『年刊SF傑作選 7』 (創元推理文庫) 読了

カバー装画:日下弘
解説:伊藤典夫

コニー・ウィリス
『混沌ホテル』*1序で
あげている、
キット・リードの
『肥育学園』と、
既読でしたが、
ボブ・ショウの
『去りにし日々の光』
が収録されてる本。
アングロファイルの
SFファンというものが
存在するなら、
喪失云々のテーゼ抜きに
しても、
『去りにし日々の光』
は堪えられない作品
だと思います。
深い余韻がある。

関係ありませんが、「陽光」の北京語の発音「やんぐわん」
がすごい好きで、ほんとひだまりな感じがすると思っています。

阳光 の発音 Forvo
https://ja.forvo.com/word/%E9%98%B3%E5%85%89/
でもそんなのおかまいなしに、この本はかなりとんがっていました。

巻頭言
What is S-F? Science fiction? Fantasy? and much more.
S is for Science and Satellites, Starships and Space; for Semantics, Society, Satire, Suspense, Stimulation, Surprise and above all ――――Spesulation.
F is for Fantasy, Fiction and Fable, Fairytale, Folklore, and Farce: for Future and Forecast and Fate and Free Will: Firmament, Fireball, Fission and Fusion; Facts and Factseeking, Figuring, Fancy-Free, and just plain Fun.

これが原文のまま創元文庫の巻頭にある時点で、訳者も解説者も、
半分サジを投げてたのではないかと。こんな本でっせ、よろしおまっか?みたいな。
解説によると、前巻11のタイトルは"BEST S-F"、
だったのに、12は"SF"に縮まったとか。
この後英国SFのアンソロジーを発表した後、13巻は予告だけで刊行されず、
編者はカナダに移住し、平和運動や女性解放運動、SFも講演なんかはしたそうで、
要するにそういう人になったです。ベトナム戦争たけなわの頃なので、
まあそういうことかなと思ったのですが、1976年の邦訳解説も、
この本に収められてる短編にも、ベトナムを思わせるものはありません。
解説で伊藤典夫は、自分も南米の魔術的リアリズムが気になる、
なんて書いてますが、どこに飛ぶのかって感じ。おサイケな気分だけは分かる。

<収録各作品>
はしがき ジュディス・メリル
 Introduction by Judith Merril
 ⇒マクルーハンに傾倒してたことが分かります。私はマクルーハンなんて人、
  知りませんでした。
  マーシャル・マクルーハン Wikipedia
  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%8F%E3%83%B3
「シネ魔術師」(詩) テューリ・カプファーバーグ
 "The Cinemagicians" by Tuli Kupferberg
 初出:イーストサイドレビュー
「浮世離れて」ハーヴィー・ジェイコブズ
 "In Seclusion" by Harvey Jacobs
 ⇒ベムの触手に女優が…という話。
  頁21「ぬくとい、ぬくとい」
  https://www.city.yaizu.lg.jp/rekimin/bunkazai/hougen/na/nu01.html
  古語なので、どの地方でも意味はとれると思います。
  ぬくてい/のくていでなくてよかった。
  頁35「この粘膜め」ジェイはいった。「このノー・タレント、この淫乱」
    「ぐにゃチンがなにかいった?」

  ほかの作品にも、ぐにゃチンという単語は出てきます。
  当時はまだインポテンツという言葉は…あったと思います。
  頁38「きみのためにな、ハニー。ささやかな好意さ」
    「ホホホホホホ」
    「あいつ、きみがチップもくれなかったと、こぼしてたぜ」
    「ホホホホホホ」

  頁41「イー・プリューリバス・ユーナム(「多から一」米国の標語)」
エ・プルリブス・ウヌム Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AB%E3%83%AA%E3%83%96%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%83%8C%E3%83%A0
E pluribus unum Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/E_pluribus_unum
 初出:キャヴァリアー
「肥育学園」キット・リード
 "The Food Farm" by Kit Reed
 ⇒ジュディス・メリルマクルーハンを引用しています。

頁66
 国外へ出てきたアメリカのGIたちに外国人が驚いたのは、彼らがたえずなにかを……ガムであれ、キャンデーであれ、コークであれ、口に入れていないとおさまらないことだった。タイム誌の表紙(一九五〇年五月十五日号)には、地球がコークを吸っている絵が出ている。コークを愛し、アメリカ的生活を愛せよ。コークの重役であるロバート・ウインシップ・ウッドラフはいう。「われわれは世界に先の長い賭けをしているのです」これは、地球そのものがコークサッカーとなったいまでは、ごくちっぽけな賭けのような気がする。

  肥満と階層の関係(収入に比例してジャンク、脂っぽい高カロリー生活)
  摂食障害などの以前の物語という気もします。'50 アメリカン・パイ。
 初出:オービット
下記は邦訳未収録
 "Gogol's Wife" by Tommaso Landolfi
「気球」ドナルド・バーセルミ
 "The Balloon" by Donald Barthelme
 ⇒よく分かりませんでした。
 初出:ニューヨーカー
「コーラルDの雲の彫刻師」J・G・バラード
 "The Cloud-Sculptors of Coral D" by J. G. Ballard
 ⇒既読
 初出:ファンタジイ・アンド・サイエンス・フィクション
「ルアナ」ギルバート・トマス
 "Luana" by Gilbert Thomas
 ⇒下記、ミス・スキの意味が分かりませんでした。

