開高健は２度、自伝小説への取り組みを行っています。１度目は38歳の時に出された「青い月曜日」。そして２度目は55歳の時、音の記憶をたよりに自らの半生を描いた「耳の物語」。少年時代から学生へ、そして結婚から女児誕生までを描いた「破れた繭」、壽屋入社から芥川賞受賞、ヴェトナム戦争、そして現在までを描いた「夜と陽炎」の２巻で構成されている長編小説です。冒頭には執筆の動機として「考えあぐねて月と年をかさねるうちに、やっと、耳だけはとりのこされているのではあるまいかと思いあたり、耳から過去をとりだしてみようと思いたった」と記されています。今回は、この作品の直筆原稿、関連資料を紹介しながら、開高がどのように自身の半生を再構築したか深掘りしてゆきます。
「深掘り」がなければ引き写しませんでした。意味深な「深掘り」
