『起業家の勇気 USEN宇野康秀とベンチャーの興亡』"ENTREPRENEURIAL COURAGE : USEN Yasuhide Uno and the rise and fall of ventures." 読了

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私はこの人の先代には興味がありますが、この人はよく知りませんでした。写真 アミタ マリ 装幀 関口聖司 「はじめに」はあるのですが、あとがきはありません。

著者が西田厚聰というかつての東芝トップを描いた、『テヘランからきた男』という本を読んでおもしろかったので、村瀬二郎という日系人弁護士を描いた『日本株式会社の顧問弁護士』を読んでみたのですが、消化不良が残ったので、もう一冊読もうと思って借りた本。

カバ折

 宇野康秀は不思議な経営者だ。
 ITバブル華やかなりし頃、“ヒルズ族の兄貴分”としてマスコミの脚光を浴び、二〇〇一(平成十三)年には、平井堅米倉涼子とともにベストドレッサー賞を受賞。プロ野球球団の買収に意欲を見せたり、堀江貴文が興したライブドアの株をフジテレビから買い取ったりと、その身辺はにぎやかだった。
 しかし、ギリギリの決断を迫られたとき、宇野はなぜかもっとも“茨の道”を選び取る。(本文より)

頁3 はじめに

 宇野は、巨額の負債を抱えることを前提に父の会社を引き受け、ネットフリックスやアマゾンといった大資本が乗り出してくるとわかっていながら、多くの社員を抱えて動画配信事業に邁進する。その情熱や執念はどこから生まれるのか。

この記事を書きかけた時にヤフー!映画で中国朝鮮族監督チャン・リュルが韓国で撮った映画の記事を見て、Gyaoで有料配信されてるのを知りました。まだフツーにGyaoはヤフー!映画に繋がってるんですね。よかったよかった。Hulu、ネットフリックス、アマゾンプライムに伍してるのか、伍してないのか。

宇野康秀 - Wikipedia

事業家以外でもトライアスロンや登山家としても活躍。2015年にトライアスロンの世界選手権大会の日本代表として選考され、近藤真彦とともに完走を果たす。

近藤真彦トライアスロンをやってたとは知りませんでした。宇野さんは、ベストドレッサーだけでなく、長男とも知己なのか。

宇野康秀 - 维基百科,自由的百科全书

中文版のウィキペディアは、宇野CEOの綽名として、〈商界的白馬王子〉と〈新城派的大哥〉を挙げてますが、前者は、元記事では要するにホワイトナイトですので、騎士が王子になる時点でオカシイと思いました。後者は、「ヒルズ族のアニキ」の漢語訳らしいのですが、ヒルズ族は「あらぐすく派」とは訳せないだろ~と思いました。

なぜ中文版ウィキペディアがあるかというと、勿論父親のUSEN創業者が華人だからです。以前USENウィキペディアを見た時は、台湾系と書いてあったのですが、ただの中華民國籍で、ホーロー系とか客家系ではないので、現在その辺の記述はありません。

USEN - Wikipedia

頁35に、創業者の父親が腹心の部下に出自を語った部分の回想が記されていて、それによると、安徽省から昭和初期に来阪したそうです。いわゆる新安商人、徽州商人の末裔ということにもなろうかと。先ごろ中国大陸で全面的に抹消された趙微(ビッキー・チャオ)と同郷という点でも、興味を惹かれる人がいるかもしれません。

新安商人 - Wikipedia

戦前の大坂華僑はミナミ周辺で、チャイナタウンまでは築けなかったが、相互互助的に暮らしていたと同個所にありますが、この辺は神戸新聞社『神戸の華僑』の付録、「大阪の華僑」に詳しいです。確か船場に多くいて、銀本位制の清国と金本位制の日本とのはざまで利ザヤを稼いでいたとか。祖父は大阪で手広く商売して成功しており、宇野さんの父親は中華学校初等教育を受けるのですが、高校は府立夕陽丘高校(橋下徹は北野高校)、大学は阪大工学部に現役合格して、在阪華人ホープとして、おおいに将来を嘱望されていたとのこと。(他の資料を知らないので、本書の記述をそのまま書いてます。創業者あるあるとして、そんな経歴あれへんでとなっても、知らん)その縁もあって、資金繰りでえらいことになった時、華人界から金借りれまくったのでしょう。嫁はんも華人で、中華学校の同級生で、おうちは三把刀の散髪屋で、なので格が不釣り合いで、嫁に行ったら苦労しそうと嫁さんの実家は反対したそうですが、結婚出来なんだら死ぬとだだこねたとか。強情な子や。ので、お兄さんも宇野さんも両親が中華学校出だったら、中華学校仕込みの北京語を、それなりに家庭内言語としては耳で理解出来てそうな気もしますが、分かりません。

