『酒は人の上に人を造らず』(中公新書2472)読了

 図書館の返却ワゴンにあったのをぱっと取って、そのまま借りました。

酒は人の上に人を造らず (中公新書)

酒は人の上に人を造らず (中公新書)

 

 巻末に俳句・短歌索引があり、本人の句も、ほかの人の句や歌(吉井勇 / 与謝蕪村 / 大伴旅人 / 尾崎放哉)も、収録のはぜんぶ載ってますが、帯の句はありません。検索すると、中央公論2015年10月号の連載開始より以前の新聞記事にこの句が登場します。

www.asahi.com

なんで帯に使ったんだろう。あさっしんぶんがこの句にチャンとルビを振らなかったので、怒ったのか。中公新書の前書『酒場詩人の流儀』にこの句は収録されてるみたいですので、同じ中公新社で重複を避けたのか。角川の本にも載ってそうですが、そこまでチェックしません。「痴に聖に」は字足らずで、「聖」を「せい」と読めば字足らずにならないのに、なんで破調にしてるのか分からないのですが(だからあさっしんぶんは逃げてルビ振らなかったのかも。振らなければ皆「聖」を「せい」と読むだろうから)考えるに、薩摩の「よかにせ」と音が似てるので、南方同士、黒潮で文化が伝播してるで、それかなと思いました。「痴聖」となると寒山拾得がバンバン検索で出るので、天台宗とか禅の公案になるのかもしれませんが、出家してないので知りません。「聖痴」になると、アダルト商品が多数検索結果に出ますので、「あなたは18歳以上ですか?」の質問に、みんな「いいえ」の回答を選択すればいいと思います。

酒は人の上に人を造らず (中公新書)

酒は人の上に人を造らず (中公新書)

 

 最近の図書館は、館によっては帯ごとビニルパッキングしてたりするのですが、私がこれを借りたところはそうではないので(紀伊国屋の委託だったかな)、今読書感想を書こうとアマゾンでこの本を検索して帯の件を知り、それをまず書いたです。

本書収録のうたはこんなん。

頁17、鯨海酔侯山内容堂と土佐の地酒酔鯨を詠んだ歌

酔鯨のもんどり打つて土佐の海モーゼの咆哮たけびさながらに割く

もうひとつ、俳句。絵の道を志し、パリ留学から欧州バックパック旅行した若き日を回想するくだり。

頁66、新橋をポン・ヌフになぞらえて一句

新橋ポン・ヌフの宵五月雨さみだるる孤悲こいごころ

ザデイナーらしさ満開。本書だけ読むと、文章が「書ける」人だと唸りますが、もともとはちくま文庫の立ち飲み研究会の本で、ひとりだけカッとんでた人だったことを再認識出来る句。

冒頭、土佐人気質から始まって、まず、男性では、民権音頭の植木枝盛と、頁iv、大町桂月が出ます。他の本でもザデイナーは大町桂月を晩年依存症になるまで酒を愛したと書いていて、そういう人の文章ならゼヒ読んでみようと思い、岩波文庫のアンソロジー大町桂月の短文を読みましたが、まだしゃきっとしてる時期の文章だったようで、食糧もたいして持たず、草鞋すら現地で藁を調達して編もうという甘い考えで冬季入山して、藁も手に入らず困るが助かる、という文章でした。

山の旅 大正・昭和篇 (岩波文庫)

山の旅 大正・昭和篇 (岩波文庫)

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2003/10/17
  • メディア: 文庫
 

 ウィキペディア大町桂月だと、胃潰瘍で死んだことになってます。アル中とはひとことも書いてない。

大町桂月 - Wikipedia

女性は、頁vi、ハチキンサイバラと、民権ばあさん、『狗神』の坂東眞砂子。映画の濡れ場は、天海祐希のせいでファンタスティックだったそうで、朝昼兼用でヤキソバ作って食ってる女性としか思ってなかった天海祐希も脱いでたのかと驚きました。釣瓶の家族に乾杯に出た時、男子高校生に説教してた内容を見て、意志の人で、実は…の人だと思ってます。

男女のほか、土佐のマテリアルでは、頁17、デハラユキノリ製作のフィギュア「べろべろの神様」が、どんなものか画像がないのでメモして検索しました。

ツール- 土佐の「おきゃく」2019

長めのまえがきと、あとがきにかえて、があります。初出なんか、中央公論の何年何月号から何月号、とんで何月号、てな具合で一行で済みそうなものですが、全部解体再構築して、連載時と順番を替えまくってるので、それをわざわざ初出一覧の見開き1ページで詳しく記載してます。それをするなら、『酒場詩人の流儀』もそうですが、なんで中公文庫でなく、中公新書でエッセー出すのか理由を書いてほしい。中公文庫はツブレかけた文庫ですし、書店棚のスペース取り戦争でも苦戦してそうなので、老舗で安定した中公新書のほうが、棚も確保されてるし、売りやすいという、営業目線の理由くらいしか思いつかないです、新書でエッセー出す理由が。でも中公文庫は、伝統的に山の本が多い文庫ですし、ブックデザインや装幀もザデイナー本人が出来そうですから、中公文庫で出せばいいのになと。あるいは越境して、ヤマケイ文庫で出してみるとか。

