その男オータケサンの新刊。先日、本と雑誌社が出したボーツー先生の本(連載は毎日新聞)を読んだのですが、その折ついでに検索したら、本と雑誌社も、ボーツー先生や北町寛太がつぎつぎ物故して、強力な書き手が減ったので大変だみたいな余計なお世話感満載な観測気球コタツ記事が出て、それでふと本と雑誌社の新刊を見たら、オータケサンの新刊と高野秀行サンの新刊が相次いで出るということで、買ってみました。
生保アプリのポイントを変換したアマギフを使おうとして版元公式をポチったのですが、その時点では活性化されておらず、支払いはふつうに自腹。(その後、生保会社の問合せ窓口に電話をかけて、親切に対応して頂き、ぶじアマギフは対応開始)版元公式で頼むと、著者サイン本が買えるということで、買いました。著者サイン本なんか、桜ケ丘の書店主の本と蹴りたい背中以来ですが(ブッコフで買ったデビット・ゾペティサンの本もサイン本だった、そういえば)オータケサンはサインに慣れてないと思いました。飲み屋や酒飲みイベントなどでもサインを頼まれることは多いと思うので、意外。くりかえしになりますが、本の雑誌社で買うと本の雑誌社の本はすべてサイン本が買えるという話で、玉村豊男サンの本を彼の東信のワイナリーで買うとサイン本なのにも似た、すごい話。本の雑誌社の底力というやつか。哀愁のナントカに霧が降るのだわしらはあやしいのおじじが考えたのかなあ。アマゾンなどの通販が気に入らない勉誠出版が直販した時のように、出版社直販は手間ばかりかかってどうかと思うのですが、良い方向に進むことを祈念します。
写真 衛藤キヨコ 装丁 松本幸一 初出は第1部「酒を出せない酒場たち」がdanchu WEBに2021年秋から冬まで。第2部は書き下ろし。あとがきあり、前文あり。
帯 この帯の文句を読んでまず思い出したのが下記。
森田信吾『駅前グルメの歩き方』行田ゼリーフライ編のひとコマ。
堀口大学が『鎮静剤』という題名に訳して、高田渡サンなんかも歌ってたそうで。ここから始まるわけです。上のダイジェスト動画だと、なかなか「忘れられた女」まで行かない… というか最後まで「忘れられた女」にならない。


カバーをとった表紙は印刷なし。ベージュ色の紙質を楽しむのみ。裏表紙は当時のアクリル仕切りの東京都の文言。かなりぼやかした写真をわざと使ってるのですが、そんな必要ナシと思います。なにしろ東京都公式にもどこの自治体にももう画像がなく、食べログやら個人のエックス(舊ついった)やらインスタグラムやらを渉猟しないと画像が出ないわけですので(個人のデジタルタトゥーとえらいちがいだ)記録の意味でも鮮明な写真があってよいと思います。
拡大。検索すると、「東京都」を"the Tokyo Metropolitan Government"にしてるものも出ます。
私はSARSの時の中国大パニックの記憶が強く残ってますので、たぶん一般的な邦人よりはぜんぜん君子危うきに近寄らずでロクロク飲食店に行ったりしてないのですが(しかし仕事はステイホームが許されないたぐいのブルーカラーなので皆勤出勤で、通勤途中の写真をあげたらネットでやっかまれたりしました)それでも多少は写真撮ってますので、下記に置きます。
(1) 2021年夏。相武台前
会話に夢中のあなた マスクしていますか? マスク飲食の徹底を! 会話に夢中のあなた マスクしていますか? マスク飲食の徹底を! 会話に夢中のあなた マスクしていますか? マスク飲食の徹底を!
(2)グーグルの「ワクチンを接種しましょう、マスクを着用しましょう、命を守りましょう」ロゴ。2021年夏。ただし表示国は日本でなく、ニュージーランドとタイ。
Get Vaccinated. Wear a Mask. Save Lives. (August 24)
(3)マスク飲食実施店認証書。2021年夏。
(4) 2022年冬。南林間
会話の時は必ずマスク! ワクチン接種後も『マスク飲食』にご協力をお願いします。 神奈川県 マスクをつけて飛沫を防止!