USENというと、例の、勝手に電柱にケーブルを引いてしまうというゲリラ戦法しか私は認識していませんで、それとローラ―作戦で有線の全国制覇を成し遂げたとか。本書にも、頁18、1988年4月10日の瀬戸大橋開通式、現上皇ご夫妻が皇太子ご夫妻だったころ臨席し、時の竹下登首相がテープカットするテレビ中継を、有線はとっくに開通前に社員が忍び込んでケーブル張ったんにゃと、先代がニヤニヤしながら視聴する場面があります。ここで面白かったのが、頁49、大阪進出した東京のライバル会社日本音楽放送(現キャンシステム)と熾烈なダンピング競争を繰り広げていた1970年前後、ライバル会社が大阪有線のケーブルを夜間ゲリラ的に切って回るところ。双方夜間切断戦の殲滅戦になりかけたところで、先代が蛇の道は蛇で相手のケーブル切断予定の事前情報を入手、警察に通報して、大阪万博前の揉め事を嫌がる大阪府警を動かして、相手を次々器物損壊の現行犯で逮捕させたところ。勝手に敷設したケーブルなのに器物損壊の対象に出来るとは、目からウロコでした。勝手につけたもんやさかいどうこうされても仕方おまへんやろという理屈ではないかった。大阪万博前という時期も追い風になったでしょうが、よく考えたら、駐禁の車にイタズラしたら、駐禁であってもやっぱり駄目ですよね。そういう理屈かと。

本書の宇野さんは当時ライバル会社だったキャンシステムの取締役を現在勤めてるそうで、何か資金のやりとり、バーターなどの結果なのでしょうが、書いてないのか読み飛ばしたのかで、頭に入っていません。

で、頁77、宇野さんは私立の中高一貫校からバブル前に明治学院大学に進み、とれんどくりえいたーの西川りゅうじんやら江副さんのリクルートやらの薫陶を受け、時代の寵児というか、イベントやらなにやらではなばなしく活躍した、ということです。この辺、1959年生まれで、酒つまのオータケさんと同じ大学同じ学部の筆者から見て、どう見えていたのでしょうか。私はこういうインカレサークルは、90年代からもうその萌芽はありましたが、「女子大生」で手っ取り早くカネを稼ぐという、学生なんだかハングレなんだか分からない路線がスーフリで頂点に達したあたりで、バベルの塔が崩壊したと思っています。後はその辺の私大キャンパスに行くと、上京学生へのマルチ、ねずみ講の注意喚起ばっかり。SNSで人類はほんまに便利になったのか。

リクルートの江副さんに関して作者は、勝手にマウントとってくる態度と、孫正義絡みで勝手に情報リークされた恨みから、けっこうネガティヴに書いてます。しかしリクルートという会社については、学生時代既にカネを稼いだ実績をひっさげて起業を試みるような若者を片っ端から青田買いで囲い込むような社風で、称賛しています。私はこないだルワンダタイ料理店を開いたシンママの本を読んだのですが、その人と、先行してルワンダで起業した邦人もみなリクルートヤメ組で、リクルートの遺伝子って、派遣法改正後も、まだあるんだなと思いました。

stantsiya-iriya.hatenablog.com

そんで、同じように学生時代頭角をあらわしていた気の合う仲間と、インテリジェンスという会社を、何をやるかはあとまわしにして、とりあえず起業するのですが、1円企業の時代でなく、株式会社の登記には一千万必要なので、資本金は四人の仲間がクレカのキャッシング限度額50万円出し合って350万円(宇野さんはカード四枚持ちなのでぜんぶ限度額で200万)あとの650万は知り合いや縁者から借りまくったそうです。なんてバブリーな話。キャッシングの返済どうしたのか。まさかブラックリストに載ったってことはないと思いますが… FC町田ゼルビアの創業期に、創業者はクレカ借金で選手の給与支払ってたと以前聞いたことがあり、その人はもうどうしてるのか、ひっそり今のアベマテレビのゼルビアを見守っていると思うのですが、それを思い出しました。私が検索した頃は、ネットでギリ残骸が見れましたが、今はその頃の情報どうなってるのか。

