カバー:畑農照雄
訳者あとがき有り
二番目の話「チャールズ」は
短編集『くじ』にも入っていて、
くじのほうでは
フィクションだと思って
読んでいたので、
まさか作者の実録育児録とは
思ってもみず、衝撃でした。
(「くじ」収録が先だとか)
息子がいつも話している
幼稚園の最悪問題児が、
実は、という話。
捧腹絶倒の育児録、とのことでしたが、
さすが魔女と評された作家、
なだ いなだの『パパのおくりもの』とは全然違う。
アマゾンレビューでは、伊藤比呂美を引き合いに出してる人が、
いましたが、読んだことないので分からないですが、違う気がします。
- 作者: Shirley Jackson
- 出版社/メーカー: Penguin Books
- 発売日: 2015/05/05
- メディア: ペーパーバック
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シャーリイ・ジャクスン 英語版 Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Shirley_Jackson
日本語版ウィキにはバイオグラフィーがないので、英語版。
本文中にも、くわえ煙草で家事をする自分を自嘲する場面があり、
48歳急性心不全。英語版にひかれてる伝記によると、
ウェイトコントロールもべーやーで、
薬もそれなりに濫用していたようで、時代と思います。魔女。
というか、ハズとの不正常な関係が伝記では詳細に記されているそうで、
それを知った上でこれを読むと、なんだなー、とも思います。
私はこのモノホンの魔女を、おひとりさまのホラー作家と思っていたので、
学究肌のパートナーと四人の子ども(この本では3人まで)に恵まれた、
勝ち組ってことで、へーと思って読んだのですが、なんともなあ。
『ずっとお城に暮してる』絶対書きたかったんだろうなあ。
お城は、これから讀むつもりです。
グーグルブック 処刑人 解説
https://books.google.co.jp/books?id=Eg-VDQAAQBAJ&lpg=PT223&ots=YlJolHNFay&dq=%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%A4%20%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%B3%20%E4%BC%9D%E8%A8%98&hl=ja&pg=PT223#v=onepage&q=%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%A4%20%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%B3%20%E4%BC%9D%E8%A8%98&f=false
パートナーのキャラへの投影や、青への執着などが書いてあります。
で、『処刑人』のアマゾンレビュー見ると、文遊社からも、
『絞首人』のタイトルで同時期に邦訳されてるとあり、
どうしてもこの作家は混乱に読者を引きずりこみたいのだな、と思いました。
以下後報
【後報】
- 作者: シャーリイ・ジャクスン,市田泉
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2016/11/30
- メディア: 文庫
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- 作者: シャーリイ・ジャクスン,佐々田雅子
- 出版社/メーカー: 文遊社
- 発売日: 2016/08/23
- メディア: 単行本
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すでにシャーリイはこの世の人ではなかったとのこと。ウィキの48歳没に対し、
あとがきでは享年46歳となってます。これは、生前、良人との年の差から、