(5)2021年初夏の南林間と、2022年春の座間。


(6)2020年9月のドソキ。
スク着用にご協力下さい 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、マスクをお持ちのお客様は、店内でのマスク着用にご協力をお願い致します。 We ask for your cooperation in wearing a mask 请配合戴上口罩 請配合戴上口罩 마스크 착용에 협력해 주세요 โปรดให้ความร่วมมือในการสวมหน้ากากอนามัย マスク着用にご協力ください Please wear a mask in the store to prevent the spread of COVID-19. 为防止新型冠状病毒扩散,进入店内范围时请戴上口罩。感谢您的配合。 為防止新型冠状病毒擴散,進入店內範圍時請戴上口罩。感謝您的配合。 신형 코로나 바이러스 감염 확대 방지를 위하여 점포 내에서의 마스크 착용에 주실 것을 부탁드립니다. เพื่อป้องกันการแพร่กระจายของเโคโรนาสายพันธุ์ใหม่ โปรดให้ความร่วมมือในการสวมหน้ากากอนามัยในร้าน 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、店内でのマスク着用にご協力をお願いいたします。
(7)2020年4月。第一次緊急事態宣言もしくは一斉休校のころ。
お客様へ 当店では、コロナウイルス感染防止策として スタッフがマスクを着用している場合がございます。 また、レジカウンターにてお客様とスタッフの間に ビニールカーテンを設置しております。 何卒ご理解、ご協力の程、宜しくお願い申し上げます。 セブン-イレブン店主


いつまで休めばいいのか見当もつかない状態。
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、 4/8(水)~当面の間全舘休業いたします。 新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う4/8(水)~当面の間休業のお知らせ 新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた、政府による緊急事態宣言および都道府県の要請等を受け、4/8(水)から当面の間の営業は、OdakyuOX、食品街、マツモトキヨシ、ビックカメラを除き全館休業させていただきます。
どう休むか各店舗それぞれの判断できゅうきゅうとする。
臨時休店のお知らせ 新型コロナウイルスの影響による緊急事態宣言の発令に伴い、 4月12日(日)のみ臨時休店させていただきます。 ご迷惑お掛け致しますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。




分散乗車の貼紙はコロナとは無関係でした。
OTV NEWS 共同通信社 イースター・エッグも手袋着用で イースター(復活祭)の12日、米ワシントンでは隣家の子どものためにイースター・エッグを置く際も新型コロナの感染予防のため、手袋を着用していた。 (AP=共同) 13日 5:54 OTV NEWS 共同通信社
社会的距離「隣に座らないで」 新型コロナの感染拡大が続くインドネシアでは、予防のための社会的距離を保つため、バスの待合所ベンチで隣に座らないよう「×」印が貼り付けられた。 (ロイター=共同) 12日 21:05
令和最初の4月13日の写真 - Stantsiya_Iriya
以上、私の手持ちの写真でぱっと出たもの。
当面の間、休業いたします。
緊急事態宣言、まん延防止等重点措置、休業、時短営業、ソーシャルディスタンス、酒類提供禁止、人数制限、90分、感染対策、テイクアウト、お弁当、ランチ、検温、消毒、アクリル板、マスク飲食、ノンアル、酒類提供午後7時まで、飲食店8時閉店、持続化給付金、雇用調整助成金、営業自粛協力金………
酒場の主たちは何を考え、どう過ごしてきたのか。
(a) ほとんど東京近辺のお店です。なので、語られている状況は東京のものが多く、緊急事態宣言のような全国一斉のものはまだしも、「まん延防止条例」や時短休業要請は自治体単位で異なるので、悩ましいところがあります。町田の中国人店主の珈琲店で呑み助の客が「ユリコの野郎…」と都知事をDISってましたが、店員はみなまるでピンと来ていませんでした。また、何度かの緊急事態宣言まん延防止条例すべてそうですが、始める時は大々的にガーッとやるけど、終了宣言は小出しに小出しに、ソフトランディングで意図的に薄めて薄めて何だか分からなくなった頃にこっそりやる戦術をとってましたので、歴史として年表を作ろうと思うと、かなり㍉です。いつからスタートしていつ終了したのか、まともに日付を記述するのが相当ムズい。これが何でも水に流す日本の文化の特質なのか。記録に残されたものだけが歴史になる東アジアの大陸部分とちがって、けっきょくやっきょく「川は流れてどこどこ、往くの」だからローランサンなんだなぁ…
