『いかしたバンドのいる街で―ナイトメアズ&ドリームスケープス 1 』読了

装画 藤田新策 装幀 坂田政則

ピーター・へイニング編纂の自動車ホラーアンソロジー『死のドライブ』
の読書感想*1を書いた時、コメント欄で推薦頂いたステファン
スティーヴン・キングの自動車もの『ドランのキャディラック』が収められた本。
実はまだ前半戦で、上下二段組活字で量が多いので苦戦してます。

文庫化されてるのですが、地元の図書館は単行本派ですので、
単行本で読みました。地元図書館は別に文春に忖度したわけでなく、
斟酌しただけです。否、鑑みただけです。否、
単行本のほうが痛みにくいし、文庫で買い直すのも税金のアレだからかと。
それに対し、文庫派図書館の言い分は、蔵書スペースあらへんねん、じゃいかと。

アマゾンレビューでも奥歯にものの挟まった物言いがあるように、
長編ホラーの巨匠S・キングだからこそ、キレのいい短編はムズいのかと。
かといって、ぜんぶお蔵入りにすると、あこの御仁は、恥ずかしいいうて、
隠しよんのどっせ、と陰口叩かれるでしょうから、ワシなんも隠してへんで。
かつ、ワシもうおぜぜには困ったらへんのやし、これのために出すんちがうで。
ホンマにアカン、しまいこまなアカン作品以外は、公明正大に、
出します出しますいう証拠にこないして出版すんのやぜ。わかっとんのかドアホ。

みたいな本です。ドアホっちゅうのは私の付け足しですけど、
金にはもう困ってないいうのはホントに序文に書いてある。

頁12 序 永井淳
「結局、短編を書いて稼ぐ金を、もう昔のようには必要としないんだろう?」
 そのとおり、四千語ほどの短編を書いて受けとる小切手で、子供の中耳炎のためのペニシリンを買ったり、家賃の足しにしたりした日々は遠い昔になってしまった。しかしこの論理は間違っているどころか、危険ですらある。では長編を書いて稼ぐ金はどうかといえば、それさえかならずしも必要ではない。金だけのことなら、わたしはパンツを釘にかけてシャワーを浴びるか……カリブ海のどこかの島で日光浴をし、指の爪をどこまでのばせるか実験しながら余生を送ることもできる。
 しかしゴシップ雑誌がなにを書こうと問題は金ではないし、それよりさらに尊大な批評家たちが本気で信じているらしく見えるように、本をベストセラーにすることでもない。時がたっても基本的なことはなにも変らないし、わたしにとっての目的は変っていない――わたしの任務は、忠実な読者よ、今もなおあなたに呼びかけること、あなたの心をとりこにして、願くばトイレの電気をつけっぱなしにしなければ眠れないほどこわがらせることである。
(後略)

で、ドランのキャディラックですが、一心不乱に、
ぶっ倒れるまで何かやってしまう人というのは、
実はそういなくて、一見そう見える人、そう豪語する人も、実は、
ぶっ倒れるまでやっても絶対に終わらないのが事前に分かってると、
見て見ぬふりをしてトンズラこいたりするものです。
で、見て見ぬふりが素面で出来ないから飲んだりラリったりしてね。
そこは妙に真面目といえば真面目なのか。
とまれ、なんでもやるかというと、実は根気仕事は続かない。
そういう人がこれを読むと、復讐のためやり遂げようとするけれども、
人間は不老不死ではないので、限界にいずれ到達する。
そのあたりで悲鳴に似た心の叫びをあげるかも。ダレカタスケテー。
助けたのは上司です。誰もかれもがブラック企業パワハラサディストでは、
ないんだよ。そこまで思い詰めて頑張る人間を、応援したいのさ。
という展開。ここはよかったです。

でも結局は、他人を巻き込むリスクを鑑み、個人作業でやります。
これだけ時間がかかると、誰かに見つかって、おじゃんになるべー。
と思いました。ちょっとご都合かな。

Nightmares & Dreamscapes (English Edition)

Nightmares & Dreamscapes (English Edition)

以下後報
【後報】
<セットリスト>
「序 神話、信じること、信念、そして
 『リプリーの信じようと信じまいと!』」永井淳
"Introduction : Myth, Belief, Faith, And "Ripley's Believe it or Not!"

