仕事スッポカシ、記憶欠落、
離脱は何時間耐えれば乗り越えられるかみたいな自己基準の体験談、
自分は禁酒でも断酒でもない、停酒である、みたいな、よく分かるあの、
ひとりよがりのこだわり。そして、チャールズ・ラムは、1813年に、
回復するというのか! もし心に願えば、あの青春の日が再び戻ってくるものならば、
と書き、

頁249「酔っぱらいの告白」チャールズ・ラム
 しかし、全面的な禁酒と、生命を縮める大酒の間に中庸の道はないものであろうか。――私は読者のために、そして読者が私の体験を二度とくりかえさないために、私は苦痛をたえしのんで恐るべき真相を告白しなければならない。――中庸の道はない。然るべき中庸の道は見つけえないのだ、と。

1813年、十九世紀に人類はここに到達してて、二十一世紀にまだ超越しえない。
あと二冊、このアンソロジーはどこに向かうのか、ちょっと予測不能です。

で、全然関係ないけど、複数作家の戦中中国行きのエピソードに、
奥野信太郎が登場してるので、あーまた奥野信太郎読みたい、と思いました。

奥野信太郎 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%A5%E9%87%8E%E4%BF%A1%E5%A4%AA%E9%83%8E

<目次>
町には飲み屋が
"There is a Tavern in the Town"
フレデリック・アレクサンダー・バーミンガム
(Frederic Birmingham)
 小池滋訳・作者紹介文
失敗/酔漢
小林秀雄
酒についての意見
伊藤整
酒のたしなみ/吹けよ川風
中野好夫
ゴーシェ神父の養命酒
"L'Élixir du révérend père Gaucher"
Wikipediaでは、流石に養命酒ではなく「保命酒」の造語を当てている*4
(『風車小屋便り』"Lettres de mon moulin"より)
○アルフォンス・ドーデ(Alphonse Daudet)
 村上菊一郎訳・作者紹介文
ヒト――短絡反応
小松左京
酒と雪と病い
高橋和巳
贋訳陶淵明(詩二篇)
富士正晴
千載一遇
阿部昭

(『ワインズバーグ・オハイオ』"Winesburg, Ohio"より)
○シャーウッド・アンダソン(Sherwood Anderson)
 小島信夫・浜本武雄訳 後者は作者紹介文も

金子光晴

遠藤周作
泥酔懺悔
獅子文六
酒飲みのおきて
池田弥三郎
札幌の一夜
田久保英夫
酔いどれの老婆(詩二篇)
"LA VECCHIA UBRIACA" "INDISCIPLINA"
チェーザレパヴェーゼ(Cesare Pavese)
 川島英昭訳・作者紹介文
千日酒
阿川弘之
川端さんと女優と酒と/ビールを、もっとビールを
○矢口純
うれしうましの柳家小半治
安藤鶴夫
禁酒番屋古典落語
桂文治
 結城昌治作者紹介文
水の中には小さな蛙がいる
"Introduction of WINES OF FRANCE" 邦題は文中の一節より。
○アレクシス・リシーヌ(Alexis Lichine)
 山本博訳・作者紹介文
忘れえぬアル中たち
○なだ いなだ
あなたも酒がやめられる
徳川夢声
死んだ兵隊さん
吉行淳之介
酔っぱらいの告白
"Confessions of a Drunkard"
⇒初出時は匿名、のち本名で別誌再録
○チャールズ・ラム(Charles Lamb)
 平井正穂訳

『酔っぱらい読本』(講談社文芸文庫)読書感想
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20140524/1400886624
『続・酔っぱらい読本』 (講談社文芸文庫)読書感想
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20140530/1401428920
三冊目
 ↓

『酔っぱらい読本・壱 -A BOOZE BOOK 1-』読書感想
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20160120/1453243870
『酔っぱらい読本・弐 -A BOOZE BOOK 2-』読書感想
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『酔っぱらい読本・参 -A BOOZE BOOK 3-』読書感想
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『酔っぱらい読本・肆 -A BOOZE BOOK 4-』読書感想
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20160305/1457187484

奥付にない共同編集者_徳島高義 Wikipedia
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イラスト:佐々木侃司https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E3%80%85%E6%9C%A8%E4%BE%83%E5%8F%B8
以上