『ドラゴン・ティアーズ 龍涙りゅうるい』"Dragon tears" 〈龙泪〉longlei(池袋ウエストゲートパーク Ⅸ)( I/ W /G /P ) IKEBUKURO WEST GATE PARKⅨ by ISHIDA IRA 読了

写真(カバー・目次)新津保建秀 装幀 関口聖司 イラストレーション 増田寛

シリーズの短編四編を収録。初出は「オール讀物」2008年7月号、10月号、2009年1月号、2009年4月号と5月号。表題作は、正題と副題を初出時から単行本化にあわせてひっくり返してます。2009年8月単行本、2011年9月文庫化。

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なんでこの本を読もうと思ったかもうよく分かりません。ネットッサーフィンで出てきたのかなあ。今となってはベトナム焼畑置換が完了した中国人研修生&実習生のネタなのですが、主人公同様私も研修生と実習生の区別がついてません。

頁162

(略)一年目までが研修で、翌年から実習に呼び名が変わるだけらしい。もちろん給料があがることはないし、休みが増えることもない。生産設備の一部、中国製の生けるロボットだから、それもあたりまえ。

これは分かるのですが、ひとりが脱走すると、同じ派遣元から来てるすべての研修生数百人が連帯責任で一斉強制退去となり、一度退去処分となると五年は日本に戻れない、のくだりは、当時も…だし(チャイマのオヤブンさんが、頁189で、中国人実習生は日本でこの五年間四千人脱走してると言い放ってます)今の野放しを見てると、とても信じられないです。法改正でもしたんですかね。ぜったい業者は強制退去のヒコーキ代なんか出さないだろうし、本人もおカネがありませんで払わない/払えないのどっちか。入管が税金で払うのもばからしいだろうから、人権弁護士がついて難民認定でも狙わない限り、だいたい野放しなんじゃいかと勝手に思ってます。不法就労不法滞在でなく、期限切れ滞在、オーバーステイと言い換えるのは厳として戒められてると思いますが、やっぱりそれは、ことばはたいせつだからでしょう。きけんドラッグを合法ドラッグとも脱法ドラッグとも呼んではいけないのと同じこと。

頁162

 けれど、非正規の派遣社員のしたには、もう一段厳しいどん底カーストがあって、そっちじゃ時給三百円なんて奴隷労働があたりまえなのだ。年中無休二十四時間体制の工場で毎日十二時間ずつ働き、月給が十万以下。黄金の国ジパングで、デフレ上等の低価格製品を文句もいわずに製造し続ける龍の子どもたちである。

今はいくらぐらいなのか、今度東急フーズに通うベトナム人に訊いてみます。あと、16号と246の交差点で赤信号横断したら危ないよと。信号が変わるのは確かに遅いですけどね。

作者はもう、中国からベトナムへの焼畑シフトには十全に対応しており、2019年にはベトナム人日本語学校を舞台にしたシリーズ作品を出してます。2014年にはヘイトをテーマにした作品を。半グレとヤクザのあいだでうろちょろする主人公が棲み分けてるはずの外国人社会にツッコミを入れるのは、なんだかと思わないでもないですが、親和性があるのかなあ。

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なんとなく、私の個人的な印象では、中国人は、研修等はもうほとんどないですが、業者側にはまだけっこういるような気がして、英語が出来てすぐオルタナな世界を作れるインド亜大陸のネパール人やスリランカ人から、東南アジアのベトナム人そしてミャンマー人へのシフトがあったのも、漢字文化圏の意向が少なからず働いているような気がします。で、私はこのエンタメシリーズでこういうテーマを扱うことに面食らっていますので、読者はもっとって感じで、11作目のヘイトと、15作目のベトナム人もののレビューには、少なからず読者を装った「もう読みません」「だらだらと同じ文章が続いてマンネリで作者は才能が枯渇した」等のネトウヨチックな工作が散見されますが、この九作目に関しては、本気でこのオチはどうなんというのがあるので、動揺する読者のレビューがわりと読めました。養子縁組って、アンタ。

福岡一家4人殺害事件 - Wikipedia

福冈灭门案 - 维基百科,自由的百科全书

Fukuoka family murder case - Wikipedia

日本語版は加害者被害者どちらも仮名、中文版は加害者実名、英語版はどちらも実名のウィキペディア。私、この事件、身元保証人絡みだと思ってたんですが、そうは書いてないですね。模造記憶か、あるいは当時そういうフェイクがあって私がひっかかったのか。

