『酒乱になる人、ならない人』 (新潮新書)読了

酒乱になる人、ならない人 (新潮新書)

酒乱になる人、ならない人 (新潮新書)

あたまでっかちになるのがこわくて、読んでなかった本。
「酒乱」遺伝子やら「酒豪」遺伝子やら「下戸」遺伝子やらが宣伝文にはありますが、

頁136
 いずれにせよ、このあたりのことは従来の医学研究の関心があまり向いていなかったところで、まだまだ分かっていないことが多く残されています。特にアルデヒド脱水素酵素の下戸遺伝子多型やアルコール脱水素酵素遺伝子多型は東洋人にしかみられないものなので、欧米でのデータがほとんどないという事情もあります。

と、本文では、専門用語の迷宮と学究人ならではの慎重な筆ぶりで、
解明はこれからなんだな、とぼんやり思うだけです。
『日本の酒』*1で、日本酒の麹菌は欧米の学者がコレだコレだと
「発見」したのがすべてハズレで、複数の菌の複合であったとありましたが、
この問題も、いろんな遺伝子が絡み合っているような印象です。

作者は久里浜病院の人なのでアル中に当然詳しいのですが、
アルコール依存症と酒乱を分けていたり、アルコール痴呆とウェルニッケ‐コルサコフ症候群を
分けている点など、「どちらも酒害という観点ではいっしょじゃん」などと
乱暴な感想を抱いたりしました。ただ、若年性のアルコール依存症
特に女性の場合摂食障害の併発が70%という箇所は説得力があり、唸りました。(頁171)

私が前にはてブで書いたことと同じことを専門医の作者が言っていて、
勇気づけられる箇所もありました。バーの一人飲みに関してです。

頁108
しかし酒はどんな状況でもストレス発散につながるわけではなく、ある限られた条件が整ったときのみにストレスを発散できるのだという研究データが出ています。すなわち、ストレスを受けた後(たとえば仕事で嫌なことがあった日の夜)に酒を飲んだとします。そのとき一人で見知らぬバーなどで飲んだ場合、ストレスを解消するどころか逆にストレスが増えてしまうというデータが出てしまいました。これは飲酒時にその人の注意がストレッサー(ストレスを引き起こす刺激)の方に集中してしまったためと解釈されています。一方、仲の良い友人と一緒に飲んだ場合は、その間はストレッサーから注意がそれていたためにストレスが解消されたと考えられる結果が観察されました。この現象は"attention-allocation model"と呼ばれ、これは要するに飲酒時に注意がどこへ向いているかということが、ストレスが解消されるかどうかに大きな影響を与えると解釈されます。なんとなく分かるような気がしますね。

この本も、巻末に「危険の少ない飲み方」を挙げていますので、
気になる人はそこだけ読んでもいいと思います。

私は印象的な文句に弱いので、下記が気になりました。

頁78
 久里浜病院前院長の河野裕明氏はいみじくも、酒は「意味性」を与える、これに対してヒロポンは「忍耐性」、モルヒネは「自発性」に対応すると喝破されました。河野氏の文章は時に難解で知られますが、酒の「意味性」の意味はどうやら、「酒に酔ったときに人は生きる意味、あるいは生きがいに類似した感じを体験する」ということらしいのです。これは「充足感」とも相通じるものがあり、これも酔いのときの快感をとらえた言葉と思います。ヒロポンの「忍耐性」、モルヒネの「自発性」なる意味は若輩の私にはいまだによく分かりませんが、

戦争や高度経済成長を支えたヒロポンの形容は酒同様私には分かる気がしましたが、
コクトーや阿片窟のダウナーなイメージからはこのモルヒネの形容は理解出来ませんでした。
この人は、93だとどんな言葉で形容したのだろうか。
私は「青臭さ」で形容したいと思うのですが、分かって頂けるでしょうか。
というわけで、宿題として次に読む本の一冊が、明確になったところで、終りです。
http://ecx.images-amazon.com/images/I/41LbfImyMeL._SL500_AA300_.jpg
【後報】
酒で乱れることを容認しない文化社会
ユダヤ、イタリア、フランス、スペイン、ギリシャ、中国)では、
乱飲、問題飲酒人口は、例えばユダヤ系はアイリッシュ系の七分の一だとか。(頁185)
しかしそういう社会は、静かに肝硬変に進む人やうつ?の危険性はあるとしています。
まあバラ色ってのはやっぱないんですね。(2014/1/19)