『酒について』読了

酒について (1976年)

酒について (1976年)

酒について (講談社文庫)

酒について (講談社文庫)

『酔っぱらい読本』*1 *2編さんのきっかけになったベストセラーということで、
読みました。借りたのはハードカバー。やけに状態がいいなと思ったら、
初版(1976年、原書は1972年)から六年後の第十五版。
後書きによると、第十版が初版の一年半後で三十数個所の訂正、
さらにその一年二ヶ月後の第十三版でもう十数箇所訂正とのことです。
大変なベストセラーだと思いましたが、なぜそんな売れたか、
いま読んでもさっぱり分かりません。
On Drink

On Drink

原書はkindle化されない、忘却の彼方に位置する本のようです。
ほんとになんで売れたんだろう。
内容の大半はワインとカクテル、飲み方指南みたいな本ですが、
ワインブームが来るのはまだまだ先だし、イギリス人が書いた、
例のブルゴーニュをバーガンディと記すタイプのワイン本は、
田村隆一訳のこりん☆ウィルソン本を前に読み*3
この本より奥行きがあったと思います。
だとすれば、カクテルに関するウンチク本として受けたのかな?
各種カクテルの肩ひじ張らない作り方は披露されてますが、薀蓄なんてないです。
シェーカーなんて自宅の酒棚用に買う必要ないだろう、とかそういうざっくばらんな本です。

…ああ、当時、マイホームを持った暁には、その台所の一角にこじんまりとした、
神棚程度のバーカウンターを持ちたいと夢見た人たちにウケたのかもしれないと思いました。
スコッチとチーズやサラミなどの取り合わせに代表される、
当時のサラリーマンに新たに浸透しつつあった酒文化は、この本には出てきません。
イングランド人の作者は、スコットランドの酒はそんな飲まなかったようです。
で、作者は労働者階級出身でオックスフォード卒ですが、
労働者の悪魔の酒、ジンにもほとんど言及してません。
なぜか、食べ物に関しては、たびたびカレーが出てくるのですが、これは戦前まで、
資産も後ろ盾もなく高等教育を受けた者の出世コースがインド官僚だったという本
*4の記述を裏付けているようで、面白かったです。
どの料理にどの酒が合うか、という章にも当然カレーがあり、
そういえば、神の雫でも、中華に合うワインはやっても、カレーに合うワインはやらなかったな、
と思いながら読むと、カレー料理には、

頁69
ビール、りんご酒、あるいはタフなキアンティの赤をやってみること

とありました。キアンティは、キャンティのことですね。
キャンティ単体ではほとんど語られていないのに、ここで燦然と出てくる。
作者は落日の大英帝国の一員として、アルジェリアの仏独立がうれしくて仕方なかったようで、
アルジェリアが独立したからそのワインをボジョレー銘柄で売れなくて
残念閔子騫でござるよニンニン、みたいなこと繰り返し書いてます。
そして、人類あるところ酒あり、みたいな文章書いていて、
イスラムは?とか、クスクスと合う酒は?とか突っ込みたくなりました。
ワインの合わない料理にはちょくちょくギネスが出てきて、
そんなところもイギリス人だと思いました。
冷やしたシャンパンに等量ギネスを注いで作るカクテルを、
ブラック・ヴェルヴェットと呼ぶそうです。

それなりに知識は高まりましたが、なぜこの本がそんな売れたか、
まだ分かりません。ほかの現代のITビジネスマンも理解出来ないから、
原書も日本語訳もkindle化してないのかもしれません。
違うか、ただたんに電子版下がないだけかな?
OSRソフトと誤字校正の作業工数に見合った売れ行きが云々云々、以上。