写真(カバー・目次)新津保建秀 装幀 関口聖司 イラストレーション 北村治
初出は「オール讀物」2013年2月号。2013年6月号と7月号。2013年9月号と10月号。2013年12月号から2014年2月号まで。前巻で一回シリーズ終了したのを、また再開した巻のようです。主人公の年齢が29歳に設定されていて、これ以降結婚させないと、ギリの線を超えてゆくのかなあと思いました。だいじなだいじなボーダーライン。
目次頁部分
最初の話『北口スモークタワー』は、現在の危険ドラッグが脱法ハーブと呼ばれていた?時代のはなし。合法ドラッグ>脱法ドラッグ>危険ドラッグと呼び名を変えて来た(変えるよう認識を変えた)気がしますので、脱法ハーブだったかなあ、って感じです。合成カンナビノイドということですが、それだけだったとは、現在から省みて、ちょっと考えづらい気もします。フィリップ・K・ディック『暗闇のスキャナー』で、いっしょうけんめい大麻はナチュラルだからーと言いながら、プッシャーからヘロインのまざった大麻をつかまされて耽溺してるティーンエイジャーの女の子の場面を思い出します。このシリーズは、チーマーから半グレになる組織が、そんな性善説なわけなかろうが、と思ってしまうことがあり(作中のヤクザも然り)本作もそうです。
次の『ギャンブラーズ・ゴールド』はパチンコ依存のはなしで、頁108「打たない一日」が救済。そんな個人のカリスマを出さなくてもいいのにな、と思いました。悪貨は良貨を駆逐するものですし、羊の皮をかぶった狼もいるでしょう。自助グループは、ちょっと有名になりすぎたのかなと思うこのごろ。ジュリア・ロバーツが母親を演じた映画「ベン・イズ・バック」のミーティング場面で、ビギナーのふりをしたバイヤーが接近してくる場面がリアルでした。
次の『西池袋ノマドトラップ』は、カフェの電源スペースを占拠、というか、コ・ワーキングスペースでパソコン一台が職場の人たちの話と、与沢翼ではないでしょうが、秒速で億を稼ぐ男への崇拝、あこがれと、殺し屋イチのふたごみたいな残虐非道なならず者のはなし。主人公のツレのギャングスターがやってる信託投資が、厚切りジェイソンが先ごろ明かしたのと同じ米国のインデックス・ファンドだったので、先見の明があるのかなあと思いましたが、そのページが見つけられません。ほかの話だったかもしれない。
表紙部分
『憎悪のパレード』事前の予想とは裏腹に、もっとも脱力系のはなしでした。ヘイトスピーチになるのかなあ、そういうネトウヨ団体が池袋チャイナタウンをデモする際、何か起きないようボディガードする主人公たち。ヘイトもカウンターも、平等に薄っぺらい存在としてコケにされています。私が口だけでよく言っている、井上日召の一人一殺を主張してハブられて自爆するネトウヨが出ます。こういう人は、現実にはいなさそうと思いました。現実は、日々弱いやつがさらに弱いやつを叩く循環の強化。男なら巨大な敵を討ちなさいよと言われても、ぼくは討ちましぇんとばかり、市民を襲って巨悪を襲わず。
この話は、インバウンド本格化以前の筆だったようで、本格化以降は、右翼の街宣車を沿道の中国人観光客が一斉に写メ撮るような時代になりましたので、こういうふうにはデモれないんじゃいかと思います。カタカナならだいじょうぶルールで「シナ」「シナ人」はデモする側がよく使っています。「恥知らずのシナ人」とか。よく取材したぶん、なさけなさもひとしお。いや、2ちゃんねる見ただけなのだろうか。
ヘイト団体名「中国人を祖国日本から徹底排除する市民の会」略して「中排会」名前に市民が入ってる時点で、右っぽくないのが難点。しかし作者からすると、類似団体がぜったいいないだろうの方向に、わざと左翼的単語を挿入してるのかもしれません。代表は四十代前半の美女。カウンター団体名「ヘイトスピーチと民族差別を許さない市民の会」略称「ヘ民会」そこから分派した武闘派少数民族二世三世集団は、ちょっとリアルさに欠けた存在と思いました。
もっとで全力で脱力狙いに行ってもいいように思いますが、主人公側の人間は常にスカしてるので、これ以上三枚目になることは難しいのかもしれません。
頁200、養子縁組して妹になった小郭を「クー」と読むのもどうなんだかなのですが、「明花」と書いてメイファとルビするのもやめてほしかったです。ミンホワやんけ。ぜったい、「明花」はメイファと読まない。
頁217、帰化といわずあえて国籍取得と書く。この流儀は分かります。私もそう書く時があるので。
とりあえず以上です。下は章区切り。
【後報】
日本国内で中国というと、台湾要素は欠かせないですが、本書ではインビジブルです。出せばよかったのに。池袋では、新宿渋谷のように強くないのかな。
(2022/1/23)