『消えない差異と生きる 南部フィリピンのイスラームとキリスト教』"Living with Indelible Differences: Islam and Christianity in the Southern Philippines” by Yoshizawa Asuna 吉澤あすな(ブックレット《アジアを学ぼう》㊼)(Booklet“Learn about Asia”vol.47) 読了

紀伊國屋のウェブサイトで「ラマダン」で検索して、出た本。フィリピン南部という、回教圏にとってのマージナル地帯、🐟🌀混在地域でのラマダン体験記が、全68ページの内2ページほど紙数を割かれ報告されており、たいへんおもしろかったです。著者は一ヶ月ラマダン完遂出来なかったとか。勝った。

消えない差異と生きる - 株式会社 風響社

紀伊國屋だと通販のみで、書店取り置きが出来なかったので、ほにゃクラブで注文して有隣堂で受け取りました。アマゾンを使わなかったのは、下記状態になっていたから。

アマゾンでの在庫切れ・不当な高額表示がされている件につきまして - 株式会社 風響社

松籟社南船北馬舎もそうだったので、これは地方出版センターを通すなどの、小出版社に普く顕在する問題なのでしょう。私は知りませんでいたが、たぶん紙魚に親しんできた人たちのあいだでは広く共有された常識であり、それを利用してアマゾンで高額出品をポチらせる御仁もいらっしゃるという。

装丁者未記。写真はすべて著者提供だと思いますが、断り書きはありません。頁4に載ってる女性の写真が非常にインパクトがあり、ここまでパンチが効いてると使いたくて仕方なかったですが、個人なので肖像権等ありましょうし、遠慮しました。レイバンみたいなグラサンをかけて、高級そうなバッグをこれみよがしにヒザの上に載せて、ヒジャブをかぶった若い女性がジプニかなんかの後部座席でポージングしてる。ヒジャブのかぶりかたも、マレーシアインドネシアのあのジャミラ*1のようなかぶりかた、髪の毛を出さず顔だけをまんまるく出すかぶりかたでなく、イランの都市部のようなかぶりかた、前髪を出してスカーフのように*2かぶっています。テヘランではよく見たのですが、どうも他では見かけず、残念閔子騫だったのですが、こんなところでこのスタイルをおみかけ。他の写真を見ると、現地ミンダナオのほかのムスリマは、海伝いに伝わったマレー世界のジャミラスタイルや、正統を求めてのアラビア半島スタイルのブルカばかりですので、彼女が特異点なのでしょう。写真の2013年~2014年には彼女はFBをやっていたそうですので、自分であげてるかもしれませんし、あげてないかもしれませんし、今はもうインスタに移行してるかもしれませんし、TikTokに移行はしてないかもしれませんし、自分であげてるからってなんだという。オナクラクンはSNSにあがってるかわいい子の写真をよく保存してますが、私にはその意味も分からない。私の知りあいにはFBで知り合った若いフィリピーナと写真再婚した米国人もいますが、その人は高給取りです。その人をやっかんだ別の米国人は日本での英語教師業に行き詰って、上海で同じ仕事に就いた。

風響社 綺麗ごとじゃない 日常と共存のリアリティ マラナオ族の家庭に住み込んだ著者。ラマダーンやクリスマス、恋愛・結婚・二人目の妻。明るく開けっぴろげな庶民の暮らしに潜む「境界」を描く。 読みっ切り! 学術最前線 47-

帯。表紙の一部とカブってる仕様。この写真のキャプションはありません。なんの儀礼か不明。たぶんムスリマだと思うのですが、マレー世界のジャミラスタイルともちがう、京劇のような飾りつけ。ちなみに本書には華人華僑は出ません。もともとフィリピン華人はたくみにスペイン系支配階層に寄り添ってスペイン名を持ったりしてるのでインビジブルですが、閔南系が多そうとか、そうしたニュアンスの記載もありません。著者滞在地はミンダナオの北部、ダバオの反対側ですが、そこでの誘拐事件の多くは身代金目的で、その犠牲者には中国人韓国人実業家もいる、という一行が中国関係ではあるのみ。頁14。

帯には「マラナオ」と「族」表記されてますが、本文開頭頁3では「マラナオ」と「人」表記です。もっとも、その後は「族」も「人」もつけず「マラナオ」と書かれています。ロヒンギャが「ロヒンギャ」とも「ロヒンギャ」とも言われないのにも似てますが、また別の話でしょう。