Ripley's Believe it or Not

Ripley's Believe it or Not

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/9/9e/Ripley410112.gif
https://en.wikipedia.org/wiki/Ripley%27s_Believe_It_or_Not!
⇒私もパトリシア・ハイスミスリプリーシリーズは大好きなので、
 それかなと思ったら違いました。贋作。
『ドランのキャディラック小尾芙佐
"Dolan's Cadillac"

⇒がいしゅつ
『争いの終るとき』永井淳
"The End of the Whole Mess"

頁72
昔、『簡略版風と共に去りぬ』というとてもおかしな一篇を読んだことがある。おおよそこんな調子だ。

「戦争ですって?」スカーレットは笑った。「くだらないわ!フィドル=ディ=ディー
 ドーン! アシュリーは戦争へ! アトランタは焼けた! レットが登場し、やがて退場した!
「くだらないわフィドル=ディ=ディー」と、スカーレットは涙を流しながらいった。
「そのことは明日考えよう。明日は明日の風が吹くのだから」

fiddle-de-dee - Oxford Dictionaries
https://en.oxforddictionaries.com/definition/us/fiddle-de-dee
『幼子よ、われに来たれ』小尾芙佐
"Suffer The Little Children"

諸星大二郎の作品では『子供の遊び』が好きだ、と言った中学生の、
 その時の気持ちが知りたいとふと思うときがあります。
『ナイト・フライヤー』浅倉久志
"The Night Flier"

⇒わかりやすいパニックホラー。
『ポプシー』山田順子
"Popsy"

⇒分かりやすいシニカルホラー。
『丘の上の屋敷』白石朗
"It Grows On You"

⇒シャーリー・ジャクスンとは何の関係もない、
 分かりやすいヰタ・セクスアリス。おっぴろげ。
『チャタリー・ティース』永井淳
"Chattery Teeth"

頁181
 こういう街道筋のちゃちな動物園で飼われている蛇は人間を殺す力はない。週に二度ずつ毒を搾りとって、血清を作るクリニックに売っているからだ。アル中患者が火曜日と木曜日に血漿バンクへ血を売りに行くように、彼らも間違いなくそうする。

『献辞』吉野美恵子
"Dedication"

⇒花村🌕萬月のエッセーで、「ごっくんプリーズ」
 って言ってくれたら、飲んだげる、
 と笑う風俗嬢の話を思い出しました。
『動く指』永井淳
"The Moving Finger"

古谷三敏の『手っちゃん』と壁男足して二で割ったような話だな、
 と思いました。『手っちゃん』は先行する電子まんがで出てるせいか、
キンドル版がまだないみたいです。
https://www.ebookjapan.jp/ebj/4122/
https://www.cmoa.jp/title/116114/
『スニーカー』吉野美恵子
"Sneakers"

頁291
 それは発売間近のデッド・ビーツのアルバム、<くたばるまでたたけ>からシングル・カットされた曲、テルとジャニングズがシングルなら売れる見込みなきにしもあらずと見てカッティングさせた唯一の曲だった。
「うへっ!」
「そうだろ、けど、おれの頭がどうかしたのかもしれんが、この調子だとトップ・テンにはいりそうだって気がしてきたよ。ビデオを見たか?」
「いや」
「あれは笑えるぞ。グループの紅一点のジンジャーだ。もっぱらあいつが中心で、つなぎを着たドナルド・トランプみたいな男とどこかの寂しい入り江で泥遊びをしてるのさ。

⇒私は若い頃のトランプを知らないので、なんとも。
 あと、若い頃のレーガンも知りません。
『いかしたバンドのいる街で』白石朗
"You Know They Got a Hell of a Band"

⇒そのまんまの話で、表紙の右女性がジャニスなので、
 じゃあ左はジミヘンかな〜、ずいぶん男前だけど、
 あとのふたりは知らへんだ、と思いました。
 ラスボスはあまりに分かりやすいので表紙になってません。
 この話が書かれたころジャイケルマクソンは健在だった、と思います。
以上
(2017/12/6)