1919年生まれを主張していて、しかし実際は1916年生まれではなかったか、
とのウィキの記事で補完出来ます。西海岸で生まれ育ち、結婚後は、
東部ニューイングランドで暮らした。この本には続編があるそうですが、
そっちは一部ミステリマガジンに訳出されてるだけみたいです。
- 作者: Shirley Jackson
- 出版社/メーカー: Penguin Books
- 発売日: 2015/05/05
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『アゲイン』『まことちゃん』書いたのと、
シャーリイのこのスラップスティック家族黙示録は、
同じベクトルではないでしょうか。楳図が、ホラー以外、
ギャグ描くにあたって、シャーリイのこれ念頭に置いたのかもしれない。
ギャグとホラーの違いは厳然とあるのですが、同じノリで書いてるとしか、
思えない。私は「たたり」しかシャーリイの長編読んでませんが、
山荘奇譚の幽霊屋敷と、ヴァーモント州に借りた古い一軒家との相似、
頁166流感騒動に書かれた、各寝室が色違いのベッドカバー、寝具という現実が、
『丘の屋敷』の各寝室の設定に使われていて、青がヒロインの部屋で、
子ども部屋がいちばんやばい、冷気が漂っている、というあたりが、
この人は現実も空想もそうして消化して生きているのだな、
と分かると思います。
下記は、三人目を生むのは一番目二番目よりラクだ、の場面。
(2017/9/28)
【後報】
頁85
「お名前は?」女事務員は鉛筆をかまえて丁寧に問うた。
「名前?」わたしは漠然と言った。それから、思い出して、それを相手に告げた。
「お年は? 性別は、職業は」
「作家です」と、わたし。
「主婦ですね」と、彼女。
「作家です」
「主婦にしときましょう。係の医師せんせいは? お子さんは何人?」
「二人です。いままではね」
「正常妊娠ですか? 血液検査は? X線は?」
「ねえ――」わたしは言いかけた。
「ご主人の名前は? ご住所は? ご職業は?」
「主婦と書いといてください。主人の名前ですけど、じつのところ思いだせませんわ」
「摘出子ですか?」
「なんですって?」
「ご主人はお子さんの父親ですか? ご主人がおありになりますか?」
「ねえ」わたしはあわれっぽく言った。「いいかげんに階上うえに行かせていただけません?」
「まあなんにせよね」と、彼女は言って、鼻を鳴らした。「あなたはじつのところ赤ちゃんを産むだけなんですから」
彼女が看護婦のひとりに微妙な合図を送ると、看護婦は、その朝だれもがわたしを支えるのに使ってきた、その同じ腕をとった。(略)
頁87
わたしは片目をあけた。ふいに、夫がベッドのそばに坐っていた。なんだか悲鳴をあげたいのを必死にこらえているような顔つきだった。「ここにいるように言われたんだ」と、彼は言った。「わたしは待合室を捜してたんだがね」
「それなら廊下の向こうの向こうの端よ」わたしは不機嫌に言って、ベルを押し、看護婦が駆けつけてくると、「この人をここから出してくださいな」と、あごで夫を指しながら言った。
夫はみじめそうな目で看護婦を見て、「ここにはいっていろと言われたんだが――」と言いかけた。
「どぉぉぉぞ、かまいませんわよ」看護婦は言って、またわたしのひたいをなではじめた。「ご亭主がここにいるのは当然ですものね」
「彼が出てゆかなきゃわたしが出てゆきます」わたしは言った。
ドアがばたんとひらいて、医師がはいってきた。「ご主人がきておられると聞いたんでね」快活に言って、彼は夫と握手した。「すこし顔色がよくないようですな」
夫は弱々しくほほえんだ。
「まだお産で父親が死んだためしはありませんからな」そう言って医師は、どんと夫の背中をたたくと、わたしに向きなおった。(略)
頁88