コロナ特需「東亜産業」を率いる「インチキ中国残留孤児」 電子タバコで「真正孤児」相手に恫喝訴訟 | デイリー新潮

新潮のMONEY欄だけが、訴訟されても意地で続報を書き続け、産経も文春もスルーしてる上記の人は、日本人の配偶者を得て、日本に帰ってきてる人です。残留孤児が虚偽であると発覚して強制送還された後でも、そういう方法があるんだなあと。吉林省公安幹部のムスコ。

ディーン・クーンツという人も同名の小説を書いてるのですが、そっちは超能力やらアル中やらが出るホラーらしいです。アル中が出るなら読むかと思いましたが、さすがに読まない気がします。で、この小説のヒロインは、「郭」というみょうじで、「クー」とルビを振られていて、ピンインだと"guo"ですので、朝日新聞なら「クオ」讀賣新聞なら「グオ」とルビを振るはずで、少なくとも、「クー」はねえだろうと思いました。〈库〉"ku"とか〈柯〉"ke"、あるいは「顧」〈顾〉"gu" なら分かるんですが、〈郭〉で「クー」はない。酷。。*✧ヾ(。>ㇸ<。)ノ゙✧*。

主人公の母親は冒頭で「池袋チャイナタウン宣言」に対し、こう言ってます。

頁163

「冗談じゃないよ。あいつら町会費も払わないし、商店会にもはいらないし、ゴミだしはいい加減だし、やたらと騒がしいし。わたしはチャイナタウンなんて絶対反対だね」

 うちのおふくろは平均的な日本の労働者階級なので、この意見が西口商店会の総意だと思って間違いない。おれとしては(以下略)

主人公は少し後でこう漏らします。

頁194

 自分の生まれた街がチャイナタウンになるのは、やっぱりおかしな感じ。

事実としてそうはならない(なったのかな)という感じで、中国人はより安い家賃を求めて、荒川渡河作戦を敢行、キューポラのある風俗街のぬけがら、西川口を目指し、そこを事実上のチャイナタウンとします。そうした在日組が負け組なのかなんなのか、農村戸口ってナニ?ってくらい大量の金満中国人が観光目的で日本に訪れ、インバウンドで、お金を落としまくります。そして実習生は(インド亜大陸を経て)東南アジアにシフトし、ムスリムインドネシア焼畑向きでないから、フィリピンは英語が得意だからホカになんぼでもあるし在日社会も二世代三世代とそれなりに出来上がってるからで、人口爆発ベトナム、そしてミャンマーが次代の焼畑を担う主力として機会を伺う時代になりましたと。あとバラモン

林高泰という河南省出身のコーディネーターにはある種のリアリティがあり、中国人から信用されない中国人のクセみたいなものと、実習生の中に時折現れる、ズバぬけた日本語学習能力を持ちながら、実習生であるがゆえに宝の持ち腐れで終わってしまうタイプの中から選抜された異能と怨念を感じさせないでもないかったです。でもそんな人間が、東北の残留孤児上がりのグループのトップとボス交する時、日本人の主人公が同席してるからって、オール日本語で会話するかなあと思いました。相手の楊峰に対しても同様。この人の日本名を知りたい気もしましたが、戸籍係に一方的につけられただけの名前で、愛着ないかも。

この楊峰のグループも、研修生実習生の宿舎に高収入求人のビラ撒いて足抜けを誘うなら、こんなに足がつきやすくていいのと思いました。もっと転売転売のビジネスにして、なかなか後をたどれなくするのではないかと思ったので。池袋の組織が池袋で働かせるとか、たんじゅんすぎないか。

私のようなシロウトでも分かりやすいのは、漢語新聞にいっぱい載ってる、婚姻ヴィザを持ってる中国人妻を狙った、まっさじ店の求人広告。これなら婚姻ヴィザが続く限り、不法就労ではない。しかもそういう形態の一本釣りはフィリピーナの頃からあったのか、新井英樹愛しのアイリーン』は、終盤、人妻フィリピーナ狙いの女衒との攻防です。映画でもやったのかなあ、その辺。やったなら、ある程度価値のある映画になったと思うけど、どうだろう。安田顕だから、女衒の人さらいから守る役なのに女衒に見えてしまったかも。

