- 作者: 一色伸幸
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私は金子修介監督の映画が好きで、その幾つかの脚本がこの人なので、
名前は知っていましたが、ホイチョイの人だと思っていました。
『私をスキーに*2』『彼女が水着に*3』『波の数だけ抱きしめて*4』とかで知られる人だから。
違うんですね。
『バブルへGO!!タイムマシンはドラム式*5』にこの人の名前は無い。
この本に収められている『僕らはみんな生きている*6』の台詞に、
頁90
俺の親父は日立だ。毎年、年賀状が三百通来てた。それが定年退職した途端に七通になったんだ。七通だぞ。元旦に郵便受けの前で三十分つっ立ってた。笑っちゃうよ、人生の二百九十三通ぶん捧げたんだ。バカみたいだろ、そうだバカなんだ、でも働くんだよ
というのがあるのですが、だからかどうかは知りません。
『波の数だけ』のミポリンのオーラのなさに当時知人がのけぞっていましたが、
それとこの人と関係があるかは知らないです。
その頃ひどかったみたいですね。1993年がピークとか。
上の抜き書きセリフも、映画では気が付かなかったけど、
「人生の二百九十三通ぶん」とか意味が分からない。
作者
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E8%89%B2%E4%BC%B8%E5%B9%B8
バブル時代、大学不登校で、新聞拡張員でがっつり稼いでいた著者。
業界で活躍する同級生幾人かをみて発奮し、脚本家を目指します。
努力と幸運で、アニメ『宇宙船サジタリウス*7』とか、
最初に紹介した映画とか、ドラマとか、いろいろ手がけるようになります。
その、社会人生活スタートと同時に、市販の精神安定剤を濫用しだします。
頁46
ジャンキー化していくことを、特に隠しはせず、打ち合わせの席でも平気で錠剤を齧っていたので、仕事仲間は苦笑しながら、よくこう言った。
「一色くんも、酒が飲めれば発散出来るのになあ」
体質的に飲めないのだ。何度もトライし、いろんなお酒を試してはみたが、合わない。後年、「お小遣いのため」と割り切りながらも、ビールのテレビ・コマーシャルに出たときは、申し訳なさでいっぱいだった。
でも、いまは、アセトアルデヒド分解酵素が欠落しているこの身に感謝している。お酒だったら、あっという間に肝臓を壊していた。アルコール依存症患者の断酒会を取材したことがあるが、確実に、あの茶色い顔をした人たちの中にいただろう。
頁47
断酒会の取材の折、直立不動、真摯な言辞で断酒の継続を誓うおじさんがいた。会が終わって古ぼけた公民館を後にし、タクシーを探して夜の国道を歩いていると、そのおじさんが近寄ってきた。
「一色さん、俺、あんたの映画、見たことあるんらよ」
会の終了後わずか十分で、酒臭かった。切実に命に関わることであると分かっていても、依存とはそういうものだ。
分かっちゃいるけどやめられない。
茶色い顔って形容は、上手いと思いました。
で、作者は、頁75あたりで、市販薬から処方箋のいる薬にグレードアップします。
で、作者は、東南アジアや中国の格安旅行にもハマります。
頁83
八〇年代の中頃。まだ開放政策を取る前の中国に入るには、ふたつの方法しかなかった。
ひとつは、中国政府が主催するツアーに参加し、共産党が見せたい場所だけ見て回る団体旅行。
もうひとつは、香港から電車で深圳に行き、「私は華僑です」と申告し、里帰りのためのビザを取得して自由に旅をするプチ冒険旅行だ。華僑であることを証明する書類などないし、二世三世が日本語しか話せないのはよくあることだ。
僕は後者を選んだ。仕事以外では、いつでもハイだったのだ。
で、作者は、当時のバンコクなどで、処方箋なしでそういう薬が買えることを知ります。
私はこの本で、『卒業旅行』公開時の織田裕二バッシングまたは金子監督について、
作者からの情報発信がなされているかと思ったのですが、ありませんでした。
http://www.tsutaya.co.jp/works/10002695.html
http://www.shusuke-kaneko.com/f_graphy/filmography/sotugyo.html
DVDが発売されない映画。
頁123
気に入った原稿が書けたけれど、僕の神経は、たぶん過剰摂取の副作用で、荒み始めていた。心が紙やすりのようにザラザラし、誰に対してもとげとげしくなっていた。
プロデューサーや制作担当、監督や助監督、タイのコーディネーターにまで、いちゃもんとしかいえないクレームをつけ、作業を遅らせたり、時間を空費するだけの罵り合いをした。
作者はその少し前に、旅行中、(主観的に)生きるか死ぬかの体験をし、
そのイメージを安曇祐子という架空の女性に仮託します。
でも、東野圭吾の小説みたいにはなりません。
- 作者: 東野圭吾
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頁131
近所のレストランに行った僕は、子供たちに、飲みたいジュースや食べたい料理を聞いてやり、ウェイトレスを呼んでこう言ったそうだ。
「この店は不味いから、水だけください」
こんなことがしょっちゅうだったし、気分次第でいきなり怒り、あるいは誉め、可愛がるので、小学生になろうとしていた長男は、僕に不審を抱いてしまったらしい。
家でも外でも、彼を呼ぶと、一瞬、“今度はなにを仕出かす気なのか”と、身構えるのが分かった。そういう過剰反応は、彼が中学に入る頃まで続いた。
申し訳ないことをしたと思っている。
反面、まだ小さかった次男は、支離滅裂な父親を指さして大笑いしていたようだ。
ここまで読んで、これのどこがうつなんだろう、薬物依存ではないのかと思ったのですが、
94年、業を煮やした妻が、頁133離婚頁139慰謝料よりもうひとかせぎ頁166保険金、
の選択でなく、
作者を幼少時通院していた病院に連れて行き、「うつ」の診断が降りるのだから、うつです。
作者は、それまで濫用していたものをすっぱりやめて、抗鬱剤だけを処方どおりに飲んで、
貯金で、二年間寝て暮らします。抗うつ剤の副作用を濫用していたクスリの症状と誤解され、
頁157
「一色ちゃん。もう薬はやめなよ。そろそろ仕事をしようよ」
と言われます。前世紀ラスト数年、作者は徐々に仕事に復帰し、
日本にカジノを作って転職しようとしたり、架空の女性をまた創作したりします。
市販薬にまた一時頼りますが、架空女性の成仏とともに、要らなくなります。
で、作者は、仕事以外では、ダイビングの趣味に生きるしとになったというところで終わります。
うつから回復した人で、ダイビングでおカネかかって大変という人を見たことありますが、
まさか本人ではないだろうし、そういうものなんですかね。
ああ、あと、学生時代先に業界に入った知人友人が自殺するという、
伏線だったのかよあの箇所は!まだ人生を弄んでるわけでもないだろうに、
と考えてしまう箇所が最後にありました。
この展開は、私には『青春少年マガジン』を彷彿とさせましたが、
作者のほうが先です。というか、シンクロニシティーでしょう。
青春少年マガジン1978~1983 (KCデラックス 週刊少年マガジン)
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*1:http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20140109/1389268084
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*4:
*5: バブルへGO!! タイムマシンはドラム式 スタンダード・エディション [DVD]
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