頁22、アメリカンミンクという特定外来生物が日本の生態系を乱して、川ではヤマメ、山ではエゾリスなんかが激減してるとか。この大きさのは、駆除しずらい気がします。ハクビシンと戦ったりはしないのか。イタチは環境変化で自然にいなくなったけど、これは残るのか。藻岩山ラジオという架空の放送局が舞台のマンガの新刊発売が秒読みですが、アメリカンミンク問題は取り上げられるのか。過去にはストックホルム症候群を「スト症」と略したことで知られる漫画です、わたくし的に。なんで12月にハロウィンを意識した表紙なのかについての言い訳とか諧謔だけはあるんだろうな。

波よ聞いてくれ(7) (アフタヌーンKC)

波よ聞いてくれ(7) (アフタヌーンKC)

 

頁28、桜と狂気に触れた箇所で、徳岡神泉「狂女」が出ます。東京国立近代美術館蔵ということで、そこは最近行って所蔵展観たですが、まったく記憶にナシ。検索して絵を見ましたが、やはり見覚えなしです。その絵でなくカブの絵でも貼ろうと思いましたが、うまいことでけへんだ。

頁34、坂崎重盛という人は知りませんで、嵐山光三郎とテリトリーがカブってる人だなと思ったら、対談とかしてた。嵐山光三郎吉田類の対談もあるのだろうか。アラコーは大竹聡との対談のほうがありそうな気がします。坂崎重盛のモツ煮の本は、知恵の森文庫から2010年文庫化して、さらに近年中公文庫へ移籍してます。吉田類の本書は中公文庫でなく中公新書

頁53、多摩川河川敷の屋台の女将が過労でぶっ倒れるのではないかと客が気遣う個所。ザデイナーは達観している感じです。ザデイナー自身が、けっつまづいてコケかけたり、ほかの客のハンドバックが顔直撃したり、熱中症で倒れて入院して二週間酒抜いたりしてる状態。先を見据えてるのか。下記は花園神社の近くの一杯飲み屋で、病み上がりのママとのくだり。

頁57

 ところが、厄介な客の対応に苦慮するママさんの顔を一度だけ見た。血走った眼の男が、女一人の非力さに付け込んで居座ろうとしている。そこへ行き合わせた僕はママさんに加勢し、店から男を立ち去らせた。

「怖いですね。酒だけの酔っ払いじゃあないんですよ」

 ドラッグ依存らしい通りすがりの男だった。女将一人で切り盛りするゆえのリスクだろう。 

 ここで助けられない人間は、いつか、迷惑をかける側に回るポテンシャルがあると知れ。なんてね。

頁85、記憶をなくしてからの行状を同行者の携帯写真で確認出来る幸せ。酒場哲学は毎回脆くも歪み始めるでしょう。

頁132、村長から、テレビでは酔った演技をしてるんでしょうとこっそりささやかれる場面。私は、こっそりささやく人間をなべて信用しませんし、ささやくのが好きな人間が権力者に多いことも承知しています。

頁138、与謝蕪村の箇所。宮津です。最近わりと読んでる山崎洋子サンはこの辺の出(といっても複雑なのは自伝で了承しました)ですが、蕪村と山崎洋子作品、あまりクロスしてる記憶がないです。私のブログと、鈴木亜美がクロスしないのと同じか(ちがう)

下記は、下町ロケットで、小泉孝太郎の父親役で共演した時の逸話。

頁150

(略)けれども初対面の挨拶を交わした数分間の後、

「もう類さんは、僕の父親みたいに思えます」

 と孝太郎くんは言った。あとは、彼の名演技に素のままで従えばいい。

「なんて爽やかな青年だろう」

 心底そう思った。 

 なんて怖いやりとりだろう(棒 監督は、福沢諭吉のやしゃごだとか。

「もうクリステルは、僕の妹みたいに思えます」キャーッ

本書は、東日本で見開き2ページ、西日本でも見開き2ページを使って、登場する市町村にポイントをつけています。ただし東京都23区はまるごとアミカケでポイント表示なし。八王子のポイントは思い出せませんが、それ以外にこの辺だと相模原市にポイントがついていて、上溝のあたりで、小栗判官つながりで、てるて姫絡みで住宅地の居酒屋に飛び込んでます。

最後のほうになると、記憶を失くした後を携帯写真で確認させられるのはむろんのこと、妙齢の美女が有名人吉田類と知った上で酒場でコナかけてくると、スタッフからラインだかメールでからかい文句が飛んできて、それを理由に難を逃れるとか、気がつくと自宅で大宴会なのだが、それもフェイスブックかなんかで実況されていて、ちゃんとスタッフも機材もスタンバっていて、吉田類の実況なので、芸人やタレントが入れ代わり立ち代わりやってきてカメラの前で芸を披露してゆくという… 21世紀のリーガルな酒とはこういうことかとよっく理解しました。もう素材はじゅうぶんに溜まってますし(酒場放浪記もたいがい再放送ではなかろうか)いつ合成吉田類が登場してもおかしくない。AI酒場。

各章ごとに扉ページがあり、そこには神田の居酒屋で中田綾子という人が撮った写真が使われています。人物が写ってる写真もあり。ここまでの体裁で、新書なのかぁ… 以上