これも、その他の外国文学の翻訳者という白水社の本*1に出てきた本。作者はドイツ語で、ドイツ文学はその他の外国文学でないので、多分何か参考にしたか、イカスということで誰かが語ったかという本だったです。
イラストレーション 樋口たつの ブックデザイン 鈴木成一デザイン室 巻末にあとがき 三部構成で、Ⅰさんぽみちkiener Spaziergang 日経新聞プロムナード2008年7月2日~12月24日連載 Ⅱ日々のことと、おもいでAlltägliches, Erinnertes 書き下ろし ⅢほんだなMein Bücherregal いろんなところに書いた書評など 一部加筆修正とのこと。9.11に書いた記事には、9.11直後、車内黙とうを車掌が提唱し、乗客が黙とうし、車掌がご協力多謝をアナウンスする場面が追記されています。
あとがきによると、本書は清流出版編集部高橋与美さんの直筆手紙による依頼が契機で、彼女の東独体験と作者のそれとの比較もあります。ほかに謝辞は、装幀の鈴木成一さん、日経文化部の玉利伸吾さん、千葉淳一さん、同僚のエーバーハルト・シャイフェレさん、エッセーに登場する多和田葉子さん、渡部直己さん、乳井雅裕さん、城所功二さん、槌谷昭人さん、小崎友里衣さん、らせん館のみなさんへ。題名の由来は、勤務先のエレベーターの音声アナウンスで「五階」が「誤解」に聞こえるから、というもの。请客们,您马上到达无漏。
翻訳ネタの妙、という話でいうと、言語がことなるのに、訳してるとその文体のクセが移ってしまうという箇所。体言止めというか、単語ぶつ切りの文章を訳してて、そうなったそうです。中国語は訳さずとも、読んでるだけで日本語の漢字の量が倍増してしまい、我ながらアホかと思います。アグネス・チャンの文章の漢日併記を読んで、よくもまあ漢文をここまでやわらかいニュアンスだと思えるものだと感心したり。
以下後報
【後報】
この人は大学でいきなり体育会系、バリボー部に入った人で、へーと思いましたが、よく考えると、体育会ではないにせよ、大学でいきなりバリボーに入った知人がふたりいました。作者はその大学運動部で生涯の伴侶と巡り合うのですが、私の知人もふたりとも、いやひとりはそうでした。もうひとり(男性)は就職先で先輩から食べられたんだった。で、大学で知り合って結婚した女性は、バリボーでなくバドミントンだったかもしれない。いずれにせよ、大学でいきなり運動サークルに入るのが、ぜくしぃチートかもしれませんので、これからの人はやってみてけさい。
第一部頁61、松永サンは少女時代『サインはV!』と『アタックNo.1』を両方とも読み込んでいて、私はどちらも読んだことないので、読んでみたい気もします。
『サインはV!』の主人公は母子家庭で、借金を返すため中卒で工場に就職するはずだったが、バレーボールの才能を見出され、実業団に入るんだとか。『アタックNo.1』の主人公は裕福な家庭で育ったが、恋愛ではうまくいかないことばかりだったとか。両作品のそうした解説を聞いたことすら初めてな気瓦斯。
第一部頁73、小公女セーラに憧れた松永さんは現在、「老公女」の道を模索してるとか。
第二部頁128に、下調べも何もしないで取材対象に丸投げインタビュアーへのテンプレ回答が載っています。作成者はベルンハルト・シュリンクというドイツ文学者。
頁128
「今度の作品は、これまでとどこが違いますか?」
「ストーリーが違います」
「これまでと同じところは?」
「作者が同じです」
シュリンクという人は、故郷について考察し、「故郷を持つ権利」に思い至ります。それはつまり、「そこで暮らし、仕事をし、家族や友人を持てるような場所」を持つ権利なのだとか。それが故郷になる。頁177。
松永サンは学生結婚(出来ちゃった婚)をし、ふたりとも夢をあきらめず奨学金で院に通い(ふたりあわせて月十万いくらだったそうなので、バブル時代にそれは、周りの目を気にする人だったら簡単に心が折れて青田買い就職してたと思います)子どもは今より競争が厳しくなかったのか、ゼロ歳保育出来、両親ともに無収入だったので、保育園はタダだったそうです。バブル期の「マルビ」生活と、保育費無料。禍福は糾える縄の如し。そんで、ハンブルグに留学する際、ハズの人は理系なのでついてこず、娘ふたりと留学し、娘さんは現地学校に通わず日本人学校に通ったとか。なのでドイツ語はぜんぜんで、家電の時代なので、家に電話がかかってきたときのみ「マイネ・ムッター・イスト・ニヒト・ダー(母はおりません)」だけを堂々と言っていたそうです。ウリオンマヌンオプスムニダ。她不在。私が中国にいたとき、ポケベル時代が始まり、BP机を鳴らしてもらうために交換台に電話番号を言うのですが、私はそれすら伝えられず、交換手がこちらの話の途中でガチャンと電話を切っていたです。かなしい話。
そうやって育った娘さんは、フリーハグの運動をしてみたり、ガーナに留学するという、それだけ読んでると、この母にしてこの子ありとしか思えない断片的な情報が記載されるのですが、それを気にしない性格かもしれません(気にして抗議してるかもしれません)松永さんは、写真を見てもきれいな人なので、男子学生からテニスやらジョギングやら観劇にさそわれ、こんなオバサンでいいのと言いながら、翻訳者も体力が基本なんだなの維持に努めたりしてるそうです。すごい人だ。誘う学生は、なんとなく、あーこういうタイプって誘いそうだなって、読んでて思うのですが、どうか。本名でもイニシャルでもなく、あだなで登場します。
ライプツィヒの書籍見本市がたびたび登場し、ドイツのそれの情報が読めるのもおもしろいです。『幽霊コレクター』という本を読んでみようと思ったのですが、近隣の図書館在庫なしでした。以上
(2022/8/27)