吉田類が同郷「ハチキン」を評した際、出てきた作家さん。土着ホラー小説の旗手と思ってましたが、意外やイタリアに造詣が深いそうなので、それだけまとめて読もうと借りたうち、混ざっていた児童書です。読んだのはあかね書房の単行本。
もともと児童文学でデビューされた方で、ウィキペディアから推察するに、この本は最初の単行本。
児島なおみ画 左の絵は、サダコとナダの生一本ではありません。
見返しに手描きのミラノ地図。なんというかなあ、勝手に探しくされ、ってな感じで、登場する地名が何処にあるかは分かりません。しかしまあ、北京の城内地図で北京大学を探そうとしてもないのと同じで、主人公の下宿や学校が市内の中心街にあるわけないので、ならこの縮尺で描くなという感じ。
目次と標題紙のあいだに手描きのイタリア全土地図。といってもざっぱくなもので、ジュージー(ジュゼッピーナ。男性形でジュゼッペは、イタリアでいちばん多い名前、と、昔買ったイタリア語会話帳に書いてありました。二番がシニョーリだったかな)(修道院の受付のジュージーとは別人)という押しの強い女の子の郷里カラブリアの場所が描いてあったりはしません。ジョージ・ギッシングの南イタリア紀行では、マラリアがまだあったとこだよん、くらいの知識をよそで得ればいいのではという。
でも、イタリア以外の国が描いてないので、アドリア海のむこうはアラン・ドロンの国、旧ユーゴだよ、とか、シチリアはホントにチュニジアに近い。そりゃ難民チャーター船なんぼでも来ますわ。とか、いろいろ余計な雑談の糸口を得ることは出来ません。
<以下グーグル地図検索>
緑のストッキングのごうつく大家がいる、最初の下宿コルマーノ
ミラノ工科大学
ブレラ美術学院
本書は漢字こそ手控えてかな文字を多用してますが、それ以外は一切手加減なしに、作者の二年間のイタリア滞在をなるべく直球で書いています。
土佐の女の彼女が奈良で四年間住居学を学んだあと、そのまま設計事務所に就職したくなくて、長期休暇に二度旅行した欧州の、行ったことはないけどいい加減で楽しそうなイタリア留学をコーソウするくだり。
公費は受かりそうにないのでてっとりばやく私費で行き、九月入学なのでそれまで、公費イタリア帰りの京大卒ばかりの事務所でバイトする話。ここまでで、如何にイタリア人がズボラでいい加減かというエピソードが、作者以外の口からふたつくらい語られます。
渡航後は、ジプシーの物乞いとドロボーの多さに警戒し、南イタリアのほうがイタリアイタリアしていて、そのディープさが怖いので北イタリアのミラノを選ぶ打算。イタリアの外食は高いという話。
大家との軋轢。クリスマス休暇にクラスメートに、地方都市の実家に招かれて普通のイタリア人の生活を体験する留学生あるある。
けっきょくことばが話せないので、日常会話や、旅先でキスして来る男やポケットに手をつっこんでくる女との罵詈雑言合戦は上達しても、講義のイタ語は聞き取れないままというかなしさ。現地邦人社会と、街で知り合ったオッサンたちとの間で過ぎてゆく日々。
「風」をテーマにしたエッチングが出て、意味深に書かれた後、謎解きがないです。なんでだ。
そんでまあ、これ以上滞在でけへんで終わる話で、あかね書房のこのシリーズは、旅する話が多かったのでしょうけれど、やっぱ滞在のほうがいいよね、ってことで、この後続刊がどうなったか知りたいですが分かりません。
ぱっと見て、既刊執筆者は、魔女宅とたかしよいちしか知りませんでした。庄野潤三のお兄さんがトップバッターで、この人は大陸に兵隊で行ってるのに、スリランカなのかと思い、その著書の中から、中国の話があるかもしれないと思う本を少し読んでみます。
以上