『まいにち酒ごはん日記』"The Daily Alcohol Meal Diary." by turedurehanako 読了

そのへんにあった本。編集人/森下康樹 編集者/羽賀千恵 デザイン/石松あや(しまりすデザインセンター)石川愛子 本文・カバーイラスト/樋口たつ乃

著者がInstagramに投稿した記事をまとめた本。2018年春から2021年夏まで。「はじめに」と「ハナコレシピ31」「おわりに」がついています。

私はこの人の名前は、清野とおる『東京怪奇酒』五杯目:東京都S区O町「幻の大仏」(前後編)に登場してるので知っていて、その話に登場する、大仏のいる公園というのがどこか知りたくて、その辺にあったこれを読めば、公園に関するヒントが出て来るのではないかと考えて読みました。

なにしろ東京ウォーカー編集長加藤サンはこの大仏を目撃したことで編集長に昇進したと言っても過言ではないタイミングだったそうですし、同行者の平川恵という人は、キッコーマンの豆乳20本セットが当たるという僥倖に恵まれています。私もこの公園に行ってみたかった。というか、私の得意な脳内変換で、「A駅」から徒歩十五分の途中の公園という情報が、「A公園」に変換されて私の脳裏に残ってしまい、都内の「A公園」というと有栖川宮記念公園もしくは荒川自然公園でFA、どっちだ、と気がはやってしまい(次点として安藤忠雄メモリアルパークというのも考えましたが、そんな公園現実に存在してませんでした)本書を目を皿のようにして読みましたが、公園は登場しませんでした。途中で自分で建てた新居に引っ越しするので、旧居近くの公園なんかばらしてもええやないかと見当違いの焦燥感を抱きましたが、それは本当に見当違いで、「A公園」ではなく「A駅近くの公園」であったのでした。有栖川宮記念公園だと最寄り駅は広尾になるので、「A駅」(麻布を想定してました)ではない。

それで清野とおるのマンガ読み返して、「S区O町」というと、有栖川宮記念公園自体は港区ですが、広尾自体はギリ渋谷区なので、「O町」なんてどこか分かる必要もないですし、やはり有栖川宮記念公園だろうと思った後で、「A公園」ではなく「A駅近くの公園」であることが分かり、ギャフンとなりました。麻布十番駅(港区)に近い渋谷区に「O町」はなさそうです。それ以外の「S区」「A駅」なんていうと、世田谷区には「A駅」はありませんし、墨田区にもないのですが、新宿には曙橋があり、しかし本書にはチベット料理は出てこないので除外出来、品川区に青物横丁があるのがやっかいですが、ここは素直にあともうひとつの「S区」で、姉妹の「A駅」と考えるべきだろうなあと思い、そうするとあまり意外性がないというか、フムスはじめ、中近東系の料理が結構出て来ることや、南インド系のミールススリランカ料理が出て来ることもなんとなく納得してしまうので、受け入れられません。そんな予定調和はイカンゴレンです。青物横丁に大仏があるのと、お困りでしたらのあの駅に大仏があるのとでは、雲泥の差です。

『東京怪奇酒』のツレヅレハナコサン。私の中では、こういうかんばせの方としてイメージが定着してました。

ご本人のSNSでは、『ワカコ酒』の新久千映イラストの似顔絵が使われており、だいぶイメージがちがいました。

お名前のローマ字表記は、下記著書の表紙から。ヘボン式でなく訓令式

頁153に、2008年から2015年までブログをやり、その前の2004年~2008年はホムペをやって、「どうかしてる飲食店訪問数」をこなしていたとあり、ヒマだったのだろうかと考え始めたら、就職氷河期世代っぽいし… などと空想が膨らみましたが、編集者の本業がありつつの並走とのことで、体力もすごいが、ブログ執筆の工数と、満たされる承認欲求に食われなかったのもすごいと思いました。世のプロたちがロハのSNSで消耗しきってしまい、有料発信しないとからだ壊すと考えてnoteが出現したと考えると、インスタ書籍化も無難な流れですが、あと、インスタがオワコンになったら記事もぜんぶバニッシュするので、別の媒体で残したかったって理由が、とてもうなずけると思いました。はてなのサーバは人類滅亡の日から十万年は稼働し続けてほしい。グレッグ・イーガンの小説にあるように。

www.gentosha.jp

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ただ、一時期ブロガーと言われていたのがあんまり好きじゃなくて。なんか軽い感じがして。でもやっぱり、私はもともと雑誌や書籍の編集者を本業としながらも、自分だけの文章が書きたくてインターネットを始めて、そこからいろんな人が読んでくれるようになった。書きたいときに書きたいことを自分の好きな口調で、なんの校正も入らず18年間書き続けてきたことって、言うなれば文章の筋トレ。

