「薬の神じゃない!」《我不是药神》"Dying to Survive"劇場鑑賞

三週上映を二週上映と見誤って、二週目の朝イチ上映は都合がつかないので昨日見ました。

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https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/stantsiya_iriya/20201127/20201127180822.jpg近藤大介が処女作で、北京のタクシー運転手に日本人と韓国人の特徴について聞き、「ならば中国人は?」と聞いた時、「そりゃ中国語のうまい韓国人ですよ」と答えられたという、それを地で行く作品。ようするに悪いことはぜんぶ前政権までに起こったことで、現政権ではこんなに改善、こんなによくなりましたよ、というのがエンディングで滔々と流れます。さすがです。こないだ見た香港JK密輸映画は、新人監督がそのへんのボーダーの製薬、否、制約に切れて素材のままバーンと出してケアしてませんでしたが、この映画はいろんな意味で大人の対応。

ラストまで、「インディアイズファルマシーオブプアーズ」のインド製ジェネリックは秘密保持のため上海でしか流さなかったのですが、製造元のインドがスイスの製薬会社から国際的に追い詰められて製造出来なくなると、主人公一味は捨て身で全国販売に打って出て(仕入れ値二千元で販価は据え置き伍佰、否、五百元で、ひと瓶売るごとに千五百元赤が出るという、逮捕後を見据えた戦略的販売)そこで出る、全国各地域の患者間SNSのいちばん最初が、蘭州なんですね。キンペーチャンの故郷。ここで吹きました。相手を気分良くさせる小技を忘れない。

基本的に昨冬に見た「大人物」と同じで、腐敗した大企業の悪を国家権力が是正、綱紀粛正する構図で、そこにメスは入れられません。警察もほんとは大岡裁きで、市井の善人によるやむにやまれぬ犯罪には情の斟酌をしたいのだが、それをすると法治でないから出来なくてしいましぇん、みたいな。

まあそんな言い訳で建前上は観客も納得はしますが、憂さは晴れないので、ニセ薬の詐欺商法の集会で、保安員をパイプ椅子でボコるシーンで溜飲を下げる感じでしょうか。国営私営があれだった歴史的経緯から、中国のああいう警備の場面に出て来る保安員は、「公」「官」の服装ですので。日本だと、警備員のユニフォームは警察官に似てはいけないので、ある程度距離を置いたデザインですが、あちらの保安員はよく分からない。農村から出て来て、戸口もあるんだかないんだかの青年が保安員に跳び蹴り。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/zh/7/76/Dyingtosurvive.jpgこういう映画はなべて、ワキをしめるキャラが光るかどうかが大切ですが、この黒孩子、大金がかかる病気なので、郷里の村から見捨てられた青年キャラが、いちばん光ってました。スチールだと髪2323ですが、映画を見ている限りでは、そんな毛髪量多い印象ないです。無口で、映画を見る人が、適度に感情移入出来るキャラ。彼が最後、中国では軽犯罪で警察に捕まると頭髪全剃りだったりするのですが、それを予期したかのように坊主頭で現れ、彼の帰省キップの故郷が、ビーガンの「凯里」だったのも小技だと思いました。

あとはなんだろう。最近の中国映画はエロがあれなのか、あの晩、男女の仲をああいうふうにしたのは、私好みですが、賛否あると思います。 その前の、「脱げ!脱げ!」の鬼気迫る演技がよかったです。トゥオパンと聞こえたのですが、パンが分からない。吧,だったのかな。

神父さんの、ユエンジュー保佑你の、ユエンジューも分からなかった。たぶん聞き違いなのでしょう。上帝なら分かるのですが(ドラえもんの中文版でもそういう)別の単語だったと思う。カトリックプロテスタントで「神」の漢訳が違うのとはまた別の話で。

インドロケは、奇奇怪怪なイメージを盛り上げてはいるのですが、シヴァはチベットでもあんなですよと思ってみたり。燻蒸はよく分かりませんでした。ハヌマーン華人も好きだと思います。孫悟空だから。

現政権はほんと方言は或る程度いいんだなと思いました。台湾の多文化共生に対抗してるんだろうか。主人公の父が上海語をしゃべるので、そう思うです。商売の隣だか上だかの主人も、それっぽかったような気がしました。主人公は何故か、アルアルの強い北京語です。主人公の息子と主人公が、上海語は喋らないけれど、老人のジョークに笑う場面は、聞いて理解は出来るんだなと観客に説明する良い場面だと思いました。

ヤセの大食いキャラになってしまった人は、自分の家に招いてささやかな酒宴を催す場面が、よかったです。日本人でああいう席に招かれない人はいないと思いますが、この映画を見て、あれってけっこうオナー、名誉なことだったんだと思いました。だから主人公もうれしそう。

結局、巨利をむさぼる企業が悪いのか、健康保険や低所得者層への高額医療補助のない(なかった)中国が悪いのか、あるいは両方なのかは、見る人にゆだねられると思います。ゆだねられてしまいました。

我不是药神 - 维基百科,自由的百科全书

中文版ウィキペディアにも登場する、この映画をプロデュースした、"Dirty Monkey"という映画会社の映画冒頭アニメを見て、誰かの画風だと思ったのですが、名前が出ません。あと、この映画も資金アリババです。アリババ、気を吐いてるのか。ダーティーモンキーは貼れる画像がないのですが、下記とか。

坏猴子影业|留学生新人导演短片召集令_剧本

⇒翌日追記。JOJOオインゴ・ボインゴブラザーズでした。あの絵が、さらに何かのリスペクトだとしたら、ホワイホウズはそこから直で影響を受けているのかもしれません。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

最後、「二重生活」もそうでしたが、死者と生者の区別が不分明になりますが、この映画はそういう神話的作法はいらないかなと思いました。死はミスティックでなく、シリアスであるという根底思想がこの病気にはあるはずなので。

以上です。

【後報】

あと、大企業の説明社員が、カンイー!カンイー!の場面でクソをなげつけられるのは、昔懐かし、安徽省出身の女優ヴィッキー・チャオが、歌舞伎町案内人の故郷のコンサートで同様の目に遭ったのを思い出しました。確か、ニューヨークで、アメリカ人デザイナーが仕立てた、旭日旗を模したドレスを着てファッションショーに出て、それがインターネットの反日クラスタに火がついて、という流れだった。

(翌日)