戦時標準船荒丸 : 海洋冒険小説 (講談社): 1982|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
1989年文庫化。続編二冊。ブックデザイン=市川英夫 カバーイラストレーション=宍戸明 本文イラストレーション=柳沢達朗 巻末に参考資料三冊記載『日本海運とともに』(日本海事広報協会)有吉義弥『赤旗とGHQ』(講談社文庫)大森実『漢奸裁判史』(みすず書房)益井康一
表紙となかのイラストが別人とは思いませんでした。なかのは例えば下記。
日中混血でGHQの手下の悪いやつが、そそとした大和撫子26歳をゴーモンしようとして邪魔が入ったので人質にとるところ。
正直、沖田十三とキャプテン・ハーロックを足して二で割ったような冷徹な悪鬼船長が、児玉機関が持ち帰ったそのン万倍の貴金属やらなんやらを大陸沿岸に秘匿していて、国共内戦に際し、どうも毛沢東にそれらを供給して一気に勝利させようとしてるのかしら、という小説。これ一冊で完結させるつもりを、最後ドタバタ引き延ばして、「続く」で終わらしてるので、あまり読後の突き抜け感はないです。
作者のその後の伝奇小説のお約束、ご無体な凌辱場面もありません。道義的にどうなのというところで必ず、邪魔が入ったり、救いの手が現れます。ここは、生理的に助かる人と、フィクションなんだからもっと没義道をと思う人、療法、否、両方いるんでないかと思います。
悪役として、ジミー山崎という、岡山弁なのか関西弁なのか分からない日本語を喋る悪漢二世が出てきて、けっこう憎めないというか憎むしかないワルなのですが、あっけなく神の手で殺され、その次には、ロバート・イトウという、ワイハー生まれの日中混血児で、ブタ以下の境遇で辛酸なめ子だったのでとても冷酷な人間になったしとが出てくるのですが、これもかなり再起不能に近い重傷になります。強敵をかんたんに始末しすぎると、作者はその辺のヒリヒリする緊張に耐えられない人なのだろうかと疑問に思われてしまう。
荒丸も、外見は二重船底にいちおう改修しただけのボロ船に見せかけて、実は高性能エンジン二基搭載で、GHQの巡視艇くらい軽く振り切るスペックがあり、操縦士も濃霧の中わざと危険なルートを通って、岩礁や浅瀬を見事すり抜ける腕を持っていて、それが今度は闇物資のレーダー等を搭載して無敵化して中国沿岸に向かおうかという時に意味もなく偽装轟沈して、海の藻屑になり、読者は肩透かしをくらいます。なんだこれ。
著者のことば
戦争中に粗製濫造された戦時標準船を駆使し、物価統制令の網をかいくぐって闇物資を運ぶ無法者の集団、GHQの密命を帯びた日系二世や若き闇屋の暗躍、はるか中国大陸にただよう不穏な戦雲。戦争によって魂をひきさかれた船乗りたちの凄絶な生きざまを描いてみたかった。この物語は一応完結の形をとっていますが、第二部、第三部と続く予定で、どういう結末を迎えるか、作者としても愉しみです。
読者が楽しめる要素を消したのに~。
頁94、スカジャップの意味が分かりませんでしたので調べました。
The Shipping Control Authority for the Japanese Merchant Marine (SCAJAP)
今週のお題「読書の秋」
グーグルは毎回、「谷恒生」を検索すると、検索結果にガンバからベルマーレに来てる代表ゴールキーパー谷晃生くんの写真を出してくれます。まったくもって余計なお世話。以上