『飲めば都』読了

飲めば都

飲めば都

マイク・モラスキーさんの本*1を検索した時、同名タイトルの本で引っ掛かり、
気になってたので、読みました。レビューでもよく書いてあったし。
小酒井都という初期設定酒乱ぎみの女性編集者を主人公に、
新人時代から結婚までを描いた連作小説です。
時代としてはタイタニック公開前あたりから、二十一世紀初頭まで。
中村うさぎ香港人の亭主から、デリヘルの話を新潮45+に書く前迄かな。
頁45にケータイメールの話が出てきますが、まだまだケータイは電話に使う時代だったはずで、
その辺はすぐ次の話から修正されていきます。
前半は働く独身女性の問題飲酒に関する笑い話がたくさんあり、
終盤に向けてどんどん呑み方が整理されて、旅行やドライブ、結婚などで問題飲酒を回避し、
千葉に一戸建て購入、ハッピーエンドとなります。
編集者というと、推理雑誌というか幻想雑誌の看板編集者になって筒井番やったりした人が、
大学時代からは想像も出来なかったのを思い出します。
人は巡り合い、成長。
見る目のない環境(大学サークル)では伸びなかった、よい例だと思います。
脱線しましたが、化粧を落として寝ないとやばいのは分かっているのだが、みたいな描写で、
作家の女子力に感心しました。

頁167
 壮絶な実話である。結婚前の話だが、朝の四時頃、玄関で眼を覚ました。しかし、妙だと思った。
 ――わたしは汚れた女。
 そう感じた。
 吐くにしても、普通は気持ちの悪くなったところで植え込みに行ったりする。ところが、わざとやったように、衣服が汚れている。そこで思い出した。
 ――わざとやったんだ。
 深夜、タクシーを降りて歩きだした。まだマンションの戸口まで細い道がしばらく続く。そこで、《襲われたら大変》と思った。防御の手段はないかと考えた時、かなりむかむかすることに気づいた。そこで、
 ――こいつはいいや。
 グッドアイデアとばかり、右に左に吐きながら歩いて来たのだ――という。遭遇したくない光景だ。
 酒飲みの論理というのは、時に軽く常識を超越する。それにして早苗は凄い。《そんなこと考える奴、他にいないよ》と評判になった。

こういうエピソード、前半は多かったんですけどね。

頁149
 グラスも、チューリップ型のそれ用だ。紫の文字で《DELIRIUM TREMENS》と斜めに書いてある。この横文字は、ラテン語らしいが、英和辞典にも載っている。医学用語なのだ。――デリリウム・トレメンス。辞典には《アルコール中毒による振顫譫妄》と出ている。早い話が、アル中の禁断症状で震えや幻覚が来ることだ。それを酒の名前にしているところが凄い。
 文字だけではなく、グラスのあちらこちらに小さなピンクの象が描かれている。可愛らしくて、都は好きだけれど、この《ピンクの象》というのは、アル中患者の見る幻覚の代名詞である。

作者も編集者も、ちゃんと勉強して分かっているので、
いつまでも酔って絡んだり記憶をなくしたりを(結婚するしないに関わらず)続けると、
耐性とかもあるからごにょごにょ、と思って、
そういうエピソード減らしたんだと思います。仕事のサクセスとかの話が後半出てくる。
その前の、下記の路線で最後までいくと、あぶない。絶対。

頁98
 ――後先の分からない酔いの中で、水洗トイレに流してしまったのだろうか。それともポケットに入れたのか。
 いずれにしても、過失ではないような気がした。そうせざるを得ない激情が、突然、文ネエを襲ったのではないか。
 タクシーを降り、戸口までの道を歩き出した時、都は思った。
 ――とにかく文ネエは、取り返しのつかないことをしたかったのではないか。そうすれば、泣くことが出来るから。
 と。

これ、理解はしても、毎回許容してたら、社会生活立ち行きませんもん。
エスカレーションするだろうし。
だからこの小説は方向転換しましたし、私は、この小説の一文、
愛さえあれば貧乏以外は乗り越えられる、がどこの頁にあったか、
三日間探し出せませんでした。
(頁123にあった。《愛は、貧乏以外の全てを越える》
取り返しのつかないことなんか体験する必要はありません。
この小説、こんなよい結婚相手が最初からフリーとかうそだよね、と思うかもしれませんが、
それを言ったら、この小説の時代はスカウト規制前の猖獗を極めたあの時代ですよ。
首都圏郊外の駅にたむろする連中が二の腕掴んで連絡先写メする迄離さない、
などのトラブルををきちんと処理して四大出て大企業に就職してるわけです。
幸運の星のもとに生まれてかつ努力した人たちのストーリーそれ自体がファンタジー
伝奇ロマンとして楽しめばよいと思います。
ここまで再起動二十回以上、疲れた。おしまい。

【後報】
最終話で上司が酔って階段転げ落ちますが、ほんとうに危険なので気をつけたいものです。

知人が転倒した時の写真。
救急車到着後、脳の専門医が当直してる病院を三十分かけて探してもらった。
前歯が折れただけで済みましたが、ほんとうに危険です。
(同日)