飛ぶのが怖い (新潮社): 1976|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
山崎洋子の本で出てきた本。といっても「翔んでる女」の語源として紹介されてた本で、私自身は、そうでしたっけ、という感じなのですが、読んでみました。
カバー 池田満寿夫 解説は訳者 読んだのは昭和63年の29刷
新潮でなく現在は河出から出てるそうで。電子版はどうなのかな。英語は当然電子版あります。
Fear of Flying (English Edition)
- 作者: Erica Jong
- 出版社/メーカー: Open Road Media
- 発売日: 2013/09/03
- メディア: Kindle版
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作者公式サイト:Erica Jong
表紙はオッパイですが、作者が自信あるのはオシリなようで、しょっちゅう浮気相手からお尻を褒められてますし、なれそめもオシリ。硬い尻を嚙まれたりダリの動乱の予感のようにむぎゅと摑まれたり。マゾという言葉(心理学用語としてありかどうかは知りません)が頻出なのですが、スパンキング等はありません。で、こんな英語圏知識文化人の言葉遊びとエフワードを隠さず書いただけの小説邦訳が、29刷もいくわけですから、よほどエロが貧困だったのだなと思います。じゃあ今が豊穣かというとそれはまた別の話ですが。ほんとに人造人間みたく全身加工の人の映像が提供される時代になってしまった。
裏表紙文句
これは一人の女の精神と性の放浪物語である。――精神分析医を二度目の夫にもつ詩人イザドーラは、結婚生活で窒息させられた欲望のうずきを感じていた。不毛の倦怠と激しい自己嫌悪を覚えながらも、狂気じみた情熱に陥った彼女は、心と肉体の完全な充足を求めてさまよう……。
大胆奔放な言葉を用いて全米を騒然とさせた女流作家の自伝的長編。
この二度目の夫が中国系なので、「ジョング」という苗字なんだそうで、中国は夫婦別姓ですよという基本ラインがまず欠落している。この人自身はユダヤ系で、しかしなんとかミツバという通過儀礼を指す単語がしょっちゅう出るくらいで、あとはキッパくらい。父母はイディッシュ語を話したそうですが、本人はさっぱりだとか。日本語版ウィキペディアだと、東欧系ユダヤ人、アシュケナジーでさっくり終わらせてますが、英語版によると、父方はポーランド、母方はロシアだそう。イディッシュ語の版図って、広いんですね。
そうしたプロフを見る前から、「ジョング」ってアジア系、それも韓国っぽいと思っていて、中国系としても、エイミィ・タンとかイーユン・リーとかM・H・キングストンみたいな中国系アメリカ人だと思っていたのに、まさか夫婦別姓のルールをブチ壊すようなユダヤ系アメリカ人だったとは。
「ジョング」というと、「鐘」姓か、もしくは「鄭」姓かと思ってたのですが、違いました。
中文版ウィキペディアを見ると、「容」姓。初めて見ましたその苗字。日本にも「うつわ」と読む容さんがいるそうです。
"容" はピンインだと”rong” なのでノーマーク爆牌黨で、ウェード式でも "jung" なので、彼女の姓が "Jong" なのは、ナゾです。広東語だとユン。
ちなみに本書の漢訳は "怕飛" で、中国語で「口語」は日本語と同じ"口语" ですが、文語は "书面语"書面語と言うその文語パワー炸裂のカッコいいタイトルだと思います。流石表意文字。二文字になりまんす。
彼女は長姉がキリスト教徒レバノン人と結婚してレバノン在住で、次姉は黒人と結婚。三女の彼女は最初十代でユダヤ人と結婚するのですが、インテリの夫は現在では統合失調症と言うところの精神分裂症で入院、次の彼氏を経て、中国系の丈夫と結婚し、欧州旅行に旅だち、情夫と知り合い、それ以外ともあるんだかないんだかのトリップをします。精神分析はよく受けるのですが、酒以外、ドラッグは出ません。アスピリンすら出ない。コーヒーは出るかも。
いちばんいきずりの男とやりやすい、というか声かけられやすいのがイタリアで、なのでイタリアでは、逆に具体的に、あの男がセクシーだったとか、そういう描写はまったくなく、仮性包茎だったことと(割礼上等のユダヤ人の彼女の冷静な観察)淋病うつされた疑惑にえんえん悩まされる描写しかありません。淋病って、よく、風邪みたいに弱い菌なので、風邪薬飲んでも治るなんて聞きますが、『風をつかまえた少年』によると、マラウイでは、淋病で尿道破裂して死んだ人もいるそうなので、膿が出たら病院に行きましょう。性交渉だけでなく銭湯とかでも膿から人にうつすので、そういうとこには来ないでね。
stantsiya-iriya.hatenablog.com
頁444
わたしは宿帳を見おろした。ストローブリッジ、ヘンケル、ハーベロー、ボトム、コーエン、キニー、ウォッツ、Wong……これだった。ワンにまちがいない。もちろん綴りを間違えたのだ。中国人はみんなよく似ているし、中国人の苗字はことごとくワンだ。
そんなわけあるかと思い、そもそも広東語ならウォンだろう、フェイ・ウォン、と思い、原文にあたると、「ワン」なんてひとっことも書いてませんでした。
ちなみに韓国人の「王」姓は「왕」だからワンだそうです。ワンドキムチ。
作者はユダヤ人なのでドイツに暮らしていた時は我慢出来ず、「ドイツ人は全然ホロコーストなどの戦争犯罪を反省していない」と英語で記事を書いて、地元新聞にわざわざドイツ語に翻訳してもらって掲載するのですが、それは黙殺されます。彼女が夫と一緒に駐留米軍絡みでハイデルベルグに暮らしていた三年間のある日、郊外を散歩してて、ナチスの円形劇場が取り壊されず残ってるのを見る。ドイツはナチスの亡霊を容認して、ホロコースト虐殺の歴史に向き合うのに不誠実である、そんな美学あるわけないだろう、ドイツ人本音と建て前使い分けてんじゃねーよという。いやー執拗ですね。ほんとに黙殺されたんだろうか。ドイツ人こわい。
ひとりエッチというか、手慰みというか、そういう場面もそこそこあって、夫と会話が嚙みあわなくて疎外感を味わったりすると、マタをいじります。工藤夕貴の台風クラブの一シーンを思い出すのですが、そんなかわいい場面ではたぶんないんだろうなと。だいたい私は台風クラブのその場面、人に教えてもらうまで気づかなかった。朝フトンから起きてこないだけかと思ってた。まさかオナってるとは。作者はそれを、フィンガーセックスと呼んでたかと思って今ぱらぱらめくったら、フィンガー・ファックだった。インパクトありそうで、しかしフィストファックみたいなそらおそろしい単語も今では当たり前に会話で出て来そうなので、21世紀は、もうファックを幾ら連呼しても不感症の時代と申せましょう。ウルトラB。
あと私、加藤鷹のビデオ見たことないんですね。一度見てみたいのですが、もうないかな。で、本書は、訳者解説によると、爽快な一冊だそうですが、どこがと思いました。てきとうにホメ殺してるとしか思えない。以上