『フロスト日和』 (創元推理文庫) 読了

フロスト日和 (創元推理文庫)

フロスト日和 (創元推理文庫)

"A Touch of Frost" by R. D. Wingfield 1987
A Touch of Frost (Jack Frost)

A Touch of Frost (Jack Frost)

オータケさんの本で知ったフロスト警部シリーズの二冊目。

一冊目
2018-02-08『クリスマスのフロスト』 (創元推理文庫) 読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20180208/1518093805
オータケさんの本
2018-01-02『ぶらり昼酒・散歩酒』 (光文社文庫) 読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20180102/1514897909

ドラマ版が検索で出ましたが、本シリーズの表紙同様、
本文の描写ほどフロストの外見容姿が小汚くないです。
そして、髪の毛の量も本文の描写より多い。
https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/91Ro0Oj%2Ba4L._SL1500_.jpg
https://www.amazon.co.jp/Touch-Frost-anglais/dp/B004OBZZLK
カバーイラスト=村上かつみ
カバーデザイン=矢島高光
解説 温水ゆかり*1 この解説は、本文のてにをは変えたり語順変えたりで、
引き写しと言われないようにしてざーっと書きまくって字数稼いでる、
と言われても仕方がない部分があり、新刊『フロスト始末』刊行記念で、
ウェブにて全文公開されています。嫌がらせなのか歪んだ愛なのか。

東京創元社Webミステリーズ!海外ミステリ出張室 Translated Mysteries
2017.04.13【『フロスト始末』刊行記念】
温水ゆかり/R・D・ウィングフィールド『フロスト日和』解説[全文]
http://www.webmysteries.jp/translated/nukumizu1704.html

読んだのは2008年7月の15版。第一作と変わらずこんな調子です。

頁240
「人にあんな書類を書かせておいて。まったく、今の御時世は、なんだって書類なんだから。そのうち、書類を書かなけりゃ、便所にも行けなくなるだろうよ」
「そうなった日には、おれはバケツを使うよ」とフロストは小声でつぶやいた。「リル、そこにいる毛深い男はおれの同僚なんだが、実を言うと字が読めない。彼のために、ひとつ、何があったのか話して聞かせてくれないかね?」

そして連日のオーバーワーク。午前四時五時まで働いて、朝九時からまた会議。
前作は新人の二世親の七光り部下、今作は同格の警部から同僚殴打負傷で、
降格異動してきた部下がそれぞれ主人公フロスト警部とチームを組んで、、
彼らは、朝九時にはパリッとしたかっこでネクタイしめて出勤して来ますが、
もうフロストにはそんな真似は出来ず、小汚いカッコでタバコスパスパちこく。

頁266、「頓着」これ、いい言葉です。
忖度より前から斟酌使ってましたが、斟酌やめてこれから頓着使います。
頓着しない。頓着したまえ。頓着とんちゃく頓着。

頁380
「娘は一介のストリッパー、見目麗しく、情けあり。気立て優しく、純情で、尻には見事な痣ひとつ」

頁353
 スーザンが控室のなかに踏み込んだ。そこに、カレンが突進してきた。最後の瞬間にスーザンはサイドステップを踏んで身をかわし、片足を突き出して相手の足首を払った。そして、カレンが床にうつ伏せに倒れたところにのしかかり、背中に膝をついて片腕を後ろ手に高々とねじりあげた。カレンは、せめてもの抵抗として、卑猥なことばを叫び立て、自由になるほうの手で床を叩いた。
「今、この場で服を着る?」とスーザン・ハーヴェイ巡査は愛想よく言った。「それとも、手錠をかけて、その格好のまま、そとの車まで引きずっていってあげましょうか? どっちにする?」
 フロストががっかりしたことに、カレンは服を着るほうを選んだ。

七百ページ以上ある本ですが、四百ちょっとまでしか読み進めていないので、
あとは後報で。
【後報】
このシリーズは面白いので、みなに愛され、よく読まれてるのはよく分かります。
厚い本ですが、さくさく読めます。それは、文章が目から脳に沁み込むスピードが、
速いからだと思います。主人公に似た同僚、どこにでもいないでしょうか。
主人公の得た栄誉、勲章、ラッキーとは無縁で、主人公程トークは効かないが、
主人公とおなじくらいこきたなくて、そして、主人公同様、善人ではないが、
悪人でもない同僚(ここがさいじゅうようポイント)こうした同僚は、
どこにでもいるんじゃないでしょうか。こうした人々は、我々の成果を、
横取りしたりしないし、我々をはめてマイナスポイントをでっちあげたり、
上長への印象操作を行って我々を蹴落としてくれたり、しない。
悪人しか出世しない、出世できない組織が世のすべてだと思いますが、
そこで善人でもないし、無能と言えば無能だけども、だからこそ、
いてくれないと自分が職場のケンのある人物の標的になるから困る、
打たれ強いこうした人たちにはゼヒいてほしい、いてくれないと困る、
そんな、こちらがご都合主義でほっとできるような人物(それは自分を害さないから)
そんな人々に対し、「もう少しうまくやればいいのにな」と思いつつ、
本当にうまくやって人を陥れてばかりになったらそれはそれでイヤだ、
という存在が、努力して、その努力が報われたり、
報われなくても、アノミーに陥って、説教したくなるような手抜きはしない世界。
そこがファンタジーで、素晴らしいのだと思います。
これだけ長い小説ですが、最後になると、フロストの妻回想、
イヤな同僚アレンの、性格は変わらないが一瞬だけのファインプレーなどが、
つぎつぎ出て、もりあがって、うまいこといい感じにオチます。

我々のこぎたない同僚も、上から目線御免を承知で言いますと、
こんなファンタジーかましてくれたら、素晴らしいのになあ、
でもそれで私が追い抜かれたらいやや、「お前勝手な奴だなあ」
以上
(2018/3/20)

*1:どういう方なのか断片的にしか情報が出ておらず、こちらのはてなダイアリーが比較的まとめておられたので、トラバさせて頂きました。恐縮です。http://d.hatena.ne.jp/yotsuya-shobo/20070114/p1