『絆』 (双葉文庫―日本推理作家協会賞受賞作全集)読了

絆 (双葉文庫―日本推理作家協会賞受賞作全集)

絆 (双葉文庫―日本推理作家協会賞受賞作全集)

ほかの方の日記で知った小杉健治の法廷もの(代表作?)
カバーデザイン 菊地信義
カバーフォト 瀬尾明男
解説 山前譲
もともとは昭和62年(1987年)集英社書下ろし刊。
双葉社版は2003年ですが、集英社版を底本としており、
表現に関わる諸点は、原本尊重を基本とした、との全集刊行方針により、
現在の知的障害が、1987年当時の用語、精神薄弱となっています。
昭和三〇年代の、当該福祉の情況を1987年から顧みる構造の小説なので、
その後の進捗を解説などで或る程度分かるようにして頂くとよいと思いました。
当時のことばを尊重する意図も分かりますし、普段は私は執筆当時の文言を尊重するですが、
紙版がアップデート出来ないのはツラいな、と初めて思いました。

知的障害 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A5%E7%9A%84%E9%9A%9C%E5%AE%B3

頁222
「正月に、寛吉が戻っていなかったこともあります。養護施設に入所すると、正月も家に帰してもらえないのか、と寛吉の父親にきいたことがあります。しかし、父親はさびしく笑って話をそらしました。そのとき、へんだなと思ったんです。

正月は施設も施設職員も休暇を取るので、ホームカミングで自宅で家族が面倒を見る、
だから大晦日や元日のイベント(除夜の鐘つきとかおけらナントカとか初日の出拝んだりとか)
には参加できませんあしからず、という知人がおりますので、ここは私も引っかかりました。

現代でも色あせないトピックとして、この小説にも妊娠初期の風疹が登場し(頁142)、
私も抗体検査を受けたことを思いました。(うつしたらいやなので)

<関連日記>
2013-08-05 風しん大流行中!MRワクチン打って赤ちゃんを守ろう
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20130805/1375691245
2014-01-21 風しん大流行中!MRワクチン打って赤ちゃんを守ろう
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20140121/1390300915
2014-03-18 期間延長!風しんワクチンの緊急接種事業を実施しています!
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20140318/1395102046

あとは市橋、という苗字で、実在の長期逃亡者を連想したり、
この弁護士は、なぜここまで信念を貫こうとするのか、
被告は弁護人を解任しようとして、親族の説得で思いとどまり、
真実が明らかになってしまいますが、
罪を受け入れる決意までした人間が、解任を思いとどまれるものだろうか、
深奥の自分の声があったのだろうか、等思いました。

弁護士の台詞で、「〜でしょ?」という言い回しが、
なんか軽いな、と印象に残っていたのですが、
いま、適当な例を探して頁を繰ると、さしてそうは言っていませんでした。
印象に残ったので、頻出の言い回しに見えていたらしい。

それから、本小説は、傍聴席のいち記者の一人称で書かれてますが、
この人の名前は分からないままです。そういう構成もあるのか。

本当に、この弁護士は、なぜここまで信念を貫こうとするのか。
嘘も方便とか、空気嫁とか、和を以て尊しとなすとか、どこ吹く風ですが、
弁護士本人にもダメージあるのを正直に描いてるだけに、謎です。
以上