ペルー文学におけるポストジョサ世代の旗手なはずのブライスヘッドふたたびサンの『幾たびもペドロ』を読んで肩透かしをくらった*1ので、ほかも読もうと思って読んだのが本書です。
月報収録エッセーは四方田犬彦『複製の時代ーボルヘス』黒沼ユリ子『世界を狭く、近くするために』(連載■世界の文学・映画ノート)「ラテンアメリカ」筈見有弘
第十九巻ですが、旬のラテンアメリカだったので、えいやで第四回配本したみたいです。第一回がアメリカⅡ、第二回が、これも旬のクンデラを収めたドイツⅢ・中欧・東欧・イタリア(広すぎる)第三回配本はケズオ・イシグロらイギリスⅣ、第五回はソール・ペローやボールドウィン『ビールストリートに口あらば』を収めたアメリカⅢ。これは読んだような気瓦斯。
シリーズ編集委員 川村二郎 菅野昭正 篠田一士 原卓也 装幀 スタジオ・ギブ 装画 山本容子 ケース画タイトル EL LIBRO DE ARENA「砂の本」(銅版画 三九・八×四二・八センチ) 口絵「テワンテペックの祭り」Fiesta tehuana ディエゴ・リベラ 1928年 油彩 199×162センチ Collection IBM Corporation, Amrmonk, New York 口絵解説 高階秀爾
集英社ギャラリー「世界の文学」 (集英社): 1990|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
全集各巻の煽り文句
欧米文学に衝撃を与えたラテンアメリカ文学の世界
ラテンアメリカ (集英社): 1990|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
内容:伝奇集 エル・アレフ 砂の本 ボルヘス著 篠田一士訳. 大統領閣下 アストゥリアス著 内田吉彦訳. ブルジョア社会 ドノソ著 木村榮一訳. 赤い唇 プイグ著 野谷文昭訳. 族長の秋 ガルシア=マルケス著 鼓直訳. ある虐殺の真相 M・バルガス=リョサ著 桑名一博訳. 太鼓に踊る A・ウスラル=ピエトリ著 荻内勝之訳. イレーネの自伝 シルビーナ・オカンポ著 安藤哲行訳. 樹 M・L・ボンバル著 土岐恒二訳. 裏切り者との出会い A・ロア=バストス著 吉田秀太郎訳. ルビーナ フアン・ルルフォ著 桑名一博訳. モーツァルトを聴く マリオ・ベネデッティ著 内田吉彦訳. 痩せるための規定食 ホルヘ・エドワーズ著 高見英一訳. 時間 A・H・アタナシウ著 野谷文昭訳. パラカスでジミーと A・ブライス=エチェニケ著 野谷文昭訳. 顕現祭の夜 ホセ・レブエルタス著 木村榮一訳. 魔術師顛末記 ゴドフレードの三つの名前 ムリロ・ルビアン著 武井ナヲエ訳
ボルヘス、アストゥリアス、ドノソ、プイグ、ガルシア・マルケスだけで大半を占め、解説もその五人にフォーカスした本で、その後短編集が入ってる構成です。まあ読めないなと思ったので、これだけ館内で読みました。ジョササンの『ある虐殺の真相』"HISTORIA DE UNA MATANZA" por MARIO VARGAS LLOSA も読んでみたいのですが、縁があればいつか読めるでしょう。
原書の電子版はなくて、朗読動画は見つかるので、下に置いておきます。黙読より朗読の文化。
訳者の野谷サンは自身が編訳した「20世紀ラテンアメリカ短篇選」(岩波文庫)解説でこの作品に触れ、「ユーモアとペーソスの入り混じったひとり語りが止まらない」とのこと。「その饒舌は『リナーレス夫妻に会うまで』でもはや頂点に達している」と、岩波文庫に入れた話を還元関連付けて持ち上げているのは言うまでもなく。
逆に、この集英社ギャラリーの「作家と作品」(執筆者未記)では、エチェニーケサンは、ジョサ以後の新鋭として期待されたのに、『幾たびもペドロ』で舞台を国外に移して手法もメタ小説という実験的なものにしたので「自国の批評家を驚かせた」と、鵺的玉虫色的に、ほんとはこきおろされたかもしれないのにあいまいに書いてます。それまでは、「感受性の鋭い少年を主人公とする一連の作品を書いて注目」されたり、「少年の目を通して名門の没落を描いた」りしてたそうです。本作もその一環。
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パラカスはこういう海辺のリゾート地で、首都リマは上の地図では左上の、ポップアップに隠れた部分にあります。主人公は父親のセールスマンに連れられて、古い車でドライブして、地元の農民組合にトラクターを売りつけがてら、会社の金でバンガローのあるホテルに泊まって、豪遊は出来ないけれどみみっちく楽しもうとします。主人公は父親の見栄でカネのかかる英国系の学校に通っていて、このリゾート地で、金髪で青い目のセレブの級友に偶然会います。彼の名がジミー。名前からしてもうスペイン系ではない。今FORVOで「"Jimmy"のスペイン語の発音」を聴いたのですが、やっぱり「ジミー」でした。ヒミーにならない。"Aji de Gallina"をアジデガジーナと読むかのような。
ジミーは石原慎太郎の小説に出てきそうな、鼻持ちならない金持ちの不良で、主人公の父親が「未成年だが、ちょっとならいいでしょう」と白ワインをそそぐと、「けっこう」とウイスキーを注文し、チェスタフィールドに火をつけ、わるぎはないのですが、煙を父親にふかします。14歳ですが16歳といつわる。
お話としては、ネタバレですが、主人公が親公認で連れ出され、酒とたばこで酩酊状態にされ、夜の浜辺で美波、ジルベール、だめだ、セルジュ、ふふ、かわいい、合意なきBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLBLクライシスとなります。
短篇小説としても、ホテル従業員にさげすまれてる社用族の父親の決めゼリフで終わっていて、話はしまります。
こういうイイ話を書いていたのに、それを解体したのは、著者が没落オリガルヒではあるけれど、主人公サイドでなく、ジミーサイドであるとの自覚があって、読者受けとのはざまで苦しんだからだと思います。解体される前の初期作品を読めてヨカッタ。次は、解体後の『リナーレス夫妻に会うまで』"Antes de la cita con los Linares"を読みます。以上