『桶川ストーカー殺人事件―遺言』読了

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)

重い本でした。内容が。
でも一気に読める。読ませる力がある。悪い意味で。素材がこういう人間だから、筆に力が入らざるをえない。

頁61

身長が一八〇センチくらいある細身の男で……」

頁61

芸能人で言うと、羽賀研二松田優作を足して二で割ったような顔かな。

頁66

自称青年実業家は、月一千万ぐらいの稼ぎがあると豪語していた。

頁68

病室に手下のような若い連中が何人も揃っていて、病室を出て行く際には詩織さんに「ういっす、失礼します」とまるでやくざのような挨拶をするのだ。「池袋の横断歩道でミニパトにわざとぶつかってやったんだ。このことは朝日新聞赤旗には言ってあるから、もう警察は俺の言いなりだ」小松はそう言って笑っていた。

頁93

どう転んでも関わりたくないタイプの人間というのは確かにいる。

上尾事件*1とかも関連する埼玉(含む東京都北区)の土着性の狂気とかそういうものが何かあるのかと思ってこの本を手に取ったのですが、そういうのはありませんでした。
が、スカウト全盛時代の、カタギの女性をシノギの対象にすることをなんとも思わない狂った風潮みたいな、何かおかしな時代の空気が脳裏に甦りました。
北海道はまだ、その辺の区別、画すべき一線は保たれていたのかもしれないですね。

頁280

金でなんでも自由になるという世界は、和人だけのものではない。金で安全を買うつもりが逆に

頁299

しかし、彼女達は聞く耳など持っていなかった。ただただ一方的に怒鳴る二人に質問することは諦め、

聞く耳を持たない人の話は聞かなくてもいいべさ、はんかくせ、そういう結末でした。けじめつけれ、っちゅっても通じなさそうだも。

これだけの筆力をかけて書いても、下記の未解決事項が残ったというのが、小説ではないノンフィクションのもどかしいところです。
郄村薫推理小説を断筆したきっかけの事件*2をふっと思い出しました。

頁350

この一点だけが、私の心の中で未消化の部分だ。いや未だに背負い続けている「何か」か。
今、事件の陰でやれやれと胸を撫で下ろしているそいつ。どんなに時間がかかっても、いつか必ず、そいつを表に引っ張り出す。心あたりがあるなら覚えていて欲しい。

いつかが来ることを祈って。
(祈るっても、イーユン・リー*3みたいに千年も祈れませんけど。寿命百年未満の人間だから。)


ストーカーの意味はもうタルコフスキーの映画とは全然違っちゃったな、残念。拝拝