午前中いっぱい、だれも実際に出ていったりはいってきたりするものはないようだった。わたしが目をあけると、そこにだれかがいる、つぎに目をひらくと、いなくなっている、という寸法だ。今回目をあけてみると、そばに感じのいい顔立ちの看護婦が立っていて、わたしの腕を脱脂綿の小片で拭いているところだった。いつもはわたしは注射にたいして臆病なほうなのだけれども、このときばかりは、あの安心させるようなほほえみをもう一度思いだしたかのように、愛想よくそれを受けいれた。「まあまあ、やっとあなたがきてくれてとても嬉しいわ」と、わたしは看護婦に言った。
「いくじなし」彼女は紛れもなくそう言って、わたしの腕にずぶりと針を刺した。
「どのくらいでこの効果は切れますの?」深い疑惑をもってわたしは彼女にたずねた。というのも、いつもわたしは、看護婦たちが注射の心理的効果だけで充分だと思うのではないかと恐れており、実際に、いま注射されているのは、毒でこそなけれ、薬にもならない調合物ではないかと疑っているからである。
「どうせあなたにはわかりませんわよ」看護婦は謎めいた言葉を残して出ていった。
彼女が出ていって五分ぐらい経つと、注射はとつぜん利いてき、わたしはくすくす笑いはじめた。つぎに目をあけたとき、わたしはたったひとりその部屋に横たわって、くすくす独り笑いをしており、ベッドのそばにひとりの女が立っていた。彼女は看護婦でなく、人間で、青いだぶだぶのバスローブを着ていた。「廊下の向かい側の部屋にいますの」と、彼女は言った。「あなたのお声を聞いていました」
「わたし、笑ってましたのよ」わたしは限りない威厳をもって言った。
「聞こえましたわ、明日は多分あたくしがそうなるんでしょうね」
「やっぱりおめでたですの?」
「いずれね」彼女は陰気に言った。(略)
彼女の上の息子、ローリーは、冒頭の魔少年のエピソードがある以外は、
さしてなく、がさつな男の子に普通に成長したように見えます。
その次の長女ジャニーは、五歳くらいの時、ミセス・エルノイでもあり、
七人の娘を育てながらシャーリイの娘ジャニーを演じるという、
二重生活を送っていたようです。
頁142
わたしがぶつぶつつぶやきながら台所にひっこんだあと、一分ほどして、ミセス・エルノイが戸口から顔をのぞかせた。「マーサはやっと出てきたわ。でも、べそをかいてて、クッキーをもらうまでは泣きやみそうもないんだけど」
「泥んこだらけの子には、クッキーはあげられませんよ」と、わたし。
「マーサは泥だらけなんかじゃないわ」ミセス・エルノイは説得力ある調子で言った。「悪い子だったのはアンよ。マーサはずっとあっちのリンゴの木の下で、おとなしくお遊びしてたんですからね」
いまでもわたしの覚えている悪夢のような出来事のひとつに、デパートの食堂で、ウェイトレスがスープの皿を置こうとしたまさにその瞬間、七人のエルノイの娘たちがそろってミセス・エルノイの膝によじのぼろうとしたときのことがある。「いまお膝にだっこしてあげることはできませんよ、みんな、あたしがお昼をいただこうとしてるのがわからないの?」ミセス・エルノイは不機嫌に言い、ウェイトレスはわたしにぎょっとしたような目を向けると、あとずさりして、まともにローレンスの靴の拍車に衝突してしまったのである。(略)
ページは忘れましたが、訳者は、ツナという単語を使わず、
マグロと訳しています、ツナを。
下は二女サリー。車のバックシートで逆立ちをするのが好き。
しおしみのクトゥルーちゃんかと思いました。
頁215
「ほら、ごらんなさい、こんなにいっぱい牛がいるわ」むりにはしゃいだ声をあげて、わたしはサリーに言った。なんといっても、わたしの根拠がないかもしれない恐怖心を、幼い子供に伝えたくはなかったからだ。「こんなにいっぱいの牛、まだ見たことがないでしょ?」
「これ、牛じゃない」サリーは言った。「巨人よ」
「ほら、立ち止まってわたしたちを見ているわ」わたしはフロント・シートの中央ににじりよりながら、うわずった調子で言った。「きっとわたしたちのことをなんだろうと思って見てるのよ」窓のすぐそばに突きだされた牛の顔に、わたしは痙攣的に笑いかえした。「ごらんなさい。かわいい牛ね」
「巨人がいっぱい、いっぱい、いっぱい。そしてサリーが巨人を見ると、巨人のおかあさんがきてサリーを食べちゃうの」