話を戻すと、林高泰が、日本語堪能なのに、チャイ語の分からない主人公に、「メイワンシー」と、その単語だけ混ぜて話したのも、へんな感じでした。沒關係。私はメイワンシーと書きましたが、本書のルビはメイワンシーで、朝日新聞的、有気音無気音は清音濁音にあらずルールのルビです。郭順貴はクーシュンイ。これもクーがおかしい以外は同じルールです。しかし林高泰はリンオタイでなく、リンオタイと濁っていて、讀賣新聞ルール。ヤンフォンはどっちでも同じなのでどうでもいいですが、そのグループの東龍(ドラゴン)はンロン、朝日新聞ルールです。ンロンではない。で、もう一人、上海人が出るのですが、胡逸輝と書いて「コイツキ」日本語の音読みです。ちょっと表記ルールに整合性がない理由が知りたいと思いました。いい加減にしてよアグネス! サウスパーク、否、池パーは毎話クラシックのBGMが出るみたいで、この話は、ミラクルマンダリンスーツとかそういうのでした。

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ヒロインは、そして、家族になるⒸ生田斗真なオチでしたので、その後もレギュラーメンバーになるのかというと、「ときどき出る」レベルだそうで、そりゃ動かしづらいだろうなと思いました。指一本で在日中国人社会に号令かけられるような存在になってしかも親日とか、そういうありえない存在にしないと、読者がついてこれないだろうし。みんなちがってみんなバラモン、そんなフレーズはない。バラモンは千葉でカムイ伝ばっくれて死んだ。

この本は、章と章のあいだにそれぞれの話を象徴するアイコンが入っています。香水というか化粧水、トラメガ、サンタ帽、龍。

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ほかの話について。『キャッチャー・オン・ザ・目白通り』はキャッチセールスの話。テレビに出るような有名人がそういうあくどい商売をやってるわけないと思ったら、身元調査がアカンかったのか、そういう人が地上波に出てたという話で、まあ主人公が天誅を下さずともいつか凋落してたらいいな、という。目白通りのキャッチですが、ポン女は出ません。学習院は出なくてもいいけど、ポン女は出てもよかった。あと田中角栄邸と椿山荘とハルキ・ムラカミの寮。どこか別の話で出てるのかもしれません。BGMはプロコフィエフという人のロミオとジュリエット

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『家なき者のパレード』は、条例改正で、公園に住めなくなったホームレスが自立支援の期間限定サンビス終了後、地下道などに居ついて、そんでという話。まあ公園は公園ほんらいの機能を取り戻したということは言えるんじゃないですかね、バラモン。炊き出しのNPO組織を通じてセレクトしたホームレスだからか、みな、話が出来る相手ばかりで、そこちょっと不思議とも思いました。ホームレスの中に有能なアジテーターが混じってたのは、何となく理解出来ます。活動家崩れ。BGMはグレン・グールドブラームス間奏曲集。

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『出会い系サンタクロース』は、過渡期の出会い系の話。私は今もむかしも出会い系は全く分かりません。マッチングアプリの時代になったという理解でいいんでしょうか。サクラと詐欺師が幅利かせる世界であるのは、焼肉定食の世界だから仕方ないのかな。BGMはMagdalena Kožená <Handel: Giulio Cesare in Egitto HWV 17 / Atto primo - No.1 Coro "Viva, viva il nostro Alcide!">で、いいのでしょうか。再生回数が49回しかない動画が見つかりました。

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この小説のヤクザは暴対法どこ吹く風で景気いいのですが、池袋だからでしょうか。それとも、この後の話では、だんだん変わってゆくのでしょうか。半グレのほうは分かりません。新宿に「トー横」が出ましたが、池袋に「乙女ローどこ」が出たらこわいですね。どすこい。巣鴨トゲ横、大塚神取忍横。

「いしだいら」を変換したら、いし=石、たいら=平、石平になって、しばらく笑いが止まりませんでした。石田衣良センセイもビックリでしょう。だいたい私はこのシリーズを、一冊も読んでないのに、「池袋ウエストゲトパーク」と間違えて覚えています。なぜだろう。むかし、チーマー全盛期に、しりあいが終電なくなった後の原宿で、禁止されてない頃のバタフライナイフ持った二十人弱に囲まれて財布と免許証とられた話を聞いてから(解放後即警察に被害届)どうにもチーマー的なお話には距離を置きたくて。最初、カツアゲに来た相手が弱そうな奴ひとりで、自分は空手やってるからおもしれえと思って、誘いに乗ってのこのこひとけのないところについてったら、わらわら二十人くらいエモノ片手に出てきて退路を断たれたという。ひどいですねまったく。

以上

【後報】

阿奈井文彦『サランヘ 夏の光よ』のあいだに挟まってた文春の新刊広告に本書が載ってて、それで読もうと思ったのでした。

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石田衣良がいて阿奈井文彦がいてシリン・ネザマフィがいる。福田和也昭和天皇血盟団やらを書いて、久世光彦菊池成孔がいる。ひっくり返すと佐々木譲

(2022/1/6)