アベマテレビがサイバーエージェントで、サイバーエージェント藤田晋という人も、本書に頻出ですので、読んでいて妙な気持です。ゼルビア。しかし、そんなクレカキャッシングで始めたような会社も、大学時代から目立っていた者同士の起業だと、なんしか目鼻がつくもので、人材派遣業のコンサルというなんだかスキマなところでどんどん収益を上げていく様は、私のアウトオブ理解で、お金って、どうやって稼ぐのか分からない私のような人間と、先天的に稼ぎ方を知っているので恐れることがない人たちとがいて、それで世界は形成されているんだなあと思うです。

そういう人が父親の健康悪化とともに、社業を継ぐわけですが、宇野さんは次男だか三男で、ほかに長男がもう有線で働いているので、そこの確執が読みどころとなります。長男の人は同志社で、卒業後やはりリクルートにいた後父親の会社に入ったそうで、なんでその人ではダメかとか、せめて会社を分けて半分自分に呉れよしとか、いろいろ書いてます。宇野さんは康秀でなく名字で書かれ、先代元忠や兄康彦は名前で書かれるという、構成しくったみたいな本ですが、お兄さんと宇野さんは弱点も共通していて、ただ総領の甚六で、お兄さんのほうは長点があれだった、ようです。華人なら財産は均等分割ですが、そういう視点からの記述はないです。頁169には2007年のお兄さんの「急死」が書かれます。有線を出た後立ち上げた会社がうやむやになった後。頁250は、宇野さんが銀行に精神的に追い詰められる場面ですが、ここではお兄さんは「若くして命を絶った」と書かれています。享年46歳。

いわゆるインターネットバブル時代のいろんな人物については、作者は孫正義三木谷浩史の伝記を書いてるので、お手の物という感じで、どうやって原資を集め、どうやって収支ウハウハなのか、さっぱり分からんちんだけどみなさんゴイスーですなあと思いながら読みました。三木谷さんは興銀ヤメ(頁194)とか知らへんだ。あと誰か、長銀ヤメもいた気がしますが、忘れました。

頁237、フルキャストが紛糾して、学生援護会をとりこんだはずの宇野さん陣営が、リーマンショックも起こって、大変なことになるくだり、「フルキャスト」という名前だけで付箋つけてました。どこかに「グッドウィル」もあったかなあ。

で、銀行から宇野さんが追い詰められるくだり、銀行の人が実名で出ます。三井住友銀行は原田良輔常務。ゴールドマン・サックスのマネージングディレクター、小泉泰郎。何をされたか、具体的なエピソードがどんどん書いてあり、こういうことを裏取った上で、ここまでは書く、というのが作者含め、ライター業の醍醐味であり、責任であると思いました。社会の木鐸であり第四の権力であるなど、大上段に振りかぶらなくても、こういうところで矜持を示せるのか、とりあえず削ってしまうのか、日々研鑽というかバトルなのでしょう。

宇野さんは社長を追われますが、最後、復活します。しかし、何がどうして復活したかは、紙数が尽きましたまたいずれ、なのか、まだ書けないんですよいろいろと、なのか、書いてません。こういうの、なまぐさい本は大変ですねと思いました。あと、私は華人の話が読みたかったので、そっちに詳しい人と、共著ってのはないんだろうかと思いました。前川健一のオート三輪の本もそうですが、詳しい分野が違う者同士の共著って、そんなに砂上の楼閣なのかなあ。『正伝・大山倍達』くらいしか思いつかないのですが、ほかにもないかなあ、共著。焦点がぼやけてしまう危険性のほうが大きいのか。以上