これはわたしのひそかな懸念とあまりによく似かよっていたから、思わずわたしは、牛の群をおどかして潰走させた場合の自殺的な結果を無視して、警笛に手のひらをたたきつけ、同時に足でペダルを踏んだ。牛の群は、ひとしきり押しあいへしあいしながら右往左往したあと、ついに、満場一致で走りだす方角を決定したが、それはたまたま、わたしたちの向かっているのと同方向だった。だから、サリーはうしろの窓から大声で牛たちに声援を送り、わたしは必死に警笛を押して走りながら、わたしたちは、田舎道を疾走する牛の群れを、車で追いかけるという奇妙な状態に陥った。「走れ、巨人、走れ」サリーは窓越しに喚きたてた。わたしはある脇道を見つけて、タイヤを軋らせながら大きくそこに曲がりこむと、肩で息をしつつ車を止め、遠ざかっていく遠雷の轟きのようなひづめの音に耳をすまして、溜息まじりに、「やれやれ」と言った。
「巨人はとってもいいときがあるの」と、サリーがふたたび逆立ちして言った。「それからときどきとっても悪いことがあるの、それからとってもいいことがあるの、それからときどき――」
たしか、サリーの指のことがあったのは、わたしたちがリンゴを買いにいった日だったと思う。(略)
頁217
(前略)「あれ、巨人?」サリーがフロント・シートに移ってきて、外を見ながらあやふやに言った。「ねえ、あれ、巨人? なに、あれ?」
「火事よ」わたしは言った。「お百姓さんのおうちが燃えているのよ」
「どうして?」
わたしは、いまこそサリーに、火遊びの危険さを教えるいい時期ではないかと考えたが、そう思いついたときには、すぐにその瞬間は過ぎてしまっていた。
「サリーちゃんには巨人に見えるわ」と、彼女は言った。「ねえ、ずっとここにいるの?」
「道路がすくまでよ。あの車がぜんぶいなくなるまで待たなきゃならないの。そうしないとターンできないから」わたしは言った。
「じゃあもうひとつリンゴ食べようっと」そう言ってサリーはバック・シートにもどると、リンゴを捜しだし、また逆立ちになった。「サリーちゃん、リンゴの歌をうたってあげるね」と、彼女は言った。
下はジャニーがはしかにかかった時の話。
頁238
「あなたの名前はなんていうの?」サリーがたずねた。
「バッデンテーン」と、ジャニー。
「おうちはどこ?」
「横町の先よ」
「爪はきれいにしとかなきゃいけないわ」わたしは穏やかに言った。「たとえ――」
「あなたの名前はなんていうの?」サリーがローリーにたずねた。
「ローレンス」と、ローリー。
「いやーん。サリーが『あなたの名前は?』って訊いたらば、『バッデンテーン』と言わなくちゃだめ。ねえ、あなたの名前はなんていうの?」
「ローレンス」
「バッデンテーンだったら」サリーはわめいた。「ほんとに、ほんとに、悪い子でちゅね」
「おまえこそ、ほんとに、ほんとに悪い子でちゅね」
「サリーは悪い子じゃないわ、バッデンテーンだって言ったのよ、いつだってバッデンテーンって言うんだから。ねえ、あなたの名前はなんていうの?」彼女は訴えるように父親に問いかけた。
「バッデンテーン」父親は外交的手腕を発揮して答えた。
「おうちはどこ?」
「きみ、保健所に電話したかい?」夫がわたしにたずねた。
(中略)
「あなたの名前は?」
「まあなんにしてもよ」わたしは言った。「どうせかかるものなら、いっそいまのうちに――」わたしはきゃっと悲鳴をあげて言葉をとぎらせた。サリーがいやというほどフォークでつついたからだった。
「サリー、『あなたの名前は?』って言ったのよ」サリーはわたしにむかって念を押した。(略)
えんえんこんなんばっか。
頁249
「とにかく、ここにはこう書いてあるわ。あらゆる六歳児は、おうちの手伝いをすることを喜ぶものですって」
「六歳児ってなに?」ジャニーはしかめっつらをした。「あたし、六歳児?」
「お姉ちゃんはおばかさんよ」サリーが前にのりだして、わたしの身体ごしに姉を見ながら言った。「おーっきなおばかさんよ」
「そしてサリーは三歳児で、ローリーは九歳児よ」
「じゃあおかあさんは三十四歳児?」
「三十二よ」
以上
(2017/10/1)