検索で、mixiで、復旦大学を扱った本というのが出て、そこで紹介されていた小説。読んだのは単行本。あとがきあり。装幀 泉沢光雄 DTP ハンズ・ミケ cover photoⒸELKE HESSER/photonica/amana ⒸYOSHIO TOMII/A.collection/amana
初出は中央公論2004年1月号~2006年2月号。単行本化にあたって大幅な加筆修正。あとがきで邦銀上海支店の方や中国の銀行の東京支店にお勤めの日本名の方、商社の方、領事館の方、復旦大学の方、通訳の方、などの名前があります。下調べをしないでまず上海に飛んで取材して小説にしたということで、現地邦人社会がいかにバラバラの視点で別々の中国社会に接しているかが分かります。最後の五章だけ大学絡みで、視点がそれまでの駐在目線、中国バブル紳士目線から突然、土地収用に絡む暴動の背景はやはり権力闘争、企業間の争いなのかみたいなところに飛びます。反日暴動含めて。
アマゾンのレビューを見ると、進出企業と中国の法についての記述が粗いというか、ここちがいますみたいのもあり、双方に取材してそうなるのは、まあいろいろあったんだろうなと思います。朝令暮改朝令暮改とか、北京と上海など、地方でもまた違うとか言われ続けると、まじめに覚える気がなくなる。上に政策あれば下に対策ありの精神だけ書いとけみたいな気分になるのかと。
以下後報
【後報】
作者は上海のシャレオツなお店の紹介もしたかったようですが、なかなかうまくいかなかったのか、あまりないです。頁105、「大公館」という、出版当時は香港からシェフを招いていた高級レストラン、もとはユダヤ人商人がフランスの建築会社に依頼して建てたフランス式洋館で、杜月笙が購入したこともあるという建築物が登場し、杜月笙は自分では住まないで国民党の実力者に差し出してたそうですが、その故事は検索で出た百度にはなかったです。錯綜してるな。「大公館」が上海にはいっぱいあるようで、本書では淮海中路1110号にあると書いてますが、それだとここ。
下の不動産サイトが、本書とおおむね同じことを書いています。戴笠が住んだことになってる。でも差し出したんでなく、徴用。
百度のはワイハイジョンルーじゃないので、合ってるのか不明。
ちがう場所だが大公館でバンバン宣伝してるところ。
百度によると、こっちに杜月笙の奥さんらー(四人)は住んでたとか。でもウィキペディアにはそれは書いてない。
百度によると、この人と杜月笙が大公館に住んだんだとか。
でも上の不動産サイトだと下記に住んだことになってる。
この一事を以ても、自分を強く持って、こう書くんだ、こういう路線で行くんだでやらないと、情報量にやられてしまうのでないかと。信頼出来るブレーンじたいが風見鶏。最初の方では、上海ナイトライフもおいおい書くようなそぶりでしたが、出ません。サパークラブすら出ない。昔からの観光地の、ダスカとか和平飯店ズージャバンド北国の春も演奏するよも、東方飯店でしたか、長-いカウンターも出ませんが、それは作者が、手垢のついた場所を出したくなかったからか。最初だけ豫園が出ます。ナイトライフを案内するはずの、独立広告マンで上海にも支店出した働き盛りのオヤジは、中国で日本クオリティの仕事を求められて支払いは中国の相場価格では、働けば働くだけ赤になって過労死だ、もう撤退しますぅ、というよくある話になります。あと、中国の取引先は、とにかく払わないとか、そういう話。最初は接待とかばんばんなんですけどね。あとがきで謝辞を述べる企業人を実名で出したら、ここが限度なのか。
「スキーム」が頻出単語です。タスクではない、スキームなのだよ。サマリではない、アジェンダなのだよ、みたいな。プレゼン。レベゼン。
頁334に復旦大学が出て、校門だけで終わりかと思ったら、後に又出た。
主人公のひとり、日本人青年なのだが、中国で生まれ育ったので中国語が堪能で、裕福で、日本の実業家やらなんやらから出資してもらって投資ファンドを立ち上げ、ブイブイいわせていたが、日本の大企業の中国進出の支店長にアイデアを盗まれ足元をすくわれ(盗まれなかったら外資系にコテンパンにやられていたので、むしろ日本全体として考えれば利があるだけよかったという話になるかもだが、当人にそんな話が通じるはずもなく、学生を扇動して反日暴動を起こす)が、すごーく無理のある設定に思え、中国で生まれ育っても日本人学校だろうから中国語が流暢になろうはずもなかろう、親がバカにしてたらその言語覚えないよ、とまず思い、北京語上海語広東語なんでもござれで、台湾語もしゃべれるかもしれないとか、ないなと思いました。
stantsiya-iriya.hatenablog.com
