『巨根伝説』長編伝奇推理小説 "THE BIG COCK LEGEND. ” -Feature-length mystery detective novel. by Hanmura Ryo 半村良(祥伝社NON NOVEL)読了

巨根伝説 (祥伝社): 1992|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

読んだのはノン・ノベル。英題はグーグル翻訳。ペニス"penis"やディック"dick"でなくコック"cock"な理由はグーグルのAIでなければ分からないことかと。

半村良 - Wikipedia

半村良の伝説シリーズもけっこう読んだと思ってたのですが、今ぱっと見てみると、大国主の命が印象的な『英雄伝説』くらいしか印象に残ってませんでした。『戸隠伝説』はファンタジーになっちゃって、遮光器土偶が戦う、ハニワットみたいな話でした。ハニワット読んでませんが、そういうことで。『獣人伝説』は核兵器放射能の話だった気もしますが、荒巻義男の『空白の十字架』とごっちゃにしてるかもしれません。『平家伝説』『楽園伝説』『聖母伝説』『魔女伝説』『女神伝説』『黄金伝説』『死神伝説』『寒河江伝説』『魔人伝説』『飛雲城伝説』すべて読んでない気瓦斯。

初出不明。『妖星伝』も『太陽の世界』も(終わってないそうですが)『岬一郎の抵抗』も『晴れた空』も終わって、気が楽な時期にてきとうに書いたようです。

カバーイラスト・榎戸文彦 装幀・中原達治

"退屈をまぎらわせてくれるなら 何でもやるわ――"大金持ち で絶世の美女、本間好子と出会 った梅谷は、三人の遊び仲間を 集め、奈良時代の怪僧・道鏡の 遺宝探しを提案。調査を進める うちに、意外な歴史の謎に近付 いた。やがて、好子の妖しい魅 力に惹かれた四人は、政界の暗部に関わるある書類を託される が、彼らを取り巻く巨大な魔手 はすでに蠢動を始めていた・・・...。 美貌の女経営者好子の正体は? そして彼女の真の狙いとは? 鬼才が放つ伝奇推理の巨編、こ こに登場!

イメージとしては、「カーネクストは、買うわ」*1みたいな感じの女性社長が、取り巻きでなく、肩ひじ張らない付き合いと大人の関係を、新宿の地付きの自営業の旦那さんたちとの交流の中に見つけるが、自らのよって立つ基盤がゆえに破滅、という話です。新宿のこういった、淀橋浄水場のやっちゃ場を知るような世代は21世紀のこんにち、もういませんが、そうした地付きの自営業の人たちが働き盛りで、バブルをバブルと認識してなかった頃の話と思いました。西新宿再開発前の西新宿のようでもあり、別の場所のようでもあります。どのみち、その後、小滝橋通りも戸山に近い大久保の外れもどんと再開発されたので、もう何が何やら。荒木町や矢来町のほう、あるいは御苑の塀に沿って代々木千駄ヶ谷方向に抜ける裏道くらいしか、残ってる住宅街はないような。

NON NOVEL <著者のことば〉十人十色。人さまざま。月並みな文句には違いない が、小説を書いていると、そのことをつくづくと思い知らされる。 自分が面白おもしろいと思ったことが、人さまにはまるで面白くない場合が よくあるのだ。たいしたギャグではないのに、言った当人が一人で 吹いているようなもので、そんなときはぶざますぎて情けなくなる。 だから年々自分が面白がる事柄について、気難しく吟味してから人 に言ったり、小説にしたりするようにならざるを得ない。 ところであなたは道鏡 どうきょう をどうお思いになりますか。 彼が巨根の持ち 主だったという伝説を信じますか。 この小説は道鏡の伝説を芯にし てあるのです。でも舞台は昭和です。 さあ、お読みになりますか。 それとも巨根はお嫌いかな。 (著者肖像 レオ澤鬼 画)

伝奇的要素はそんなになくて、『戦士たちの岬』という小説は未読ですが、それと、例の嘘部シリーズを足したような展開に出来そうだったが、もうめんどくさいし、マンネリと言われたらかなんのでしなかった感じです。ほかの小説にも、熱海の頼朝の秘湯みたいなデッチアゲ大成功譚が語られたことがあり、本作は、なんでそうしなかったのかなあと、ちょっと残念です。遺跡の発掘許可を出す省庁が与党重鎮のツルの一声で動くところの描写など、カルいなあと思いました。それで、シロウトばかりで掘って、道鏡の張型と白骨が、古墳から出て来ます。ふつう絶対まず捏造を疑うと思いますが、素人なので疑わないという展開なのかな。アマチュアでも、その辺真偽を疑いそうなキャラはちゃんといるのですが、もうそこを細かく書くのがめんどうだったとしか。

で、発掘された財宝とはまったく関係なく、政権与党の権力争い、リベラル派の高齢化衰退とタカ派の鼻息荒い台頭の中で、裏金の流れやら金庫番やらにいろいろなことが起こり、そういうときにつきものの自殺者や失踪が出て、危険なので、永田町勝手にやってちょ、と、雪原の隠れ家にひきこもって高レート麻雀にいそしむも、殺し屋のヘリが殺到して同じ最後を迎える、という結末です。新書版の小説って、殺し屋出すにしても、視覚面に訴える荒唐無稽さがしょっちゅうだったな、と思い返しました。タカ派の神がかったスピリチュアルな精神的指導者のくだりを読んで、安岡正篤なのかなあと思いましたが、違う可能性のほうが高いです。

ドカピンという媚薬が出て、あれはほんとにすごいので危ないと登場人物が口をそろえて言いますが、私はそれを知らず、検索しても何も出ませんでした。どうも歌舞伎町の薬屋というと、『不夜城』のモデルになった漢方薬店がまだあるような錯覚にとらわれます。なにもかも開発の彼方。時は過ぎゆく。

以下、巻末のノンノベル既刊広告。作家の顔写真がこんなに載ってて素晴らしいです。

以上