トレース・シリーズ『チコの探偵物語』TRACE Series No.6 "TOO OLD A CAT" by Warren Murphy(ハヤカワ・ミステリ文庫)読了

 チコの探偵物語 (早川書房): 1989|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

カバー・吉田秋生 読んだのは1990年12月31日の三刷 写真は来月(予定)

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 裏表紙

あなたに愛想がつきたの。無気力、無味乾燥。もうたくさん――愛しのチコのまさかの別れ話に、さすがのぐーたらトレースも愕然となった。このままでは、わが人生の唯一の成果を失うことになる。だが、どうしたらいい? 助け舟はニューヨークからやってきた。私立探偵のライセンスをとり、探偵事務所で働けというのだ。話をもちかければ、チコも大乗り気、拳銃とトレンチコートに憧れ、あっけなく承諾した。こうして探偵稼業が始まったのだが……毒殺事件をめぐり、丁々発止、プロの刑事をわたり合うにわか探偵たちを新趣向で描く新作! 

 新趣向はいいのですが、訳者あとがきにあるとおり、お話の半分が、イタリア系刑事と黒人刑事の相棒のストーリーで、軽妙すぎる会話がまったく同質なので、そこに困惑してしまいます。同じテンポで進めたかったのでしょうけれど、主人公の父も、似たようなものですし。なんでみんなギャグをかましながらでないとしゃべれないのか。主人公の母(主人公の恋人とウマがあわない)と、電話の音声でだけ登場する主人公の妻だけ、ちょっと違うかな。

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 本書頁65を筆頭に、「ビリンチ、イキンチ、ウクンク、ドルドゥンク、ベシンチ、アルティンチ、イェデンチ」「セキジンチ、ドクズンク、オヌンク、オン」と、トルコ語の1から10迄の単語があちこちに出るのですが、これが間違っています。ンチ、とかつかない。だいたい上の数は10個でなく11個だし。ンチ、とか、ンク、とかつくので、ドイツ、もしくはスラブ諸国のてきとうなトルコ語教材を参考にしたと思うのですが、正しくない。

頁166、健康食品と書いて「グラノーラ」とルビを振っています。この当時はまだそんな感じだったのでしょう。でも私もグラノーラが何か、正確なところ知りません。シリアルかな? てなくらいです。

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頁188、黒人いじりで、現在からすると、……な感じなギャグがあるのですが、頁304でイタリア人も逆襲されてますので、ぜんぶ読むと、なんとなく、バランスとったな、と思うのですが、一部だけ抜き出してしまうと、印象操作で、あーなんだこれ、となるという。こういうことは世紀を跨いで起こるのか、今世紀に顕著なのか。

頁353、ペドロ・ゴンザレスは良くいる名前だが、いまどきブッカー・T・ワシントンなんて名前いない、ムハメドなんとかならいっぱいいる、というくだり。ブッカーでなくブッチャーではないかと思いましたが、分からないです。

頁249の「タフ横町」は原文を探してみたいです、時間があったら。詩の文句らしい。

訳者あとがきで、翻訳、ダジャレの翻訳の苦労について触れてますが、ほんとに大変だと思います。でもうまい。外交は外で交わるからやばいとか、原文ぜったい違うでしょうが、よく考えたと思います。それにとどまらず、いろんなキャラの喋り方、チコという日伊ダブルの女性の喋り方など、よく考えていると思いました。役割語っぽいのは、あまりワルノリが許されない黒人刑事くらいかな。

以上です。

Too Old a Cat (Trace Book 6) (English Edition)

Too Old a Cat (Trace Book 6) (English Edition)