『みそ汁に はこべ浮かべて…』読了

みそ汁に はこべ浮かべて…

みそ汁に はこべ浮かべて…

http://recipe.agrimart.jp/images/abenawo.gif『あの人と、「酒都」放浪 -日本一ぜいたくな酒場めぐり』*1に出てきた本。
誰の文章で出て来たかメモってなく、忘れました。
吉永みち子だったかな?座間に来るみたいですね。*2
よいお店をやられていた*3から居酒屋本に登場し、
それを読んだ私が、
「はこべなんてインコに食わせる草をみそ汁に入れるのか!」
と作者の術中にはまり、読んでみたということです。なんとなく、
東直己の畝原シリーズに出てくる、酒好き正義漢の福祉行政関係の女傑を想起しました。

頁126
ひらめの昆布じめ
ひらめは五枚おろしにしたものを白じょうゆで洗って、表面をふいた昆布で軽く包む。三時間ぐらいから味がのってくる。そぎ造りにして盛ったり、菜の花を昆布で包んで花束のようにして添えたりする。菜の花はゆでて、昆布で包んでそのうまみを添えたものを。

頁142
身欠き鰊の山椒漬け
身欠き鰊20本の頭を切り落とし、焼酎をつけた歯ブラシでよく洗い、山椒の葉と交互に重ねて容器に入れ、酢としょうゆを各2|3カップずつ加え、重しをして漬ける。

私は、神奈川だからなのか、自分の育った家だけなのか、
棒鱈の戻し方すら縁者に知る者はおらず、
芋棒と海老芋の名前をそれぞれ知識としては知っていても、
その両者を結びつけて考える者はいない環境ですので、読んでためいきをつくばかりでした。
富山に行ったときに、何でも昆布じめにする文化に出会っているのですが、
いまだに昆布でシメたのとシメないのとで、そのお味の違いがよく分からない。
化学調味料で、もう私の舌は、繊細な味の違いが分からなくなっているのかもしれない。

頁142
そら豆の白玉汁粉
白玉団子にそら豆のあんをかけた若草色のさわやかな汁粉は私の大好物。新じゃがいもの青梅煮といっしょに添えて、軽食やお茶うけに喜ばれています。そら豆(むき豆)200gは塩ゆでし、熱いうちに皮をむいてすり鉢ですり、裏ごしをかける。湯2|3カップに砂糖40gを煮とかし、そら豆の裏ごしをまぜて、塩少々を加える。好みで白玉団子を浮かす。

冷蔵庫がなかった時代の涼をとる軽食レパートリーがいくつも記載されており、
贈る言葉ではないのですが、「♪もう〜もど〜れない〜」とくちづさみつつ、
それでもこのレシピで夏を乗り切ってみたい気はしてしまう、美しさでした。

頁136
長いもと小柱、カテージチーズの花わさびあえ
花わさびは塩水で洗ってザク切りにし、水で洗って密閉容器に入れ、熱湯をひたひたに回しかけて蓋をし、氷水につけて急激に冷やす。長いもと小柱とカテージチーズをまぜ合わせ、花わさびもまぜ、ポンス
(ママ)じょうゆを花わさびのつけ汁で割ったものをたっぷりとかける。

頁136
わさびもち
大和いもは薄切りにし、酢水で洗う。ゆり根は塩水で洗う。それぞれ水で洗ってやわらかくなるまで蒸し、裏ごしする。砂糖と、裏ごしした大和いもとゆり根を加えて湯煎にかけ、練り上げる。ほんのりした甘さがよい。これを一口大にして、こまかく刻んだのし梅をあんにして茶巾に包み、おろしわさびをのせて形をととのえる。

https://www.momokawa.co.jp/pix/tokuhon.jpg魚もそうですが、
こまかい下ごしらえが苦手で面倒で、
「そんなの包丁いっぽんさらしに巻いて、
ハレルーヤー、の人じゃないんだから」
とはしょりたくなってしまうのですが、
「だから男ってダメね」と
上から目線で言う人もいず、
こういう丁寧な料理を食べてみたい人の
気持ちも考えないといけないな、と思います。
(誰もが食べる側に回って、
しかもごくたまになら食べてみたい、のだと想像します)
http://ecx.images-amazon.com/images/I/414RwpavAtL.jpg
上記のような料理と、
あと食器に関する記述は素晴らしく、
前半の人生回想記を見て、
青森の旧家でみっちり仕込まれ、
京都で質素倹約生活を経験したことが、
作者の骨肉になったのだな、
と感じられました。

京都と女性から、松田道雄『花洛』の、
京都女性の立小便を想起して、
つい検索してしまいました。
すいません。

反面、作者の別れた亭主やその親友の太宰など、
地方旧家の素封家の男子の欠落と依存に関しては、
戦後農地改革とかあっていい加減シャッフルされたろ、と思うのですが、
監禁王子とか今世紀もありましたし、しかしそれも十余年前ですし、
どうなんだろう、と思考停止しています。
http://www.tohoku21.net/japan/05/05_02/img/05_02_01_01.jpg
私もプラスチックのお椀やめて木のお椀買いますよ。
さすがにこの本が推奨するような五千円以上のものなんか無理だし、
日常の、洗剤を使わない手入れもしない(洗剤で洗っちゃう)と思いますが…
タイの屋台のカラフルなプラスチック食器を見て、
伝統とかないんかなこんなハデハデしいんつこて、
と思いながら、自分も木目調なだけで、プラスチックつことるなあ、
と反省致しました。でもデパートでみて高かったら今のままにします。
http://www.tohoku21.net/japan/05/05_02/img/05_02_01_03.jpg
http://www.tohoku21.net/japan/index.html
姪っ子の文章が触れていますが、
針生一郎が書いた元主人の評伝が後妻サイドからのみ語られていること、
それが世に定着してしまいやしないかの危惧、などがこの本の背景にあるようで、
その仄暗いルサンチマンのゆらゆらとたちのぼって、
けむりがうっすり見えるような、
そんな凄みを感じさせる本でした。どっとはらい