『サトコとナダ (1) 』(☆星海社COMICS)読了

 これはそのへんにあったのではなく、話して読ませてもらったものです。

サトコとナダ 1 (星海社COMICS)

サトコとナダ 1 (星海社COMICS)

 
サトコとナダ(1) (星海社コミックス)

サトコとナダ(1) (星海社コミックス)

 

Book Design:円と球 フォントディレクター 紺野慎一

編集担当:林佑実子 監修:西森マリー

ツイッターアカウント『ツイ4』と星海社ウェブサイト『最前線』に2017年1月~7月掲載分を加筆修正・再編集書籍化

ボーナストラックは、ナダが何故ムスリマコミュニティ以外でルームメイトを募集したか、について。アメリカで一人暮らしをしていて、なんでもないことにぽろっと涙が出て来るようになったりして、そんな時ハディースの真正集というのの「リカーク15」という個所を読んで、心が満ち足りることについて思索し、その欲求は新しいチャレンジによってもたらされるのではないかと考え、それでそういう行動に出たと。勿論サトコ以前に数人に内見段階で断られています。

ja.wikipedia.org

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「リカーク」というのが何処か現時点では分かりませんが、中公文庫から全六冊で(おそらく採算度外視で)刊行されてるそうなので、読んで探してみるのも、ひとつ時間を有効に使う手かも。イスラム教関連の項目のウィキペディアはぜんぶ上のマークがついてるのかな、読めませんが。

第一巻なので、作者の試行錯誤のあとが見てとれます。四コマだから起承転結にしなければならぬとの怨念にとりつかれた数回とか、頁50上のコマのように、既成の別の日本漫画の表情に影響された顔を書いてしまった回とか。ツイッターで連載だと、反響も即時だしダイレクトだし、大変だろうなあと。吉祥寺あたりでただ生きてる高齢漫画家集団が活きる喜びを得るためにツイッターまんがを始めて、三日で更新しなくなるのを見てみたい気もします。

第一巻だからか、思ったよりアメリカネタも多いです。頁53の、日本とアメリカのスタバの違いとか、頁26の肉を薄く切る回とか。中国ネタで恐縮ですが、涮羊肉ネタで行くと、肉は凍らせると簡単に薄く切れます。たぶん。そして、見知らぬ人に声かけられて車に乗ってアウトという、女子留学生にとっての奈落、陥穽が頁27から始まり、頁55で同様の目に遭う米国人女学生を助ける場面があります。この人だいぶキャラも年齢も変わったなと。

ムスリムの話では、頁57の、女性はモスクには行かない、行く時は香水をつけてはいけないという話、中国の清真寺とかパキスタンだとどうかなと思いました。アラビア半島の話かも知れないです。女性の免許の話も、サウジのみと注釈があとづけ?でついてる。頁82、コーランの開きっ放しは悪魔がツバをはきかけるからNGとは知りませんでした。"不准随地吐痰,关注“行为文明”的建设"とコーランのカバーに書いたら通用するか。頁86、マーシャアッラーの場面。旅行者がインシャアッラーを覚えてしまうのは、皮肉な時に使ったり相手をやり込める時に使ったりもするからだろうと。作者と主人公がマーシャアッラーを覚えて、インシャアッラーは四巻の終わりの方でないと出てこないのは象徴的だなと。頁10、男性の人名にモハメドとアブダーラが多すぎてアラブ人女性も区別ついてない件。アブドゥーラとかアブドゥルではないんだと思いました。モハメドは確かに。あとハッサンとかアリとか。

そうした主人公のよい特徴が頁64にあり、なるほどなと思いました。なんとなくですが、主人公はスポーツ留学ではないかという気もします。高身長で、体脂肪が少なそうで、当初は髪もパサパサで、日焼けしていて、(日本で身長の高い女子がそうなるのか)猫背だったという描写と、女子教育に体育がないサウジから来たので恥をかくのをおそれて運動したがらないナダをジムに誘う場面で、そう思いました。ヒジャブの下だから余計髪はお手入れするというルームメイトの影響で、髪もしっとりしてきて、米国で歩いているから背筋ものびてという。日本人コミュに入りそびれてそのまんまという展開(ぜんぜん不都合なく、こまらない)も、実はアスリートなんじゃないかと思う根拠のひとつです。水シャワーだけのアパートに住んだオランダ時代の本田圭佑みたいなもんで、いらないものはいらないかと。

頁98、主にカルダモンで調理されるアラビアコーヒーは飲んでみたいです。トルココーヒーは濃いのにアラビアコーヒーは薄いんだとか。

頁107、しょうゆのハラル認定で一回使っているのが生活実感としてこのましかったです。食費折半の異文化共存だからトピックになる。

そう、ルームシェアまんがの最初の一巻だから、百合にいきそうな気配も濃厚に感じましたが、それも途中でうまくバランスとった。インドネシアやマレーシアのイスラム女子と日本女子の友情みたいな番組みてると、ちょくちょく、そういうふうにも使われそうだなと思うので。

頁93、ベーグルは牛乳や卵を使用しないので、どんな宗教の人でも食べられる安心食材とあり、考えたのはユダヤ人さ、と思いました。相模大野の銭湯の隣のベーグルパン屋、やってるのかどうか。

ケビンくんという、日本アニメ好きな男性が、そうかなあとは思ってましたが、日系三世とはっきり書いてあって、へーと思いました。中国系や韓国系と明かされてたら、どういう感想を自分は持ったか。頁80のネタは、今の若い人も分かるんですね。すごいものだ。パヤオ

邦人のよいところとして、いちばん感動したのが、頁68、日本人はFBの宗教欄になんと書くか。"THIS IS NIHONJIN"と思いました。こうでなくちゃ。でも韓国人も中国人もこういう洒落はやりそうな気がします。

頁16で、米国人のこどもに「チーニ、チーニ」と、細い目を吊り上げる動作でからかわれた体験や、みんなにぱっと見られる場面があります。ヒジャブのナダとふたり行動だと、ひとりでは入りづらい店にも、入れる。日本人同士より、アラビア人同士より、行動の幅が広くなってる感があって、これがわりと最初の回にあって、わっときたのかとも思いました。

止まってくれないバスが実は異文化相互誤解だったりとか、で、それが、スマートに解決されてゆくくだりも印象深かったです。そうやって進むと、いい留学生活だなと。以上