頁115
たぶん彼女は日本人かもしれぬ。わたしには理解できない舌ったらずな言葉をしゃべるかわいい日本娘のミス・スキ。

 初出:ファンタジイ・アンド・サイエンス・フィクション
「W−A−V−E−R」(詩)テューリ・カプファーバーグ
 "W-A-V-E-R" by Tuli Kupferberg
 ⇒何故かここにラングの引用が入ります。
 初出:イーストサイドレビュー
下記は邦訳未収録 アップダイク。
 "During the Jurassic" by John Updike
「フレンチー・シュタイナーの堕落」ヒラリー・ベイリー
 "The Fall of Frenchy" Steiner by Hilary Bailey
 ⇒いちばん分かりやすい話でした。歴史改変もの。
  頁147キじるし
 初出:ニューワールズ
「去りにし日々の光」ボブ・ショウ
 "Light of Other Days" by Bob Shaw
 ⇒既読。編者が、作者を「完全なイギリス人ではない」(頁178)
  とゆっていて、北アイルランドのジャーナリストだから、
  ということみたいですが、要するにアイリッシュってことでFAなのか。
 初出:アナログ
「山リンゴの危機」(詩)ジョージ・マクベス
 ⇒この作品、何故か本書のWikipediaに、載ってなかったです。
  電子版?*2の作品リストにもない。よく分からない。
 初出:ニューワールズ
下記は邦訳未収録
 "Beyond the Weeds" by Peter Tate
「カミロイ人の初等教育R・A・ラファティ
 "The Primary Education of the Camiroi" by R. A. Lafferty
 ⇒異星人のオルタナな教育方法を活写した風刺SF。
 初出:ギャラクシイ
「ぼくがミス・ダウであったとき」ソーニャ・ドーマン
 "When I Was Miss Dow" by Sonya Dorman
 ⇒ジェンダーとセックスが上を下へのジレッタ。
 初出:ギャラクシイ
「地球見物」(詩)トマス・M・ディッシュ
 "A Vacation on Earth" by Thomas M. Disch
 ⇒風刺。
 初出が書いてないです。
「コンフルエンス」ブライアン・W・オールディス
 "Confluence" by Brian W. Aldiss
 ⇒SFというより、シュール物かと。
  でも筒井とかもそういうの書いてたし、
  そういう創作家が呼吸出来るのはSF界だけだったのか。
 初出:パンチ
下記は邦訳未収録
 from "Journal From Ellipsia" by Hortense Calisher
下記は邦訳未収録
 "An Ornament to His Profession" by Charles L. Harness
「せまい谷」R・A・ラファティ
 "Narrow Valley" by R. A. Lafferty
 ⇒空間のねじれ物。アメリカ先住民マジックと、
  それに飛び込むアホ白人ファミリーという展開なので、
  そのエスニック描写が現在のアレからするとアレかも。
 初出:ファンタジイ・アンド・サイエンス・フィクション
「おぼえていないときもある」ウイリアム・バロウズ
 "They Do Not Always Remember" by William Burroughs
 ⇒下記誌名を打ち込んで、初めて「ワ」の小文字があること知りました。
  「ヮ」勉強になるなあ。
 初出:エスクヮイヤ
「冬の蠅」フリッツ・ライバー
 "The Winter Flies" by Fritz Leiber
 ⇒不条理戯曲と呼んでもよいかも。
 初出:ファンタジイ・アンド・サイエンス・フィクション
下記は邦訳未収録
 "When I First Read..." by Dick Allen
下記は邦訳未収録 
 "You: Coma: Marilyn Monroe" by J. G. Ballard
下記は邦訳未収録
 "And More Changes Still" by Henri Michaux
下記は邦訳未収録
 "The Other" by Katherine MacLean
下記は邦訳未収録
 "Chicken Icarus" by Carol Emshwiller
下記は邦訳未収録…なんでグラスがいるのかと思いました。
 "In the Egg" by Gunter Grass
「スター・ピット」サミュエル・R・ディレーニイ
 "The Star-Pit" by Samuel R. Delany
 ⇒部下を飲みに誘っても主人公は蜂蜜入りホットミルク。
  で、同業者の女性に突然、何度も禁酒を繰り返した過去を告白。
  それはそれとして、頁414に、東洋風の船員が出てくるのですが、
  彼のカタコト台詞が、直球で中国系でした。別に、
  アルアル言ってるわけじゃないですが、もうよく分かる。
  原文だとどうなのかなあ。
 初出:ワールズ・オブ・トゥモロウ
個人主義」(詩)テューリ・カプファーバーグ
 "Personal" by Tuli Kupferberg
 初出は書いてないです。

ジュディス・メリル Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%AB
Judith Merril Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Judith_Merril
この本のWikipediaは、ユーアールエルにカッコを含んでいるので、
貼ってもリンクがカッコで切れてしまい、飛べませんので、
英語の編者WikipediaのSelected works>As editorから飛ぶです。

邦訳未収録作品は、既刊と重複してるからなのか、
著作権の問題からなのか、たぶん両方だろうなと思いました。
以上

【後報】
巻頭言は、ほかの巻と共通でした。早合点イカン・ゴレン。
(2017/6/10)