『避難所』読了

避難所

避難所

装画 水谷有里
装幀 新潮社装幀室

校庭に「災害派遣」段幕の自衛隊トラック、行列という表紙。
裏表紙は給水車と三々五々バケツ持ち寄る人々。

書下ろし 巻末に参考文献一覧

文庫は『女たちの避難所』に改題との由。

女たちの避難所 (新潮文庫)

女たちの避難所 (新潮文庫)

文庫の表紙は花が咲いてる。
http://www.shinchosha.co.jp/book/126952/

新潮社公式文庫煽り文句
男尊女卑に監視社会――歪な社会の縮図と化した避難所で、怒れる女たちが立ち上がる。

自身が立ち上がるというより、ニューカマーや外部の援助者と、
上手く連携が取れた感じです。こう書いてもネタバレにはなりますまい。
でもこの感想はネタバレを下の方で含みます。
http://www.shinchosha.co.jp/book/333372/

新潮社単行本煽り文句
なして助がった? 流されちまえば良がったのに。3・11のあと、妻たちに突きつけられた現実に迫る長篇小説。

①飲み助でギャンブラーの亭主持ちとか、②水商売でシングルマザーなので、
「色目を使う」という理由で息子がガッコでいじめにあってる、とか、
③独身のキモオタ義兄がいて舅姑に日常虐げられてる、良人だけが支え、
乳飲み子がいて母乳で育てている、
という三者三様の悩みを抱えるスリーウィミンが災禍にまみえ、
①は夫生き残って「焼け太」るもぜんぶ溶かす、③は夫と姑が死別して、
舅と義兄は被災後何故かイヤらしい顔つき(頁67)という、
地獄の底はまた地獄というと言い過ぎか、的状況で邂逅し、
助け合うようになる、という小説です。

非日常の衝撃と、日常のゆがみが、コンボで襲ってくる。

ほかの方のブログで拝見し、読んでみようと思いました。
その方の許可が頂ければトラックバックしたいと存じます。

その方のブログでも、新潮社公式の作者コメントでも書かれていた、
段ボールの仕切り材が到着してるのに、「隠し事のない共同生活」
というスローガンの下、仕切りを使わせない避難所の描写は、
どこのプロレタリア文化大革命の人民トイレですか?
と思いました。*1密告防止なわけではないし、個人個人でこっそり、
さし入れのウマいもの食べたりしないよう相互監視するのが、
目的かと推測しました。監視社会。そういうことがある場所も、
あったそうで、作者が、蒙った無数の市井の声(怨嗟等)を、触媒として、
ノベルというかたちで、救い上げるわけですが、それがまた例えば文庫本の、
アマゾンレビューで「所詮、作者は遠くから震災を見た人」との評をされたりもして、
しかしそういうのを想定内としたうえで覚悟して踏み切って書いたのだ、
作者は、と思いました。

仕切りがなくとも洗濯物の下着ドロが横行し、
外部から乱入の「なんちゃって被災者」でなく、近所の半グレというか、
女グセの悪いのがここぞとばかりに死角だらけ人気のないところだらけの、
避難所周囲のやけあとに美貌の③を拉致って手ごめ危機一髪、のくだりなど、
平時に付き合いたくない隣人が共同生活でスタンピードのおそろしさ。

なんちゃって被災者は阪神淡路絡みで関西で聞きましたし、
焼け太りは、仙台戦絡みの浦和スレで、書かれてたりしました。
片時も忘れたことはありませんが、日記等に書いていないこと、書かないこと、
それらを、この小説の感想として、今、私は、書いています。

親戚の所に身を寄せるも関係が冷え切ってしまい、避難所に移った老婆が、
空気を読まず避難所リーダーに堂々モノ申したせいで、オレンジ革命というか、
仕切りが配布実現しますが、老婆もまたヘゲモニーを握ると、
冷えた弁当中心の食事でなく、自炊すべしを試み、老年女性はトシなので、
いきおい中年主婦層が手伝いに駆り出され、味付けも濃い味ばかりで、
そこに失脚した元リーダーがすり寄ってきて、なんというかです。
百姓ユニオン婦人部の郷土料理講習会や味噌づくり講習会のようです。
高齢化が進み、少数の中堅層に過度の負担が掛かる。嫁不足で人いないし。
理念を実現したいのはやまやまだが、少数中堅層がどんどん疲弊。というように、
どこをとっても、平時の難点が、震災とコンボで威力二乗三乗。

地震と避難所/仮設住宅生活とは異なるのでしょうが、介護離職などは、
仕事でも苦労、家に帰ってもそこは安住の地でなくなっていて苦闘、
の生活で健全な判断能力を失ってゆき、視野狭窄の中で、
外部とのパイプを断ち切ってしまう点が、本書のおかしなしばりと、
似ている気がしました。
なるべくいろんな人の意見を聞けばいいのに、被介護者が、
他人を家に入れるのをいやがる、それを順位のファーストにおいてしまい、
地域や行政すべて助けを受け入れた後でなく、介護離職。
信頼出来るいろんな人に相談していって、それで活路が見いだせたり、
楽になったりすることもあろうかと思うので、それを組み込んだうえで、
選択のひとつとして離職があるのかどうか、ということだと思います。
…同僚を見て思ったことです。介護離職考え出した人が、実は、
仕事でも問題を抱えている、というケース。

此処からはネタバレといっていいと思いますが、ツテが東京にあって、
その上での東京エクソダスは、評で一部揶揄されるような、
東京=イコールハッピーエンドではないと感じました。
女所帯とさとられぬくふう、人口過多、「社交」
乳飲み子を抱えた美人寡婦は、最後まで、風俗に飲まれる、
不安を感じさせて終わります。それはなぜなのか煎じ詰めると、
頼りがいのあるカッコいい男とくっついて終わる予感、
がまるでないから。イケメンで誠実な自衛隊員に思いを寄せられる、
という間接描写はあるのですが、彼自身は登場せず、会話のやりとりも、
書かれません。NPOや行政の人は、いい会話も無礼な会話も、
きちんと掬い取られているのですが、自衛隊は、伝聞のみの描写の黒子です。
書こうとすると、元自衛隊のシビリアンのその後の人生の光と影、
特に影、を書こうとしたくなる誘惑に負けそうなので、話をしぼるため、
すぱっと切った気がするのですが、うがちすぎでしょうか。
で、その代り東京シェアライフ。新しい生き方の提示。

読もうと自分で決めて読んだ本なので、それはいいです。
おらおらでひどりいぐも、も読もうかと、いま思いました。以上

*1:まー中国の仕切りなしトイレは、その時代から始まったわけじゃないそうですが。でも台湾香港シンガポールにはないので、共産中国の発明であることは確かと思います