頁61のタイガー立石のもつ焼きの店「あまり言いたくないけど、なぜ酒だけが、という思いはありました」に、「酒類提供自粛要請」が出て、2021年4月25日に都が始めた酒類提供禁止が6月21日からわずか三週間解除になり、その後7月12日から八月末までまた禁止となり、それが延長されるかもという記述があります。これなんかその典型だと思います。コレクトに、いつからいつまでだったか年表が作れるのか。私なんかそれ以前に、葛飾区立石と書いてあっても、立石って千葉だっけ東京だっけと分からなくなってたりして。
(b) 異論反論オブジェクションで、ワクチンはもちろんのこと(画像漁ってたら、ワクチン二回接種で生一杯無料のワタミのポスターも出ましたが、貼りません)マスクに関しても某ホリエモンのように強引グマイウェイな人やお店の方がえらいことになったりもしましたので、登場する店の半分は気骨のある老舗です。逆に言うと、吉祥寺、井之頭公園の方の名店など、過去のオータケサンの著書によく出てきた店が今回入ってないと、なんでなんと知りたくなったりもしました。高田渡が死んだから、常連だった店も忘れられたのかな。いやちがう。
(c) 同じ理由なのかもしれませんが、出てくる店はすべて時短要請休業要請協力店です。協力しなかった店は登場しません。だから逆に、「時短要請に協力しなかった店たち 休業せず店を開け続けたコロナアウトローたちのつぶやき」みたいな本を別のライターサンが書く目もあるなと思いました。ただ、何かあった時逃げ足を早くするため、紙媒体でなく削除が安易なウェブの動画なんかで煽りの字幕とかバンバン専門業者につけてもらってやる形になるのかもしれない。本書に登場する店のインタビューの中でも、ご近所さんで夜遅くまで開けてる店や休業しない店、さらにいうとそこの客(そちらの店にもこちらの店にも来る?)に触れてる箇所があるので、そういう店やっぱりあるよねあったよねと分かりますが、毀誉褒貶の形容は避けてますので、お店同士、客同士の思いは半ば空に溶けて、消えてます。
(d)
頁74 吉祥寺のバー
「7時までに酒を出し終えて、それを飲んだら8時までに店を出てもらうということですよね。お仕事の後に来ていただけるお客さんは、何も食べずに来ても到着が6時半くらいにはなります。それから大急ぎで飲んで、店を出たとしても、8時には飲食店は閉店ですから、外ではもう何も食べられない。だから、あのときには、お蕎麦とかパスタとかさっと茹でて出してました。(略)」
(略)
最初の緊急事態宣言から、もう1年と5ヶ月が経とうとしています。今年(2021年)に関して言うと、3回目の緊急事態宣言が発令された4月25日から、今回の緊急事態宣言の終了予定である9月末までの159日のうち、酒場が酒の提供を禁止されたのは138日に及びます。政府は11月には酒場で飲めるようになると言いますが、あてになるのか。総選挙が10月で、11月から酒も飲めます、旅行にも行けますと言われても、本当にそうなんでしょうか。
その時期からだったか忘れましたが、実際にゴートゥートラベル、ゴートゥーイートが始まって、スマホを持ってる人はそれなりにイイ思いもしたと私なんか思ってるんですが、どうでしょうか。⇒2020年後半にゴートゥートラベルが始まり、晩秋から冬に感染者数が激増し、重症者数は知らねど、2021年新年早々再度緊急事態宣言発令、酒場は時短営業で午後八時閉店となったとか。頁238
頁120 国分寺住宅街境界の店
美智留「緊急事態宣言中は、私は夕方5時に帰るんですよ。不通のOLみたいな生活です。すると、家で、いろいろ考えちゃうんです。この先、どうしようかな、実家へ帰るのかな、とか(笑)」
頁74にはコロナをきっかけに店舗賃貸契約を更新せず店を畳む同業者を語る場面もあります。なんというか、そういう時に不動産屋からどういうツテでうまいこと言いくるめられたのか、珍しい国や民族の料理を出す情弱素人外国人の店が新規オープンして、客が来ないのに仕入れを続けて資金も人も飛んで、というのもそこそこ私は見た気がします。
上のミチルサンは休んでる間読書にも励んで、下記が面白かったそうです。
私も読んでみようと思ってるのですが、図書館に蔵書なしだったかな。ケアのオバマ絶賛とのことなので、今のトラソプ全盛期にはウケが悪かったりして。
頁180 野毛の店(だから東京でなく横浜です。横浜は神奈川県です)