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マラナオはその地ミンダナオ島北部中部に多い、回教を信仰する民族で、言語も異なります。島には他にも回教を信仰する民族はいて、スペインのコンキスタドーレスからするといっしょくたに「モロ」です。実体は多民族。スペイン時代は殲滅戦の対象(イベリア半島レコンキスタの延長戦。舊スペイン海外領で数少ないムスリム棲息圏だったためか)でしたが、まあ駆逐することなど出来ようはずもなく(スールー諸島、ボルネオ以南の回教圏マレー世界とつながってるから)米国統治になると今度はビサヤ系の北の島の民族が移住するようになり、ビサヤ語やセブアノ語を話す彼らは基督教徒だったので、それで混住社会が形成されたそうです。回教徒のキリスト教徒への「回心」はトピックとして書かれるほどのボリュームはないみたいで、逆の、クリスチャンからイスラームへの改宗、シャハーダ信仰告白)をした人々はいち勢力を築くほど増えており、マラナオともセントロ・フィリピンとも異なる彼らは「バリック・イスラム」"Balik Islam"*3として第三勢力を形成してるそうです。以上第一章の私なりの要約。合ってるかは直接原書にあたってクラサイ。

はじめに 一 私のフィールド  1 南部フィリピンの歴史  2 イリガンの人・治安  身を寄せ合って生きる  1 一緒に暮らした家族  2 ご飯  3 質入れ  4 電気が消えた⁉  5 新しい海辺の家  6 二つのお祈り  7 糖尿病の恐怖  8 イスラーム教徒から見たクリスマス  9 ラマダーンは大変 三 入り乱れる宗教、揺れる信仰  1 カトリックからプロテスタントへ――ボーン・アゲイン・クリスチャンの場合  2 勢いづくバリック・イスラーム――キリスト教イスラームの境目  3 信仰告白とその先  4 テロや紛争のニュースを見聞きするたび思い出すこと 四 家族になる  1 キリスト教徒とイスラーム教徒の結婚――三人の女性のストーリー  2 他にも妻がいること、許せる?  3 子どもの宗教選択  4 新たな家族をつくる おわりに――綺麗ごとじゃない日常がつくる平和 参考文献 あとがき

帯裏は目次見出し。公式にも目次が載ってるので、それをコピりました。

グーグル翻訳にはマラナオ語もビサヤ語もフィリピノ語もなく、タガログ語とイロカノ語とセブアノ語があったので、それぞれ英語から重訳して下に貼っておきます。日本語からだと「著」が重いので、英語の"by"を現地語に。

イロカノ語
“Panagbiag nga addaan iti Di Mapunas a Pagdumaan: Islam ken Kinakristiano iti Abagatan a Filipinas”
ni Yoshizawa Asuna
(Bokleta“Ammuen ti maipapan iti Asia”tomo 47)

セブアノ語
"Pagkinabuhi uban sa Dili Mapapas nga mga Kalainan: Islam ug Kristiyanismo sa Habagatang Pilipinas"
ni Yoshizawa Asuna
(Booklet “Pagkat-on bahin sa Asia” vol.47)

タガログ語
"Pamumuhay na may Hindi Mapapawi na Pagkakaiba: Islam at Kristiyanismo sa Timog Pilipinas"
ni Yoshizawa Asuna
(Booklet “Alamin ang tungkol sa Asya” vol.47)

東南アジア関係の前世紀末刊行書籍を読むと、かなりの高確率でトヨタの「隣人を知ろう」プロジェクトの助成を受けていることが分かりますが、本ブックレットシリーズは松下幸之助サンの松下国際財団パナソニックスカラシップ・システム(名称は時々改称される)のヨロクというか、恩恵に預かるところ大きいとか。松下ならPHP研究所から出せばええやんと思いましたが、風響社は好きな出版社なので、気を悪くしたらごめんなさい。どういう経緯で風響社がブックレットなどという酔狂な仕事を請け負ったのか、ちょっと知りたくはあります。本書は2017年刊でNo.47ですが、現在は91冊!出てる*4ようです。

本書の舞台はイリガンという街です。広島に同名の喫茶店があり、沖縄ではウィッグの意味になるとか。近くにデュラン=デュラン山という標高2,941mの気になる山がありますが、グーグルマップにクソミソなコメントが投稿されています。

If you are an experienced climber, this place is a total scam. You need to pay a permit fee, a guide fee, ritual fee, tent rental fee, porter fee, etc. because you’re not allowed to climb it in a day! I’m sure it’s a great climb but all the stupid rules makes it a no-go.

