『この世にたやすい仕事はない』"There is no easy work in this world." by Tsumura Kikuko 津村記久子 Chapter 4 and 5. 第四話と五話_読了

済東鉄腸サンの本に出て来た本の中の一冊。どういう文脈で出て来たのか、もうまったく忘れてます。が、読みました。

この世にたやすい仕事はない - Wikipedia

津村記久子 - Wikipedia

珍しく自力で英題を勝手に書きました。ブックデザイン 名久井 直子 写真 井上 佐由紀 扉絵・挿絵 龍神 貴之 写真撮影協力 ニッポー株式会社 読んだのは単行本。2015年刊。初版。 初出 日本経済新聞電子版 2014年5月1日(メーデー)から3月19日まで。

各話扉ページは挿絵画家の人のステキなカラーイラストがブチヌキで載ってるのですが、ウェブで画像検索しても転がってないので、ちょっとだけ載せます。部分掲載。

第1話 みはりのしごと

たぶん左がハロワの相談員。真ん中が職場の同僚、通称「アニメ」さん。右上が上司で、右下はパートの、分担して同じ監視対象を監視している同僚。上司が、こないだ見たペ・ドゥナ韓国映画「あしたの少女」で練炭自殺というか、排ガスを車中に引き込んで自殺するブラック企業の上司のイメージでしたので、ちょっと私の予想よりふけてるな、と思いました。

PCディスプレイで監視。基本的に録画でチェックしており、二日分を並行して流しています。何か動きがあればリアルタイム監視に移行。

第2話 バスのアナウンスのしごと

ひだりが、とても仕事の出来る先輩社員。真ん中が、利用者数はまあまあなのに存続の危機に立たされている循環バス「アホウドリ号」増益のため、広告増が喫緊の課題。右は、「広告にはネ申がいます」的展開に釈然としないものを感じてる中年社員。

第3話 おかきの袋のしごと

社屋の一隅にある、社史資料展示スペース。人呼んで「おかきミュージアム

この下に社長と、ひとり仕事なのですが、おいしい社食で歓談出来る先輩社員たちのイラストがあります。

主人公がこの仕事を辞める理由のひとつに、袋の記事の知恵に助けられて九死に一生を得た人が、そのことを自身のSNSで吹聴しまくって、マスコミにもバンバン取り上げられたのち、それが縁でこの会社、この仕事にグイグイ食い込んできて、その手のガッついた承認欲求オバケが苦手な主人公が逃げた、というのがあります。本人も「逃げた」感があるので、それに苦しめられるのです。

それで、次の仕事は、官公庁から委託された団体が、店舗や民家に貼っている交通安全啓発などのポスターを貼り替え、ついでに掲示先を増やせればベター、というのをします。すごくセンスのいいポスターなのですが、「東欧だとかソビエトのデザインを彷彿とさせる、シンプルな色遣いが目を引く」(頁194)ポスターで、左巻きを連想させるこの描写は必要か、と、脳内に引っかかりを感じながら読み進めました。

すると、どうも町内の各所には商売敵みたいなポスターがあちこちに貼られているのに気づきます。それは政治家や政党ではなく、魅力的な女性がこちらに手を伸ばしてきてる「もう さびしくは ないんだよ」というポスターで、集会所で交流会を催してる団体、通称「さびしくない」が貼っているものでした。その団体は戸別訪問も行っているとか。

第4話 路地を訪ねるしごと

右が「さびしくない」ポスターの魅力的な女性。その隣が集会所を仕切っている青年。その隣は主人公の上司。左は、「さびしくない」によって以下略の女性。

で、何故か主人公は、これまでのデスクワークとは正反対の、まあまあフィジカルな外回りの仕事のせいか、「さびしくない」に無用の敵愾心を燃やし、彼らのポスターを自分たちのに貼り替えることに執心します。熱心な活動の結果、ある程度それには成功するのですが、オープンな活動であるため、人目を引くのもまたたやすく、職場のシャッターに大きく中傷落書きをされたり、民家の二階から紙くずを投げつけられ、窓から顔を出した相手シンパから大声で「やめちまえ」と怒鳴られたりします。

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コロナカ初期に、当時まだ通っていた中国語教室の先生が嫌がらせを受けて即警察に被害届出した話を思い出しました。まあ私自身も、あまりの中国の隠蔽ぶりに、個人に罪はないのですが、その後ちょっと引いたことは引いたのですが…