(略)ただ、一番しびれたのが協力金の入金が非常に遅かったということです。その間に辛抱しきれないところが、結構、店を畳んでるんですよ。冷蔵庫回せば電気代はかかるし、月々の必要経費もかかります。うちの場合なら、従業員の社会保険料も支払うわけですから協力金が入ってこないと持ち堪えられない。自分の蓄えから負担していかなければならない。何ヶ月も先延ばしされるとちょっと無理というところもあります。あるお店の御主人も『ダメだよ、家賃が毎月出ていくんで、まかないきれない。だから営業せざるを得ない。うちは要請を無視してもやるよ』って。でもね、それは、致し方ないことですよね。店ごとに事情は違うし、それを責めることはできないでしょう。だから、それはそれでいいんですけど(略)あんまりお店でワイワイ騒がせるのはどうかなって思います」
頁200には、新子安の、あの立ち飲み、角打ちが出ます。私も昔は憧れた店でした。ぶざまな自分なので勝手に気合い負けして入店せずじまい。店の周りでコンビニで買ったカップ酒を飲みながらうろうろする二軍以下のひとりでした。2021年10月末に東京では時短営業が解除されたとあり、新子安は横浜で、横浜は東京都でなく神奈川県なので、2021年7月22日から酒類提供自粛要請があったと記述にあります。
頁264の第二部、書き下ろし部分で、わりと記録をまとめようとしています。2022年からはウィズコロナで経済を回そうとして、2022年8月には一日の感染者数二十万人、死者数一日三百人越えが続くも、高齢者の感染対策に集中し、2023年5月8日2類から5類へ移行。
頁269 2023年9月20日 祐天寺もつ焼き
「協力金には助けられましたよ。前年と比較して売上が減少した分の40%が協力金の額になったのですが、休業期間の場合、売上は100%減少しているわけだから、協力金は前年売上の40%ということになりますね。私たちの商売で、売上の4割もの利益は、そもそも出ません。だから売上の4割が現金でもらえるのは、実はすごいことだったのです」
協力金は、売上規模が小さな店にも、一時期、1日あたり最低4万円が支払われた。仮に30日営業が停止した場合、協力金は120万円になる。この120万円は、売上から、仕入れ原価、人件費、家賃、水道光熱費、その他経費など差し引いてなお残ったお金、つまり営業利益ということになる。実際には、休業中でも家賃や人件費は発生するから、120万円がまるまる利益になるわけではない。しかし、小規模の個人経営の酒場を想定すると、休業中の仕入れ原価はゼロだし、水道光熱費も大幅に減る。家賃を払って残ったお金を仮に100万円として、ここから経営者個人の人件費を差し引くと、残ったお金が利益となる。
ここに、通常営業をするより行政の要請に応じて休んだほうが利益が増すという、珍妙な事態が発生した。
しかし、(略)の場合は、事情が異なった。(略)そもそも営業利益率は高くない。加えて、休業や時短要請に対する協力金や雇用調整助成金なども、社員やアルバイトへの給与とコロナ対策のボーナスとして、可能な限り支払ってきたのです。
「協力金があって、なんとかなったんですよ。それが事実です。最初の緊急事態宣言に入った直後は、万が一に備えてお金も借りました。でも、それには手をつけずに、なんとか回してくることができました。ただ、その頃から、私自身の取り分はほとんどゼロ。(略)そして現在は、少しずつ良くなっています。(略)協力金はなくても、なんとか回していくことができる。でも、まだ儲かるまでには回復していない。飲食店は昔のように儲かる商売ではなくなった。あくまで私の考えですがね」
2023年7月から、2020年開始の政府主導のゼロゼロ融資、無利子無担保資金繰り支援の返済が本格化。上述の店主は、2023年年末にかけて、やめる店が増えるのではないかと予測。的中。帝国データバンクの2024年1月公表によると2023年の飲食店倒産率は前年比7割増。業態別最多は「居酒屋」で、コロナ禍絶頂期の2020年の倒産を上回ったそうです。
頁309 2023年初冬? 浅草
「5月に5類となり、ひと夏が過ぎましたけど、客足はまだ戻り切っていないと思うんですよ。それに加えて、コロナ禍にも変わらずに支えてくれた常連さんたちも、なんと言うか、酔いが早くなった。家飲みが習慣になったせいですぐに酔ってしまうのか、どこか、調子が出ないみたいなんです。家飲みでは常温の酒を飲んでいたけれど、やっぱり燗酒がうまいね、と言いながらも、すぐに酔ってしまう。(略)それともうひとつ、(略)酒は家でも飲めるからわざわざ飲みにいかなくてもいいと考える人が出てくるんじゃないかと不安だった。それが今、現実になっているかもしれない。(略)」
あとがきに、カメラマン衛藤キヨコサンと、「danchu」編集者宮内健サン、本の雑誌社杉江由次サンへ謝辞。書くべきして書かれた本で、後続が続かなければいけない本だと思ってます。書かねば残らない。だから。以上
【後報】
トイレットペーパーがなくなってガランとしたお店の棚の写真を探したんですが、あれはいつだったのか。2020年4月の写真からは出て来なかった。下記はすべて2020年4月。






どっちがよかったんだか。


(同日)
【後報】
帯折り返し。
(同日)
【後報】
2020年3月8日。トイレットペーパーのない棚。ただ、2024年9月のコメの棚とうそぶっこいてもそのまま通りそうな。
(同日)