『静かなノモンハン』(講談社文庫)読了

はまぞうのアマゾンリンクが調子悪いみたいなので、楽天から画像。今は文芸文庫に移行してるみたいですが、読んだのはただの講談社文庫版。1991年9月の五刷。司馬遼太郎との対談は講談社文庫版にもあります。

カバー装画 武山忠
写真 栗田紘一郎
地図作製 磐広人

砂丘があって、光線が射してきてて、手前に水筒があるという表紙*1
芸術選奨文部大臣賞
吉川英治文学賞受賞

ツイッターで見て読もうと思いました。
序の章で簡単にノモンハンについて書き、縁あって話を聞くことの出来た、上等兵、衛生伍長、少尉の話を作者なりにまとめ、表現し、あとがきをつけ、司馬遼太郎との対談を収めています。

頁25、嫩江を「のんこう」と読むことを忘れていました。ついついネンと読んでしまう。

嫩江 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AB%A9%E6%B1%9F

頁30、輓馬を「ばんば」と読むことも忘れています。

輓獣 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BC%93%E7%8D%A3

頁171、擱座を「かくざ」と読むことはなんとなく出来ましたが、意味を知りませんでした。

擱座・擱坐(かくざ)とは - コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E6%93%B1%E5%BA%A7%E3%83%BB%E6%93%B1%E5%9D%90-227530

ソ連のBT戦車が擱座する場面も多々ありますが、頁171は、日本側の戦車が、砂中に埋めたピアノ線にひっかかって動けなくなったところを撃たれて破壊される場面。
http://www.finemolds.co.jp/GP/4536318411123_00.jpg
http://www.finemolds.co.jp/GP/GIRLPAN_type95ha-go.html
http://www.finemolds.co.jp/GP/41112-DC.jpg

頁193
 日中は、三十度をはるかに越える暑熱の中での作業がつづきました。夜は、ガクンと冷え込みます。壕の上にかぶせた天幕の下には、私たちがノモンハン蠅と呼んでいた蠅が、無数に、びっしりと貼りついております。蚊もひどいものですが、蠅もひどいものでした。赤い縞のある、蠅というより、虻といったほうがいいほど大きな蠅です。死者が出ますと、この蠅は、死者の口と眼の隅にたちまち卵を産みつけます。ふつうの銀蝿ですと、卵から蛆になるには三日かかるのですが、ここのノモンハン蠅の蛆は、十分もたたぬうちに蛆になります。奇術としか思えぬほどの速さです。蛆は、みるまに死体の上を匍いまわって、やわらかな部分から蝕みはじめます。これは死者のみでなく、負傷者に対しても同じです。

鉄鍋のジャンの最初のシリーズの最後の勝負に、ウジをサシに使ったダチョウ肉料理が出てきて、ある種のウジはこれくらいの時間で孵化すると解説されていて、監修はしっかりした人でしたので、まーそうかなと思いましたが、ノモンハン読んでたのかもと今思いました。
https://natalie.mu/comic/pp/jan2nd/page/2
司馬遼太郎との対談で、各種戦記で、いちようにタルバガンモグラと書いている、現地兵士たちはみなタルバガンモグラと思っていたのでしょうかという司馬の指摘があり、伊藤もモグラと思っていた旨の記述があります。伊藤的には、蒙古で戦車隊長だった司馬から、メインランドチャイナで戦車と無縁だった伊藤に、戦車関連での示唆も欲しかったようですが、そこは思いやりなのかなんなのか、指摘なしです。

司馬が、「将校商売、下士官道楽、お国のためは兵隊ばかり」という軍内の戯れ歌を紹介しています。戦後岡本喜八が作った日中戦争ファンタジー映画、独立愚連隊西へ、は、地図などでちゃんと分析して、どの位置に行ってどう攻めるか、末端の兵卒にもよく情報伝達、意志統一した上で戦争してまして、これは、戦地に行った人達が、自分がどこに行ってどう戦わされるのか知らされないまま唯々諾々、服従して戦っていた事実への反発なのだろうと思いました。

独立愚連隊西へ - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8B%AC%E7%AB%8B%E6%84%9A%E9%80%A3%E9%9A%8A%E8%A5%BF%E3%81%B8

あとがきで、ノモンハン帰りの下士官を内地に帰さないという方針のもと、転属を繰り返させようとした、という暗黙の了解というか忖度があったと書かれていて、そりゃ殺生だと思いました。聞き書きをした衛生伍長は、内地に戻れたものの、何度も招集があり、神の見えざる手で、ガダルカナル玉砕部隊や、アッツ島玉砕部隊にハナ差で集合出来ず、難を逃れています。たんたんとこういうことを書くちから。よい本でした。