2014年から2015年は、カルトや自己啓発、それに対する逆洗脳が目立っていたという認識はなく、現在と、21世紀最初の十年のあいだの、谷間の時期で、むしろ、それらのマニュアルがマルチや悪徳商法に流れて利用され、その弊害が見え隠れし出した時期という印象なのですが、主人公や作者は、それまでの仕事やその後の仕事がウソのように、反「さびしくない」活動に邁進します。びっくりした。

読んでて不思議だったのは、これらの町内には学会員もいるでしょうし、天理教もいるでしょうし、まっとうなキリスト教徒もいるはずで、これらの人々が、パイの奪い合いで勝つために、「さびしくない」を糾弾するような場面がまったくないことでした。これは、昨今の文科省ほかの動きに対し、公明党ほかの宗教政党がほんとにお茶を濁してるように見えたり、ものみの塔がほんとに熱心に最近まで聖書がどうのこうのと街頭でスタンディングしてましたが、自分たちはつるこ教とココがちがう!というようなことを一切やらなかった、現実とまるかぶりで、宗教って、お互いリスペクトしてるのかどうかしりませんが、互いの教義や活動にツッコミ入れないもんなんだな、と改めて思いました。例外:イスラム教。

これが政治活動だと、パヨクの皆さんの記憶に新しい、立憲民主党共産党の左派合同が、規制左翼(水)と新左翼(油)からなる両者シンパの激しい拒否抵抗にあって面白いようにとん挫した一件など、即座に思い出されるはずです。主導権争いやパイの奪い合いで互いをDISりあうのは、ごくごく当たり前。なので、政治活動と宗教活動は、似てるように見えて、全然違うんだなと思ったです。「民コロなんかといっしょにやれるけえ」

蛇足ですが、これと同じ感情が、アラブとイスラエルに通底するコモンセンスだと考える人はまずいないでしょう。民族という宗教©なだ いなだ

「さびしくない」と、主人公の上司が運営する、官公庁から委託された会社は、警察の内偵も交えて水面下の暗闘を繰り返し、その地区を精神的な面で完全に灰燼と帰して(うそ)ほかの町に主戦場を移します。ほかの町に行ってしまったので、事務所は閉鎖、主人公は失職。

第5話 大きな森の小屋の簡単なしごと

ことここに及ぶと、主人公はもうやぶれかぶれになって、ドバイの建築現場で働こうとします(頁261)が、日本のハロワにその求人があるわけもなく、相談員もまたガーシー(なつかしい?)ではないので、その要望には応えられなかったです。次の仕事は森林自然公園管理の一環の仕事。

こういう仕事は半公共自治体の仕事なので、契約社員と公務員の壁はかなり頑強で、給与面や契約期間もかなり厳しめのはずですが、小説なので、そういうことにはならないです。

この話は、最初、ブレアウィッチプロジェクトとかざしきわらしとか、そういう霊のしわざかと思ったのですが、そうではないかったです。唐突にプロサッカークラブをつくろう、みたいな話になるので、井上尚登サンの小説を思い出しました。

stantsiya-iriya.hatenablog.com

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ぜんぜん関係ありませんが、頁288に、「味噌汁を食った」という表現があり、みそスープは「飲む」だろう、「食う」じゃないと思いました。汤是喝的;绝不是吃的,对不对?

NHKのドラマでは主人公は元小学校教諭という設定だったそうですが(別に性加害でやめたわけではない)小説では医療ソーシャルワーカーで、十年以上のキャリアがありながらやっぱり折れてしまったわけで、それが、こうしてひとつひとつ、専門外の仕事をしていくうち、恢復して、復職しよう、というところでこの小説は終わります。元介護職の青年が森に隠れ住んで自給自足の生活を送りながら、前職の感情労働ぶりをケアしてゆくという展開が二重写し。私もこの読書感想を書きながら、久しぶりにホペイロ坂上シリーズの読書感想など読み返し、同一人物の文章ではあるけれど、他人は変えられない、自分は変えられる、と、この文章をエビデンスに言ってしまっていいの?©俵万智 と思ったりしました。

そして、主人公が森の仕事をやめた理由は花粉症です。以上