maps.app.goo.gl

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イリガンはキリスト教徒がほとんどを占めている(人口の93.61%)。イリガンの住民はムスリムの地元マラナオ人とフィリピン中部のキリスト教徒のセブアノ語話者の混合で、フィリピン北部のタガログ語話者や、その他地元少数民族や他地方の移民は少数派である。

市の人口の93%はセブアノ語を話す。残りはタガログ語、マラナオ語、イロンゴ語、イロカノ語、チャバカノ語、ワライ語を使う。市民のほとんどは英語も話す。

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著者はメインランドフィリピンの料理も熟知しているようで、東南アジア全般を思い浮かべる読者を考慮した上で、「フィリピン料理は、ハーブやスパイスを多用せず甘じょっぱい味付けが主流」と簡潔かつ明瞭に定義しています。頁16。やっぱり福建、閔南の影響が強いのかなあ。フィリピンは東南アジアでなくラテンアメリカという視座がありますが、ペルー料理がクミンやコリアンダー、ワカタイなどハーブを多用するので、ラテンアメリカであってもハーブやスパイスを多用せず甘じょっぱい味付けということになるかと思います。その上で、マラナオの料理を紹介します。マラナオの料理は唐辛子とターメリックを多用し、手食です。インドネシアと似ている。前川健一サンの本で唯一フィリピンが出てくるのが『路上のアジアにセンチメンタルな食欲』*5ですが、そこでも、セブだかどっかから来たバンドマンたちがミンダナオの辛い料理をクサして、辛くするな辛くするなと注文つける場面があります。同時に、フィリピンの南北格差というか、北部人が南部人を見下すしぐさもさらっと出る。

頁18に、ビサヤ人の作る「バルバコワ」という牛の皮や肉を煮込んだ料理が出ます。検索すると、フィリピン料理では出なくて、中南米料理で出ます。これもアドボのように、スペイン語圏の西と東で、名前は同じだけど中身が違ってしまった例のようです。

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フィリピーナのミスターレディーは一世を風靡しましたが、セクシュアリティも含めて「男性のように振る舞う女性」はフィリピンでは「トンボイ」と呼ばれるそうです。ホームステイ先の隣人のシンママビサヤ人女性、バルバコワ呼ばれて頂戴とおすそ分けしてくれた人の同棲相手が「トンボイ」で、若輩者のケーススタディ参与観察者の眼を白黒させたとか。

上記ウィキペディアのようにイニガンは基督教徒のほうが多い地域なので、ムスリムも一緒に祝いたいなあと思うそうで、イーサーも預言者だからイイジャイカとか、クルアーンやバイブルのどこにもイーサーが12月25日生まれとは書いてなんだから別に今日じゃなくてもいいだろみたいな論争があるそうです。ビサヤにはピナスコハンという、ハロウィーンのトリックオアトリートクリスマス版みたいな行事があるので、ビサヤ人の子どもたちは門つけに訪れ、家の前で祝福の歌を歌い、マラナオは、ウチはザカートしないよと断ったりするそうです。

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ムスリムでも教育のためキリスト系の幼稚園に子どもを通わせるおうちはいっぱいあって、幼稚園に行くと、「キリスト教徒であってもイスラム教徒であっても、イエスさまが人類の原罪をかぶってくれたから天国に行けるようになったことにはかわりがない。だからイエスさまに感謝しなければいけませんよ」と教わるそうです。そういえば、たかのてるこダライ・ラマに恋して』*6でも、ラダックで、ムスリムでありながら輪廻転生を受け入れようとする信者や、ムスリムでありながらこっそりチベット仏教寺院に参詣する信者の話があったなあと思いました。

マージナルな地域のムスリムだなあと思う箇所がいっぱいあります。

①鶏をしめる時は自分たちでしめる。アホンにコーランの一節を唱えてもらいながら首を切ってもらうなどということをしない。頁17。私は開封の清真寺で、おばあさんが生きた鶏をぶるさげて、アホンにしめてもらいに門をくぐるのを見たのを今でも覚えています。マラナオの話。

②外出する際に夫や男性の親族が付き添わなければならないという規範を守らない。ここはマレー世界のムスリマもけっこうそうなので、東南アジアだなあと思う。頁26。マラナオの話。関係ありませんが、先日県営住宅から市立中学まで、目だけ出したヨロイバージョンの全身ブルカでのっしのっしと歩いてく女性を見ました。子どものことで何かあって呼び出され、宿六が仕事抜けられないかなんかで、ひとり出陣したみたいです。目だけ出すタイプは凄く目立つのですが、エスコートが居ない状況なので、いつも以上に肌を出さないようにしたのでしょう。さらにいうと、目だけ出してる状態でいかついので、逆に安心なのかも。

