『午前三時のルースター』Kakine Ryosuke "Dawing day, dawing life" 垣根涼介(文春文庫)読了

直木賞受賞の報道でこの作家さんを知って、『ワイルド・ソウル』を読んで面白かったので、これも読んでみました。

単行本が2000年4月文春刊で、2003年6月文庫化。読んだのは2004年12月の二刷。表紙写真・横木安良夫 デザイン・関口聖司 巻末に「●第十七回サントリーミステリー大賞の選考経過」1ページ。書いた人は「選考委員会」大賞と読者賞ダブル受賞が本作で、最終選考に残った優秀賞は結城辰二という人と、新井政彦という人。選考委員は浅田次郎北村薫林真理子藤原伊織逢坂剛。作者の垣根サンはリクルートヤメ組ですが、選考委員に藤原伊織の名前があったので、私の中で藤原伊織リクルートヤメ組に脳内変換されてしまったのですが、過去の読書感想のメモで再確認すると、藤原伊織サンは電通ヤメ組でした。リクルートヤメ組に対し、もうワンランク、タチがなんというか、アレだった。

stantsiya-iriya.hatenablog.com

私の日記に出て来るリクルートヤメ組は下記。

stantsiya-iriya.hatenablog.com

スターと閲覧数に何の関係もないというか、上の記事もなぜか一時期アクセスがそれなりにありました。が、なにしろ今、私のブログでいちばんアクセス数が多いのが、あちこちに出たウェブ広告のキャプチャーを集めただけの記事で、収益化したら確実に何かに抵触するかもしれないコンテンツが、なぜかひょいひょいクリックされてます。おかしな現象。あまり深く考えないようにしてます。そういうことです。

下の記事の本もリクールトヤメ組のしとの本です。

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上の本は桜が丘の探検家のしとの書店にあった本。USENのしとの本を書いた児玉博というひとも、著書を最初に見たのは探検家のしとのお店の『テヘランから来た男』でした。行くと発見はあります。よく新刊チェックされてる。しかし、いかんせん私の行動経路から外れている。その辺は西八のモモのお店も同じ。

文庫なので解説があり、川端裕人という、作者と同業者のしと。世良公則、否、ルースターの意味も脳内にないかったので、外部ストレージ、クラウドで検索しました。

ルースターとは何? わかりやすく解説 Weblio辞書

世良公則、否、ルースターズとは、一番鶏、雄鶏、転じて騒がしい人、自慢しいを指すそうです。Weblioは内容表示がアレなので、コトバンクで出そうと思ったですが、コトバンクにはそのものズバリの項目がないかったです。

kotobank.jp

kotobank.jp

ロストルを中国語で言うと - コトバンク 日中辞典

鶏を英語で言うと - コトバンク 和英辞典

この作品を読もうと思ったのは、著者が近ツー、旅行代理店勤務時代にサイゴンに行って、思い入れがあったからとウィキペディアで見て、私も思い入れがあるので読んだわけですが、この人はやっぱりコロンビアにも思い入れがあるのかな、固有名詞としてだけですが、コロンビアも登場してて、おかしかったです。サウダージ、ワイルド・ソウル、これ。なかなか日本の小説で、コロンビアが麻薬以外でぽんぽん出て来ることはないです。

英題は表紙から。このしとが、名前を、アルファベット表記でも、姓+名のじゅんばんで書くところは、2003年という時代を考えても、いいと思います。イイデス。文明が衝突したりオリエンタリズムがサイードだったりしてた。私はいつでも、銀英伝の、W式、E式という簡潔な区分、断り書きがあればそれでいい、それがベストと思う。

英語のカタカナ表記が、私のようにブッコフとか勝手にリエゾンして書く人間の先駆的表記で、ジェラしい©江口寿史 と思いました。

頁157

案外、マジメなのねアネスペクティドリィ・ア・シリオウス」

"Unexpectedly, (You'r)e serious." かな。アネスペクティッドリーがアンエクスペクテッドリーだと脳内変換されなくて、しばらくこのページで固まってました。

