- 作者: 獅子文六
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/12
- メディア: 文庫
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1967年(昭和四二年)著者七拾四歳のトシに、讀賣新聞に連載されたもの。
講談社文芸文庫の解説は佐藤洋二郎。
作者 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8D%85%E5%AD%90%E6%96%87%E5%85%AD
薩摩治郎八 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%96%A9%E6%91%A9%E6%B2%BB%E9%83%8E%E5%85%AB
作者とサツマは不思議な縁でつながっていて、作者二度目の渡仏時に、
サツマの建てた日本学生会館に宿泊したのが、まずご縁のつきはじめ。
頁24
「どうだ、一ぱい……。久しぶりだな」
私が酒ビンを持つと、
「いけねえんだ、目下……。肝臓が悪い」
Kは、手を振った。
「肝臓? ほんとかい。もっと末端のほうじゃないのかい」
(中略)
頁31
パリの日本人の友人で、妻帯者は少いが、そのために彼らは、どんな苦労をしてるか。あんなことに、いちいち金を払うだけでも、厄介な話だが、あげくの果てには、今夜のKのように、酒の飲めない病気にかかったり――
最初の留学時、安宿で南京虫ピュネーズに苦しめられたので、
安くてよいところはないかということで日本学生会館に投宿するも、
そこは仏蘭西でありながら、西園寺流英国流の規律が支配する場所で、
朝飯は食堂で食べねばならず、ベッドでクロワッサンとカフェオレを食べたい作者は、
頁46
「お安いご用だが、あの料理女、そんな強い酒を飲むのかい」
「アル中なのよ。朝からロムを飲んでるわよ」
私はおかしくなった。この厳粛な会館に、アル中女が働いてるとは面白い。
「じゃあ、今日外へ出たら、早速、一本買ってくるよ」
「でも、大ビンの必要ないわよ。小ビンで結構よ」
彼女は、どこまでも、親切気を見せてくれた。
そのハナ薬の効能があって、私はベッドで朝飯を食う悪習を、継続することができたのだが、(以下略)
結局ほかに下宿を見つけて飛び出し、新しい下宿はいかにも南京虫が出そうでしたが、
出なかったのでラッキーだったそうです。
頁55
Aがそんな気を起したのも、たぶん、一等国日本の意識があったからだろう。第一次大戦後で、戦禍を蒙らなかった日本の国威は隆々、円価は高く、フラン価は低く、パリの日本人はずいぶんモテた。セーヌ河岸に、東京アベニュという町名さえ生まれた。但馬太郎治だって、現在の国力だったら、パリの中流生活がせいぜいだろう。
次の縁は、敗戦後、疎開先から東京に戻った筆者一家が、
中野の自宅が空襲で焼失してたわけなので、出版社の好意で、
駿河台の洋館に住むことになるのですが、それがもとサツマ邸。
その次の縁は、落ち着いて来たので、大磯に家を買うのですが、
それがもとサツマの別荘。向かいが伊藤ハクブンの滄浪閣だったとか。
(この輭間作者は最愛の妻と死別します)
で、晩年の新聞小説だからか、このあたりで、サツマの自伝からの引用、否、
要約便概とそれに対する感想をだらだらだらだら続けていて、
むろんサツマそのままでなく、別名でフィクションとして書いてるわけなので、
記憶違いとかもそのままの、適当上等なノリの文章なんだろうなあ、
と思いながらそこを読み飛ばしたら、ずいぶん早くクライマックスに辿り着きました。
功成り小説家として名をなした作者は、編集者にさそわれて、吉野の櫻を見に行き、
時季外れで、そいじゃ徳島の眉山はどうならと大阪から徳島空港に飛び、
そこで、サツマが脳溢血で倒れてそのまま療養生活を数年送っていることを知り、
会ってくるわけです。ついでに寂聴の生家も見ます。とにかく阿波女マンセー、
男は讃岐、女は泡阿波に限る、という強い主張が横溢する文章で、
そりゃよかったですねと思いました。だからジャクチョーにょごぜは徳島県人なのか。
下記は作者の阿波踊りの感想。(実体験でなく、伝聞のみによるもの)
頁296
しかし、この踊りの起源は、蜂須賀藩主の入国以来といわれ、古い習慣なのに、不思議なエキゾチシズムがある。映画“黒いオルフェ”の南米のカーナバル風景と、ひどく似てるらしい。こんな祭りの空気は、日本に類例がないかも知れない。それで、フランス通の福島慶子女史なぞも、毎年見物にくるそうだが、但馬太郎治が遊意をそそられたのも、私には、よく気持ちがわかるのである。
NHKのテレビ番組で、妄想ニホン料理*2というのがありましたが、
妄想ニホンの祭り再現プロジェクトというのがあっても良いかもしれません。
博多どんたく山笠とか、諏訪の御柱とか、ねぶたとか、
伝聞だけで再現したら、そりゃすべて黒いオルフェになるだろうなあ、
と思います。ちなみに私は黒いオルフェは話は聞いたことありますが、見たことなく、
太陽がいっぱいの、黒いマリアが海にドボンのシーンとか思い浮かべながら、
これを書きました。以上
*1:読書感想 http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20161228/1482928424
*2: