『神様の介護係』《赡养上帝》"Taking care of God" by liu cixin 劉(刘)慈欣 『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』"INVISIBLE PLANETS Contemporary Chinese Science Fiction in Translation" ケン・リウ=編 Edited by Ken Liu (Liu Yukun / 刘宇昆)(ハヤカワ文庫)

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ピンインは"shang"

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村の名前に使われている漢字。

中原尚哉訳。初出は《科幻世界》2005年1月号。英訳が載ったのは、"Pathlight"という雑誌で、これは、《人民文学》が2011年に始めた、漢文学を海外に紹介するための英語翻訳誌です。漢語名《路灯》

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これはもうほんと、著者が本領発揮してた時代の楽しいエスエフで、本アンソロジーで、りゅうじきんが頭一つ抜けてる、と言われるのもむべなるかなという。ファンタジー異世界を使うことなく、ドップラー効果やら相対性理論やらを分かりやすく作中に出して、読者に提示する。

私は、事実上の中国SFの本格始動は、Windows95-98時代にインディペンデンスディが封切られたことで、すぐさま倒版(海賊版)が大陸全土に普及し、ユーゴ大使館誤爆やら海南島軍機撃墜事件やらで大規模反米ムードが沸き起こったその相手国の愛国片を見せられることによって、世はなべて相対化という、SFの基本のキを学んだ、一部の漢族版Wokeというか、醒过来了该怎么办!の人たちがはじまりだと思っていますので、インディペンデンスディのフリクションとしての本作も、そりゃもう分かりやすいとも思います。地球を覆う宇宙船から一斉に要介護の老神が降りてくる。その数実に二十億。

アーサー・C・クラークは『幼年期の終わり』を描いたが、中国SFは後期高齢を描いた、という一行だけ書いてあとはAIに膨らましてもらえば、立派な文学部中文科のレポートが書けます。試してみて下さい。私は責任持ちませんが。

老神の医療費を人類が負担することによって医療制度は崩壊し、相次ぐ老神虐待がホームレス老神の増加を招く。何の社会保険費も積み立ててない二十億の老神。そして父親と同居し、妻に頭が上がらない、高卒で読書家の主人公(大学入試が不合格だった)は、どうしても山西の鉱山でコツコツと生きてきた劉慈欣サンを連想させずにはおれません。ベイダーやチンホワダーシュエから華々しくきら星のような中国SFの書き手が登場しても別にいいのですが、やはり、こういうところから出て来てくれるのが、人生のほんとうの在り方という気がする。

そして頁468からの、ネタバレするので詳しく書けませんが、種明かしのおもしろいこと! ヒント:"We are not alone." ←オチのことではなく、神は一人っ子政策をとらなかった、というくだり。人類の兄弟はどんな人たちなのでせう。

かみさまが、キリスト教の神さまを指す〈上帝〉なのは、さして意味はないと思います。ドラえもん核兵器でネズミを殺そうとする話で、「神よ我を守り給え」とかナントカ言うのですが、あれの中文版は、"上帝保佑我!"だったかと。そんなものかなと。以上