私なんか、もういつでも修正が出来るはてなブログに慣れ切ったので、弛緩した文章を垂れ流すことこそブログの本懐と開き直っています。ぜったい商業的な文章のレッスンになってないと思う。ツレヅレサンは料理関係の仕事で毎日東奔西走してますので、もう編集者と二足の草鞋なんか履いてないだろうとも思います。本書は、日記ではあるが日記でない感じで、コロナカでステイホーム、家飲み中心に生活がシフトしたと「おわりに」で書いてますが、地方取材などをピックアップした記事をより抜いて厳選して構成してるので、あまり日常的な更新を感じさせません。いつ緊急事態宣言が始まり、いつ緩和されたかも分からない。取材記事のある時は、感染者数減少してたんだろうなと思うだけです。

この表紙の男らしい食事も、惹かれて開いた理由のひとつです。頁95に文章。サッポロラガーかクラシックの、瓶ビールとの取り合わせが秀逸。しかし男性だと量なので、玉蜀黍🌽一本では足りないだろうとも思われるので(だいたいゆでるのがめんどくさい。私は缶詰のホールコーンしか買いません)女性なりの、罪悪感を抱かない食事なのかもしれないと思いました。

話を『東京怪奇酒』にもどすと、ツレヅレ宅でホムパ的に四人でツレヅレ謹製の手料理をつまみに酒を飲むのですが、清野とおるは執拗にちくわの磯辺揚げのレシピを聞き出そうとし、「僕の磯辺揚げ史上最高の磯辺揚げでしたよ… この一品だけでも自分で作れたら「家飲み革命」が起きるでしょう」(頁94)とまで言うのですが、本書のトップバッターもざるそばと天ぷらで、ちくわとそら豆のかき揚げが登場します。「日本人の最大の発明といってもいい天ぷら粉(私は日清製粉ウェルナの「コツのいらない天ぷら粉」派)を使えば、誰でも簡単にカラッと揚がります。簡単だよー!」(頁6)だそうです。日本ならそうかもしれないが、中国辺境で、現地で入手出来る麺粉で、コロモはかき混ぜるのでなく菜箸で切るようにを実践しつつ作ってたなあと、ふと思い出します。私はもともと中華鍋で天ぷらを揚げる家庭で育ったので、中華鍋を見ると揚げ物がしたくなるです。トンカツとか、コロッケとか。パン粉は当時中国辺境では手に入らず、さすがに日本から送ってもらった。

中華ネタでいうと、頁33に、私も以前ここで感想を書いたことのある京阪神エルマガジン社の『京都の中華』が紹介されていて、この本は、かつて相互扶助で動いていた京都華僑と京都の在日コリアンの関係を在日コリアンの著者が引き摺っていたわけでもないでしょうが、浮世の渡世のしがらみ的に載ってるお店が玉石混交で、そこが惜しいと思っていたので、頁33に出て来るお店がそうでないので、よかったです。京都は、おいしいという口コミも、けっこう意図的に流してホステスから同伴の客へと広めたりするので(ほかの街もそうか)油断ならんです。

stantsiya-iriya.hatenablog.com

外国への食べ歩き旅行は、うらやましかったです。スリランカ、食事だけはしてみたい。また、頁120の「旧フランス領インドシナ料理」は、断片的には町田のカンボジア料理も出してますし、ラオスとイサーンの「カオチー」という料理の違い、イサーンではもち米握りを薄焼き卵で巻いたのなのに、ラオスに行くと例のフレンチバゲットサンドになってしまう現象などのことだろうかと思いましたが、分かりません。たぶんちがう。上海で人民共和国になってからもずっと続いていた旧仏租界のフランス料理レストランの名前も忘れました。

日本では各地の新鮮な食材、海外では特色ある料理と、なんでもござれですが、最近私がコンプリートしたいと思ってるペルーがないのがちょっとさびしかったです。ブラジルは塩とにんにくという感じですが、ペルーはクミンもコリアンダーも醤油も使うのに、「洋食」というくくりなのが、おもしろくておもしろくて。でも東京のペルー料理店はなべて高いという(もともと高いので、コスパガーな人向けでない料理が、更に高い)以上