『犬のかたちをしているもの』"Something Shaped Like A Dog." by Junko Takase 高瀬準子 読了

済東鉄腸サンの本に出て来た本の中の一冊。どういう文脈で出て来たのか、もうまったく忘れてます。が、読みました。

読んだのは単行本。表紙はぜんぜん違います。

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【装幀】鈴木久美 【装画】河井いづみ「泉」 【初出】「すばる」2019年11月号

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第43回すばる文学賞受賞作品刊行記念エッセイ「わたしの正直なからだ」

(前略) 応募締切間際になってなんとか書き上げたのですが、困ったことになりました。黒いひもがなかったのです。応募原稿を綴じるひもです。

(略)黒いひもがない。ひもがないから応募ができない。応募するなってことだこれは。どうせまた落選するんだし……と半ば気持ちが折れていたその時「黒いひもあったよ!」と夫から電話がありました。自転車であちこち探しまわってくれていたのでした。最後の一個だったよ、(以下略)

「なんだ既婚者か、ウィキペディアにはひとこともそんなこと書いてなかったのに」とは1㍉も思いませんでした。主人公の出身地は著者といっしょですが、著者がりっつーを挟んで京都から東京進出したのに対し、主人公は四国から直接上京しています。

高瀬隼子 - Wikipedia

芥川賞受賞作『おいしいごはんが食べられますように』のほうがふつうの話なのかなあと勝手に思いました。『うるさいこの音ぜんぶ』はANOの歌から思いついた、という噂を私が流してまったく広まらないに1,000,000,000ペリカ

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【書評】人と人との距離 瀧井朝世

(略)(主人公の)薫は大学生時代、卵巣の腫瘍を切除する手術を受けており、現在も定期的に検診を受けている。

私は読解力がないので、上の設定そのものズバリの文章を読めていませんでした。なんとなく、そうなんだという感じで。出血場面が多いので、そわそわしました。病院の廊下の椅子に座ってる気分。

ので、この小説は、そういうところにエンパシーを感じる読者が読む部分も多いのではないかと感じられ、事実、鉄腸サンの本に出て来た本の中で、唯一予約じゅんばん待ちでした。そういう本の感想をオサーンが書くのは、荷が重い。

上の瀧井サンという人のクリティークは、本作のような人間関係ディザスター小説にしては珍しく、当事者しか出て来ず、当事者の「親友」の類が出てこないことをビックリマーク十個くらいのイキオイで指摘していて、それを東京砂漠のせいにしています。主人公には田舎の母親や祖母しかいない。バディがいない⇒オトコの裏切りが発端。それ以外の、相談出来る仲の〈知心朋友〉"zhixingpengyou"がいない。

私はそれに関して、主人公のシーカレとシテ、妊娠したミナシロサンという人にも同じことを想います。

頁14

 この人は、許されることに慣れている人だろうな、とふと思う。

 許される要素のひとつもない話で、責められてなじられて罵倒される覚悟もありそうな様子なのに、でも最終的には許してくれるんでしょ、と思っていそう。

たとえばミナシロさんに世話好きの関西人のトモダチがいたとしたらどうでしょう。

「そうかてその女かてセックスレスやん、束縛する権利なんてあらへんやないの」

「でもその人、手術して、そういうカラダなんやて。子宮頸がんとかワクチンとか、ウチもよう知らへんのやけど…」

「だからってアンタ、そこで都合のいい女やってどないすんねや」

「アタシだってそれでいいと思ってないよ、だからホラ」

「ほら?」

「一万円。お金だけの関係。そういうことになっていれば、心は傷つかないで済む」

ミナシロサンサイドからのミラー描写があって、そっちには親友も応援団もいる展開にすれば、ハマスにもイスラエルにも正義がないような感じに、読者をうまいこと置いてけぼりに出来るのにと思いました。

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元ちとせの邦訳バージョン*1を聴いた時には、皇軍の場合、あまりにガイキチな上官の場合、「後ろから飛んでくる弾に気をつけろよ」と言われ、部下がドサクサまぎれに後ろから上官を撃って恨みを晴らすケースについて語り継がれていたはずなのに、それが歌になってないなあと思っていたですが、もともとは米軍の歌なんですね。ので、上官が先陣切って敵の弾に当たって死にくさる。

以上、閑話休題。バービーつるペタ。

作者のもとへ、腫瘍になった人から、共感の手紙とかやっぱり、来るんだろうと思ってます。受け止めてるのか受け止めてないのか。どうなんだろう。

ミナシロサンのイカレホーダイの暴走に巻き込まれるだけの主人公、そんなに赤ちゃんて大事なの? 犬のほうがかわいくなくない? というふうにこの小説を読むべきなのかもしれませんが、卵巣だから。おえん。荷が重い。このタイヤは重たいや(だじゃれ)以上