ムスリムのパートナーと死別したクリスチャンの女性が見せてくれた夫の写真には大量のビール瓶が。頁48。マラナオ。豚肉に関しては彼女が夫にあわせたとか。他にも、もともと豚肉は嫌いだったなど、改宗者やムスリムのパートナーにあわせて豚肉を食べなくなった女性の談話は出ます。日本はトンカツがおいしいからなあ。他の国にはトンカツがない。

④頁21イスラーム教徒にもシャブ中がいて、マラナオもそれは分かっているのだが、どうしても認識としては「キリスト教徒だからシャブ中になる」そうです。頁26にシャブ中から糖尿病になって片足切断の男性が出ますが、ビサヤ人でクリスチャン。フィリピンでも覚せい剤アンフェタミンを日本語からの外来語でシャブと呼ぶとフィリピン映画*7のパンフで読んだのを思い出しました。1987年生まれの京大院生の著者が当たり前のように「シャブ」「シャブ」書いていて、クラクラしました。四条河原町で私に「売ってくれや、なんで無視すんねん、京都もんは冷たいのう」と訳の分からないことずっと言っていたおじいさん、お元気でしょうか。私も煙草ならしょっちゅう、「一本、めぐんでくれんか?」と鴨川で言われ、「タンベ?」とワザと聞き返しながら一本つけてやったりしてたんですが。

ムスリマたちの「クルアーンを読む会」で、「ラマダン中に夫が求めてきたらどうするか?」という話題になり、ラマダン中は性交渉ダメだろと思いながら読み、果たして参加者たちもそういう認識で「どう躱すか」に主眼を置いてトークしてるのですが、ほかならぬ勉強会の先生が、「夫の求めに応じないのは罪になるので、応じなければならない義務がある」なんて諭していて、アホかと思いました。頁31。バリック・イスラムの話。知識が深くないと思って、適当云うなやという。

前に橋爪大三郎サンの講演会*8に行った時、キリスト教国でも老舗のフランスなんかはほとんど誰も日曜に教会に行かないが、新興国のフィリピンや中南米は非常にさかんだという話があり、先日イラン人に「ラマダンしないの?」「しない。神様とは形式でなく心で、真摯に向き合いたいから」という会話があり、彼がふしぎそうに、先祖代々で暮らしの中に回教が息づいてる国の人でないと、イスラームは理解出来ないんじゃいか、欧米人や第三世界で新たにオルグされた人々がアタマだけカブれても、それは信仰じゃないんじゃいかと言っていました。それは講演会で聞いたキリスト教の話と一致していて、イランみたいな回教原理主義国家だとギリギリしめつけられてるから、かえって教義を声高に主張する人間のうさん臭さ、腐敗も見えてしまい、其処を批判するのも命がけなのでサボタージュしたりとか、うんざりしてあまり実践しなくなったりとか、いろいろあると思う。しかし例えばスリランカみたいにムスリムが人口の5%くらいしかいないところだと、異教徒の圧力の中で、より一層熱心に信仰に向き合うようになり、ファナティックになるのではないかと言いました。その時点では知らなかったのですが、現代の自爆テロを発明したのはハマスでもPLOでもなくヒズボラで、レバノンキリスト教徒とイスラム教徒が人口比で拮抗している国ですし、おまけにヒズボライスラム教の多数派スンニー派でなく、イランからちょっと離れた場所で少数派シーア派の飛び地みたいなことになっている。それだから思いつめやすい人間を醸造するのに適してるのかもしれない、なんて最近考えてます。

頁29

 ところで私は、ラマダーンは大変楽しいイベントだと思っていた。中東研究者の友人や本から得た知識では、ラマダーン中は仕事もそこそこに家族や友人と集まり、豪華な食事を毎夜楽しむというイメージを持っていた。実際に体験して驚いたのは、真面目に断食をしない人、毎日断食をきっちりして体調を崩す人が多かったことだ。私も周りのイスラーム教徒と一緒に断食を行おうと試みたが、体がだるく午後になると頭がぼーっとしてくる。残念ながら一か月継続することはできなかった。長時間空腹の後で食事をとるため胃腸に負担がかかるのだ。食べる量を減らせば負担は減るのですが、そうすると全体の食事量が減る。案の定、ラマダーン明けに激やせしている友人が多数いた。また、イリガンのイスラーム教徒にとって難しいのは、社会の多数派がキリスト教徒であることだ。ラマダーン明けは休日と指定されているものの、ラマダーン中の勤務時間は通常通りである。特に女性は、家族の朝食を用意するため朝三時頃に起床し、一日飲まず食わずで仕事をし、夜はいつも通りの時間に就寝する。そんな生活を一か月続ける姿に感心したが、まさに「苦行」だと感じた。