これが華人なら分かる気もします。食堂で学生と日本についてで口論から喧嘩になって袋叩きになる場面は、反日暴動の時在日華人留学生がボコられたニュースにそっくりですし。ボコられたので日本側のマスコミにアピールしてた。それと、裕福な将来性ありそうなぼんぼん留学生の、自信たっぷりなタイプと組み合わせると、出来るキャラかも。実家に帰ると母親が溺愛してて、メロン切ろうかあなたの好きなイチゴもあるけどと言ったり、帰らないと電話であなたの好きなグリンピースのご飯作って待ってるからと言ったり(頁313)。女性の作者はどんな顔してこの場面書いてたんだろう。上海で活動しながら都内に実家と別に、独身マンションがあるという設定です。体鍛えてるというのも、あーなんか分かるなと。駐在の奥さんと不倫になるイケメン留学生みたい。あと、福島香織サンの本に出てくる、客をもてなさない、客にちやほやされるだけの中国のホスト、をちょっと思い浮かべました。
stantsiya-iriya.hatenablog.com
葉青サンの小説と同じブレーンなのかなあ。違うのかなあ。mixiではその絡みで出てきてた本ですが。
頁378、土地立ち退き、強制収用にまつわる抗議集会が、南京西路の、上海市人民代表大会が開かれる上海国際展覧中心の前で、会議が開かれる日に合わせて行われていたが、毎週水曜もしくは木曜になり、ある日公安と武警があたりを覆い尽くして、翌日から誰もいなくなった、というくだりは、書き残しておく意味があったろうなと思いました。これは現地ウォッチャーの目で見た情報だろうと。巻末謝辞に出てくる復旦大学教授には、迷惑だったかな。大丈夫かな。烏魯木斉路の立ち退き拒否の里弄がおそらく付け火で消えた事件が抗議の発端だったそうです。
反日暴動の場面で、よく見かけるスローガン「抵制日貨」でなく「懲倭自強」がまず出てきて、これって報道のフィルターがかかってない、現場の情報だろうなと思いました。それと、「殺死小日本」"杀死小日本"。これは当時の報道であんまり見た覚えがないので、まちがいなくフィルターかけてたと思います。刺激的すぎるんだろう。中国語の演説がとてもきれいで、中国語の美しさは名演説にあり、という場面は、孫文の三民主義の解説でも読んだのかと思いました。あれはそういう評価。読むより聴けという。
中国の大学生でも、医学部とかで少し実家に余裕がある場合、市内に部屋借りてるという描写は、全員宿舎の決め事が、崩れつつある時代だったんだなと思いました。先述の青年に遊ばれて妊娠した留学生上がりの現地通訳兼コーディネーターの女性が、精神的にアレになった際、その部屋に匿われる。で、やさしい中国人青年に、親身に世話してもらう。ここは、巷間よく言われる、妻に尽くす中国人男性のパターンですね。いい話。そうした中国人男性の名前が、張だとヂャン、趙だとヂャオと書いてあって、清音濁音は有気音無気音にあらずルールの痛快!朝日新聞が見たら布マスク二枚よりサージカルマスクと言って社の輪転機ぜんぶマスク製造機に転用して月産五十億枚サージカルマスク量産すると思いました。私も、ここは慣習で、チャン、チャオだと思ってたのでびっくりした。これでいくと、姜文は、ジャンになるんだろうか。ヂャンでなく。
巻末謝辞に現地でアテンドしてくれた邦人女性の名前もあるのですが、これ、私のことじゃないですぅと言い続けたのか、あ、これ私のことなんで、とカラッと言いのけてるのか、どっちだろうと思いました。それで。
この女性が、中絶を試みて、旧市街の、豫園のほうの、へんな鍼灸使いのオバアサンのところを訪れるのですが、これって、面白半分に日本人留学生の一部が話してる、事実に即さないフォークロアじゃないですか。一人っ子政策、計画生育で、ふだんは男は女性に尽くすが、ベッドだとDVもそれなりの(ホストと女性客のそれがベッドの男女関係として)カムカムミニキーナとすると、中絶も人工流産も衛生的な専門病院でばんばん行われているというのが事実で、北京のそういう病院を先日地図検索したら、もう影も形もなかったけど、記憶違いかもしれません。ここがものすごく私としては後味が悪く、ちゃんと書けよと思いました。日本では臨月死産になる子も、早産でケリをつける。生まない妊婦ばっかり入院してる病院の話こそ、書くべきだった。通訳も、知らなかったのかな。そういうところは都市戸口農村戸口関係ないです。外地人でも入院出来る。事情を鑑みる。以上
(2020/4/4)
【後報】
>そういうところは都市戸口農村戸口関係ないです。外地人でも入院出来る。
⇒これは嘘でした。筆が滑った。あちこち奔走したの思い出した。外地人はイケるけど、農村戸口はムズいかな。感覚的に。
(同日)