『秘録華人財閥―日本を踏み台にした巨龍たち』読了

秘録華人財閥―日本を踏み台にした巨龍たち

秘録華人財閥―日本を踏み台にした巨龍たち

積ん読シリーズ
二十一世紀初頭の香港財閥の人々について描いた本です。
あとがきに有るように、確かに類書は珍しい。
Web掲載紙版出版が生んだ新しい成果のひとつと思います。
「日本を踏み台にした」云々は、人目を引くためのレトリックで、
それほど日本の影があるかというと、そんなにはないです。
逆に、ジャーディンマセソンみたいな、堀田善衛みたいな昔の人の本に出てくる
英国系企業から華人財閥への興亡がよく分かって、よかったです。
以下、眠いので後報。

【後報】
まず、頁53で、香港のプラスチック造花クオリティーを飛躍的に向上させた
技術が、現湘南ベルマーレオフィシャルクラブパートナーアルバック*1
(当時は日本真空技術という社名)からもたらされたという小ネタがよかったです。
香港中国を代表する巨大企業・長江実業の原点に湘南のスポンサーが絡んでいたなんて、
さすが河野一族…は関係なく、
接点は、日本で学んでのちに勳4等瑞宝賞を受けた、
東京銀行香港支店華人行員邵友保さんだったそうです。
次に、常識かもしれませんが、頁60で、りんご新聞蘋果日報とジョルダーノが同じボスの
会社であることを知りました。勉強になりました。
また、頁86から94あたりまで、七十年代に香港で上場した日本企業、
三光汽船ソニー永大産業熊谷組東レ松下電器、クボタ、日本信販、立石電機
について書かれており、栄枯盛衰と思いました。
さらに、頁99で、ポルナレフとアブドゥルが戦ったタイガーバーム・ガーデンが1998年、
この本の主役李嘉誠の長江実業によって取り壊されて高級住宅地になったことを知りました。
ジャーディンについては、以下。

頁157
 ジャーディンのサイモン・ケズウィック会長はさらに、1984年の中英共同声明が発表される直前に、「返還後も英国の法体系下での経営基盤が必須だ。自由社会での経営こそ、われわれ株主が求めるものだ」と表明し、法人登記を香港から英領バミューダに移管してしまった。これは明らかに1997年以降中国に統治されることになる香港に対して忌避を示したものだった。

同頁
 中英交渉で世界が注目している最中に、ジャーディンがバミューダに登記を移すと発表したことは、中国政府のメンツを丸つぶしにした。これは、中国の英国に対する交渉態度を強烈に悪化させたと言われている。
 ちなみにジャーディンは1994年に、香港登記だけでなく、主要グループ企業の香港上場を廃止してロンドン証券取引所に移管。アジアの主要事業であるマンダリン・オリエンタルやデアリー・ファーム、ホンコンランドの3社は、シンガポールに上場を移管している。

頁199で、スターTVが広東語放送が出来なかった理由(ケーブルTVとの住み分けを
目的とした許認可)が書いてあり、ちょっとがっくりしました。
また、頁205で、「パシフィックセンチュリープレイス丸の内」が、
李嘉誠次男の日本投資と知りました。ごっついのつくらはりましたね。
で、

頁281
 電力供給では前述したように李嘉誠の香港電燈(HKE)と中華電力(CLP)が市場を二分している。またスーパー部門では、李嘉誠のパークンショップと、ジャーディンのウェルカムが市場の70%を握る。ドラッグストア部門も同様で、ハチソン系のワトソンズと、ジャーディン系のマニングスが市場を二分している。
 フランス系小売大手のカルフールも香港市場で展開していたが、2000年に撤退を余儀なくされた。

頁282
 つまり、香港は貿易や投資といった外部と関わる経済では世界一の自由競争社会だが、内部で完結する経済では非常に閉鎖的社会だといえる。

これは目からウロコでした。
もうひとつウロコは、

頁288
 ここに興味深い調査結果がある。香港中文大学が2006年下半期に香港と日本、台湾、シンガポールの4カ国・地域の同族企業500社を対象に行った経営権継承に関する調査で、香港上場の同族企業38社のうち、創業者から二代目への継承が完了する8年間で、その株価が平均80%も下落している実態がわかったのだ。中国には「富不過三代」(富は三代まで続かない)ということわざがあるが、それが実際に証明されたわけだ。
 この調査は1990年がから2005年の約15年間を対象に、市場の外的要因を極力排除して行われた。台湾やシンガポールの同族企業も同様に下落していたが、ともに約40%減にとどまった。日本については、明確な傾向は分からなかったという。

いいウロコなんですけど、巻末の参考文献一覧のどの本にこの調査結果が書いてあるのか、
よく分かりませんでした。ビジネス書はえてして引用や原書がよく分からないので、
ここをもう少しクリアにして頂けたらなあ、と思います。
(2013/5/7)