『人生は野菜スープ』読了


人生は野菜スープ

人生は野菜スープ

アマゾンの表紙画像は、なんか加工してる気がしましたので(ヘンに肌がすべすべしてる)、べっとあげます。
カバー・表紙・扉 写真提供 中道順詩
読んだのは昭和五三年一月の再版。
初出は野生時代の、1976年と1977年の幾つかの号。
関川夏央『中年シングル生活』で紹介されてた『給料日』という名作らしい短編が収録されているので借りました。

2018-10-21『中年シングル生活』読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20181021/1540121399

正直、片岡義男は読んだことがなく、もっと青春というか爽快というか、五木寛之の逆ハン愚連隊というか、ヤシの木と夕暮れの海とサーフボードみたいな小説を書くのかと思ってました。『スローなブギにしてくれ』とか、『メイン・テーマ』とか、『彼のオートバイ、彼女の島』とか…

片岡義男 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%87%E5%B2%A1%E7%BE%A9%E7%94%B7

表題作の『人生は野菜スープ』を検索すると、10ccというプログレ?バンドの、"Life is a Minestrone"という曲の、何故かニコ動がまずヒットします。この歌は、作者自身が作者公式で触れてるので、何か関係あるのかもしれませんし、關係ないかもしれません。小説は、歌の歌詞程スラップスティックではないですし、藥やラリラリな場面はありません。村上龍ではない。ポップコーンは促音を省略しないのに、ドクターペパーはペッパーと書かず、促音を省略しています。
公式
https://kataokayoshio.com/novel/01017

表題作と『給料日』に共通する話として、むかし、おおみそか飯田橋のギンレイでクロサワ特集やった時、七人の侍を見に行ったらほとんど野郎ばっかしで満席で熱気むんむんでしたが、若い女性が一人だけいて、暑いのでその女性がロビーに逃げてたら、ジョージア二缶手に持ってナンパしに行った奴がいて、女性は固辞していました。あとでその話をESSのMMK部長にしたら、そりゃ当たり前ですよ逃げますよ僕でも逃げますよこわいですもんと言ってました。今は薬物を混入した開封済ドリンクによる犯罪が腐るほどあるので(九十年代からあった気がしますし、ハイミナールとかの時代にもそうした悪さはやっぱりあったと思います)お話のこの部分、見ず知らずの女性に飲食物を提供してナンパの場面は通用しなくなってるなと思います。

『貸し傘あります』は、半村良かと思いました。低いホーンのヨーロッパ車って、ベンツでしょうか。この本に出てくる車は、古い赤のクラウンやキャディラック。それと、オートマ車がもうあって、オートマティックと呼ばれてたびたび登場します。今でもファームのバグとかリコールとかあって、当時勝手にバックしたとかそういう記事も読んだ気がしますし、よく乗るなと。
公式
https://kataokayoshio.com/novel/01018

『馬鹿が惚れちゃう』この後生板本番ショーで崩壊する前の、ストリッパーに抒情があったというようなお話。ナマイタ本番ショーって、いつからあったんでしょうね。八十年代に書かれた講談社文庫だったかな、『じゃぱゆきさん』に、フィリピン人ダンサーの生板ショー専門嬢と、彼女が捕まったのち、性欲をどう処理して良いか分からず劇場前にたむろしてたパキスタン人たち、という描写がありました。
公式
https://kataokayoshio.com/novel/01022

『給料日』ハードボイルド小説ということになっていて、作者公式でもそう定義しています。給料をまるまる給料日に新宿で使い切る、青年の刹那的な一日を追っています。これで実家暮らしだったら全くオフザケですが、そうではないです。ただ、CR以降のパチンコだと、一日でぜんぶすってしまう話はまったく珍しくないので、その意味で、賭場とかにも行かず過ごす青年は安心です。CRのパチンコで生活費ぜんぶすったとか、小説にはならないでしょう。あまりにも多いので。青年は、ただ、見知らぬ飲み屋ビルの、会員制と書いてあるドアを無造作に開けてその店である程度飲む行為を繰り返し、その傍ら女の子に声をかけ続けます。といっていわゆる射精産業にはいかないし、行ってもペッティングすらしない。飲むだけ。
そういう場面の天丼で話が進み、残金がその都度読者に分かるようになっていて、え、この持ち金でこの造りのドア開けちゃうの?という感じでスリリングに話が進行し、マイナスになってなおドアを開けたり女性に声をかけるのをやめないあたりで最高潮に達します。
袋だたきになっても小説だし、それで終わりだろ、いまのパチンコ同様、本当に金がなくなったら、最初は同僚や親友、親も貸すだろうし、というふうにななめ読みしたらこの話は面白くないと思います。
行動動機がまるで描かれない点に、この小説のハードボイルドのゆえんがあるのですが、でも酒は強くないという人間的な設定で、計算しながら、泥酔しないようセーブして飲んでいます。ある一線を越えるとそれでも酔うのですが、主人公が、いちばん酒がうまいと思った場面は秀逸と思いました。そして、酒に異常に強く、浴びる程飲んでも、氷入れるバケツにシャンペンやウイスキーまぜこぜにブチこんでそれを一気に飲み干してケロリ、とか、そういうスーパーマンに設定されてなくて、そこはよかったです。
公式
https://kataokayoshio.com/novel/01026
以上