『漢字雑談』 (講談社現代新書)読了

漢字雑談 (講談社現代新書)

漢字雑談 (講談社現代新書)

高島俊男先生最新作。
講談社のPR誌『本』に連載した記事をまとめたものとのこと。
この連載は現在も続いているとのことですから、続編もあるでしょう。
一時期目がどうとかあった気がしますが、ご健康そうで何よりです。
よく分かりませんが、首都圏に住んでいるような記述があり、
もう京都には住んでおられないのかな?と思いました。
高島俊男先生と言えば、Wikipediaにも書かれている「支那は悪い言葉だろうか」が有名ですね。
支那」については、京大支那學の伝統や、
漢訳仏典に見られる「支那」の用法も補記した続編が読みたいところです。
Wikiには書いてないけど、ホンカツ=ペンダサン論争のチャイナウォッチャー版ともいえる、
台湾呂姓の日本語読みについての藤井省三先生との論争も面白いですね。
台湾文学この百年 (東方選書)

台湾文学この百年 (東方選書)

本家ホンカツ=ペンダサン同様、すれ違う論点をおきざりにしたまま、
エモーショナルな色眼鏡前提攻撃を繰り返すまさに日本的論争の典型ともいえる論争でした。
で、今回の本の感想ですが、引用箇所を打ち込む前に眠くなったので、
後報とし、またそのうち続きを書かせて頂きます。おやすみなさい。

【後報】

頁158
 百姓よみ、とは字のつくり(旁、おおむね右側)の読みを全体の読みとすることである。百姓をばかにしたような言い方だが、昔からある一種の述語であり、国語学者も使う。

呂姓の読み方や支那にも共通する、先生のスタンスは上記によく表れています。

・昔からある。
・学者も使う。

この2点に敬意を払えばいいのですが、そこをないがしろにすると、
お言葉ですが…」となるわけです。
産経新聞読者とのことなのでたぶんイデオロギーはあると思いますが、
スタンスの逆鱗に触れなければ、だいたい是々非々の態度でしょう。下のように。

頁164
 旧陸軍砲兵隊の「拉縄(りゅうじょう)」は、読みは日本語の百姓よみ、意味は現代中国語からという面妖なことばである。自衛隊がそのあやしげな用語をそのまま踏襲しているらしいのにはあきれた。「引き縄」あるいは「引き綱」で十分ではないか。

頁180
 傅は子供を守り育てる先生。日本ではほとんど用がない。中国では「師傅」(せんせい、師匠)はよく使われることばのベストワンと言ってもいいほどで、名前を知らない人に話しかける時、相手が店員であれボーイであれ、あるいは運転手でも大工でも道路工夫でも単なる通行人でも、「師傅」と呼びかける。相手に対する敬意を含んでいるから感じがいい。日本にはこんな便利なことばはありませんね。

ふと思ったが、頁161に「雑炊」を加えてもよいと思いました。チャプスイ。
あと、下記が思わぬ波紋を呼んでいるやもしれぬ、と思います。

頁224
 中国の文言にはほぼ敬語はない。だからもし漢文をそのまま読んだら敬語のない日本語になる。かなり異様な日本語である。

ここを読んだからかどうか知りませんが、
中国語の書き言葉には敬語はない、中国語には敬語はない、
と勘違いした質問を最近されました。
それなら中国語のビジネスレターに“平时承蒙贵公司的关怀”なんて書く必要もないわけで、
手紙やスピーチに使う中国語の書き言葉には敬語はあるが、
国史を記述したりする時の文語には敬語はない、ということと考えています。
書き言葉なのにスピーチは変と思われるかもしれませんが、
日本語だって「本日はお日柄に恵まれみなさまに置かれましてはこうしてご参集いただき」
みたいに、スピーチではくだけた会話と違う書き言葉みたいな表現をよくするから、
まあ、いいかなっと思って。
あと、いま、ふと、冒昧敬上のジンシャンと、兵隊支那語の「シンジョ(進上)」って、
何か関係はないのかなとふと思いました。
兵隊支那語も取り上げてほしいですポコペン
(2013/4/12)