チベット幻想奇譚|星泉 チベットの現代作家たちが描く、現実と非現実が交錯する物語
装画・扉絵 蔵西 装釘 宗利淳一 ←クギの字を使った「装釘」は、暮らしの手帖などに使われていると、ほかの方のはてなブログで拝見しました。
収められている十三の短編の、一個一個の感想の、十三個目。第三のチャプター「Ⅲ現実と非現実のあいだ」カテの作品。三浦順子サン訳。初出「ダンチャル」《章恰尔》1996年。1999年青海民族出版社刊の短編集『雪山の麓の物語』《雪山脚下的故事》所収が底本。著者について、『羊のひとりごと』に書いた以上のことはないです。
stantsiya-iriya.hatenablog.com
同名の何かがネットに上がっているのですが、その中に作者名は出ないし、2021年8月の発表なので、別ものでしょう。
འདྲེ་རྐང་ཏོ། | ཀྲུང་གོ་བོད་ཀྱི་དྲ་བ།
この小説に出て来る「一脚鬼」テウランは、原題の前半部分の字ではなさそうで、"The'u Rang"のチベット語の綴りをサクッとどっかで見つけられないか検索しましたが、よく分かりません。
54回しか再生されてないスピリチュアルな音楽が出たり、
Demon Directories: On Listing and Living with Tibetan Worldly Spirits | A Perfumed Skull
例の昆虫でない字体なので写せない言葉とそれっぽい絵のサイトが出たりしました(これが"The'u Rang"画像検索のトップ)
「セルニャ」6号の特集「異界からの呼び声」はかなりこのイタチのような、くだぎつねのような、憑り依いた家の富貴と精神を狂わせるもののけについて、天祝というまたマニアックな、武威に隣接するようなところ*1でのフィールドワークや、インド側?の難民社会でアムド出身者に聞き取ったことなど載せていて、かなりごうせいなのですが、チベット語のスペルは見つけられませんでした。人によって、発音に揺れがあって、おもに口承で語り伝えられてきたケのいきものですので、スペルを書いて決め打ちすることが憚られたのかもしれません。
頁222、県城と村の間に公路を建設する決定が下され、95%が政府負担、5%が村の負担になるが、さてそのお金をどう捻出すべえというくだりなどは、解説で80年代の山村の事件がネタ元とあり、そうなのかと思いました。
頁232で、なけなしの麝香を西寧で騙し取られる牧夫のその長ったらしいペテン師たちとのやりとりの辛抱強い描写に、実にうならされました。田舎者がひとりで都会に行ってはダメですね。コロッといいようにやられる。チベット語の話せる回族の若者というのが、実にミソだと思いました。
人間がいちばんコワいと安直に言ってしまっていいのかどうか。
上は、楊海英『モンゴルとイスラーム的中国』風響社版頁219の、レゴンの州政府庁舎前で座り込みをしてるアムドのチベット人たちの、2004年12月取材時の写真。この頃は、中央への抗議は御法度だが、地方政府の腐敗に関しては、ある程度おk、という空気があったと思われます。実は私はこの写真を見て、もしこうした運動にこの地域にかかわりの深い知人たちが関わっていて、現在、彼らの消息を網上などで聞かないことと関係があるとしたらと、真剣にぞっとしないでいます。
帯
帯裏
これでこの本の感想も終わったので、ラシャムジャの短編集読みます。楽しみ。以上
【後報】
私が打ち込んだ『チベット幻想奇譚』の、チベット文字がいちぶ違ってるとご教示頂きましたので、つつしんで訂正します。まだほかにもあるんだろうなあ。
✖: བོད་ཀྱི༌འདྲེ༌སྒུང༌ངོ༌མཚར༌གཏམ༌ཚོགས།
○: བོད་ཀྱི༌འདྲེ༌སྒྲུང༌ངོ༌མཚར༌གཏམ༌ཚོགས།
トッホッホ。(2022/11/16)