頁347

一言でいうと、キツい女だイナワード、シャープ・ウーマン」

ここもリエゾン。"In a word, Sharp woman." だと思います。"Enough word" ではないと思う。垣根サンの英語は冠詞 "a" が好きなのかなと思いました。筑波大学出なので、高校のうちに英検二級はとってるでしょうし、私なんぞの及ぶところではないです。登場人物の日本人とベトナム人がほぼ全員英語ペラペラという展開(そういう人だけ選抜したわけですが)も、作者の実力に裏打ちされているはずで、なんちゃってではない。

頁169、「日本人」のベトナム語が"ヴォイ・ニャット"となってますが、これは誤り。"ンゴイ・ニャット"のはず。"người Nhật."

www.hcm-cityguide.com

頁252「ザライ族」は知らなかったので検索しました。

ja.wikipedia.org

ジャライ族 - Wikipedia

ベトナム語の公式ではどちらも"Gia lai"なのですが、日本語版ウィキペディアでは省名がザライ、民族名はジャライとなっていて、しかも、北方方言の「ザ」が南部で「ジャ」になるという注釈もついていて、あれ? 南部の「ラ」は北部の「ザ」になるけど、「ジャ」もそうなの? と思いながら読みましたが、ベトナム語版によると、京(キン)族以外の周辺民族からは"Jia lai"と呼ばれるとあり、ホーソウデスカと思いました。

vi.wikipedia.org

Người Gia Rai – Wikipedia tiếng Việt

本書に登場する?リゾート・ビーチ、ブンタオは行ったことありません。テレビクルーの取材が、クチのベトコンのアリの巣と市内を同日にこなそうとした、という頁89は、クチは行ったことあるので、出来んのかなと思いました。旧サイゴンのレロイ通りやグエンフエ通り、ベンタン市場、チョロン(華人街)など、今は変貌してしまったであろうホー・チ・ミンが、私の行った頃と現在の中間点くらいの感じで書かれてる気がしました。ドックラップ(独立)通りやツーゾー(自由)通りは出なかった。

頁263

「うまく言えない。結局は、感じること、気持ちとして残る部分がすべてに優先するんだと思った。どんな過去があろうがどんな仕事をしてようが、それでも相手のことを嫌いになれないのなら、最後はそれがすべてなんだと思う。で、さっき、あの子はそれでも君のことを好きだと言った」

本書のツボはここでしょうか。別に南京大虐殺仏印進駐、共産党の話を言ってるわけではないのですが、ここかな。これが勝つと分かっているから、憎み切れないロクデナシ、否、人たらし育成が全体主義国家の急務というわけでもないです。少年が成田空港で母の再婚相手の連れ子の娘から平手打ちを喰らう場面含め、全編を覆う本書の「空気」はこれだと思う。だいたいスパンキングシーンしか登場しない少女に、「少女とはいえ、どことなく男好きのする雰囲気をもっていた」なんて形容文章、いらないだろう。なんの伏線にもつながらないし。ここで読者が察するのは、登場人物はすべて作者の分身として、この手の失言癖があって、自分で自分が思っているほど、他者を自分の手のひらで転がせる人間ではないんだな、ってこと。だから、1㍉も登場しない主人公の彼女が「キツい女」なんて、非モテでない自慢が唐突に出る。

主人公も少年も社長もミスター蒸発も、だから同じタイプの人間で、同じタイプの忠告を何度もされる。というか、自己啓発に夢中な人間の常として、自分がどういう人間か判断してハッキリ言ってもらうのが、大好き。完全に犯人のデコイにするため登場したカラテマンと、現地のインテリ文武両道ドライバーのふたりから、まったく同じ指摘を受けるので、とても笑いました。ボクは婿養子と主人公が、どちらも同じような女性を現地でピックアップするところも、その後の展開も、あ~どっちも作者の分身だからな~、どっちもホントは筑波山麓呪い村で自転車漕いで通学して学生どうしで同棲して、卒業後はリクルートに就職したんでしょう、分かりますよ、と思ってしまった。

これだけの冒険をするわけですが、帰国がリセットタイミングで、また会えるかな、もうなかなか会えないと思う、というシビアなやりとりで終わるのが、実に添乗員あがりの人のリアルな感慨で、そうだそうだと思いました。だから一期一会で、人に恨まれるようなことはしてはいけない。名誉挽回のチャンスが二度とないことも多いのだから。

以上