NHKラジオのキッチュの番組に翻訳者岸本佐知子が出て、自身が訳したルシア・ベルリンの清掃マニュアルを褒め、飲まないアル中ということでしたので読み、ルシア・ベルリンという死んだ作家を再発見したのがリディア・デイヴィスであるとあったのでリディア・デイヴィスを読み、彼女の最初のパートナーがこのポール・オースターという人だそうなので読みました。
原書は1986年出版。平成7年初版。読んだのは平成二十五年の十九刷改版。カバー装画 五十嵐仁之 デザイン 新潮社装幀室
三十七文字×十五行の大きな活字で本文は頁133まで。その後ろを、世界のハルキ・ムラカミの陰にこの男ありの柴田元幸による訳者あとがきと、「群像」1989年10月号から転載された伊井直行解説と、「波」1989年7月号から転載された三浦雅士解説が埋めても頁156で、定価は本体430円(税別)デフレ脱却のお手本のような小説ですので、サクッと読みました。
リディア・デイヴィスと結婚していたのは1974~1977とのことですが、さきに読んだリディアの短編集で、フランスびんぼうたかり暮らしが語られてますので、その前から一緒に過ごしてたんだろうと。大学の同級生だったのかな。それで、北欧系の女性と再婚したのが1981年で、ブレイクしたニューヨーク三部作は、1985年から。彼自身はユダヤ系。父の遺産で創作活動三昧。
解説の一個目によると、モダンのあとミニマリズムがあって、そのあとがポストモダンで、彼はそれを代表する作家なんだそうです。また、訳者によると、アメリカの前衛はなべて壮大かつ破天荒なものなのだが(ピンチョン含む)、彼は初めて、前衛でかつ洗練されてるんだそうです。にしても八十年代なので、スマホもなければパソウコンもなく、クレカすらよく分からない有様で、いまの私立探偵であれば、もっとハイテクを駆使するんだろうと思いました。
登場人物がすべて色の名前なんだそうで、そうすると、頁35の「ラッソ」という色が分かりませんでした。あと、頁97の「スノウ」も色でいいんでしょうか。雪化粧。
探偵はこの仕事がもとで彼女としばらく会えなくなり、彼女は他の男のものになり、そのあいびき現場を見つけた探偵は彼女から「ひとでなし」と殴られます。この仕事がなければ探偵は彼女と中華料理で慣れない箸に悪戦苦闘するはずで(時代ですね)この仕事が入ったので、最後、彼は中国行きのスロウボートです。いかにも世界のハルキ・ムラカミちっくな結末のですが、どうでしょう。『押忍!空手部』の高木主将はアフリカに行き、ニューヨーカーのブルー(人種不明)は中国へ。
以上