『ナダコとサダ』*9や『モロッコラマダン断食』*10では「ラマダンは太る」とあり、その理屈も分かるのですが、私はラマダンダイエットもあると思っていて、本書には我が意を得たりの思いでした。ただし、私は夜は早く寝ています。そうしないとサフールと水分補給が出来ない。バリック・イスラムの勉強会の議題に、「ラマダン中の胃痛の直し方」があるのが印象に残りました。重病の薬はともかく、大正漢方胃腸薬とかそういうレベルですと、日中は飲まないべきなので、困ります。

だいたいそういう地域は宗教の草刈り場で、宗教から宗教へパロパロ、みたいな人もいるようですが、具体例は出ません。でも分かる。日本でも聞く話。カソリックから「ボーン・アゲイン」というペンテコステ派の異言を重視するプロテスタントの一派へ改宗する例は出ます。さらに、例の、バリック・イスラームカソリックからムスリムに改宗した人々と、さらにその数を増やそうと熱心に活動する人たちが出ます。バリック・イスラームの手口手管はやっぱりというか、キリスト教イスラーム教は同じ啓典の民で、きょうだいの宗教みたいなところから始まり、とにかく先にシャハーダ信仰告白)させて、その後で一日五回の礼拝義務とか説明したりしてます。これだと、深くやらないでやめてしまうヤメムスリムや、なんちゃってムスリムも多く量産されるんじゃいかと思いながら読みました。作者はなかなか辛辣で、「「ほかに、真の宗教があるんじゃないか」と探している人ほど、抵抗なく受け入れやすい教えなのかもしれない」(頁38)としています。上の橋爪大三郎の講演会で、入口では啓典の民とか口当たりのいいことを言ってるが、あの長~いクルアーンを読んでいくと、キリスト教は中途半端というか完成形でないのでそれじゃ天国にはね、とか、いろいろDISってることが分かるので、そうそう心を許したらアカンがな、だそうです。

実際にバリック・イスラームセミナーの場面では、キリスト教徒の経典理解の鼻を折ってから、徐々に「真の信仰」に導いていくメソッドも紹介されています。三位一体を攻撃するんだとか。神はひとつが一神教なのに、なんでキリスト教は三つもあるの? イスラム教は一つダヨ、みたいな。こどもだましみたいですが、こういうのほど効くというか、反論しにくいのかな。

頁35

(略)「実は、イスラーム聖典クルアーン仏陀預言者の一人だと書かれている。仏教は、人間の煩悩や欲を失くすことに注力してきたから、絶対の創造主アッラーの存在がぼかされてきただけだ。だから、もしイスラームに入るとしても、仏教の教えを捨てる必要はないんだよ」

著者はそう言って勧誘されたそうです。もちろん見学を申し込んだ際に、信じる宗教は聞き取られ済み。仏教がコーランに載ってるなんて話初めて聞いたなあ。アントニオ猪木イラク入りの際シャハーダしてイスラム教徒になったそうですし、敷居が低いのはそうだと思う。でもその先やーめたって言うのって、邦人だとうしろめたいかな。中国のように、何千ポイント進呈のクレカを作ってポイントもらって使ってすぐ廃棄の手間をいとわず繰り返せる社会なら。でも仏教には、嘘も方便という言葉もあるし、仏の顔も三度までで三度までなら戒律を破ってもいいんだろうし、悪人正機だってあるから、大丈夫かもしれない。善人猶以て往生遂ぐ、イワンや悪人をや…

頁52、第四章二節「他にも妻がいること、許せる?」は白熱してました。著者、アツいなと思った。著者のパートナーも同業者、フィリピン研究者で、出版時には第一子妊娠中だったので、アカン、フィリピンのそこだけはアカン、と思ってたのではないか。文中の、もしキリスト教徒だったら第二夫人でなく愛人、メカケになんにゃから、回教徒のほうがええやん、という理屈に対し、正妻は愛人ガン無視でええやん、認めない、せやし葬儀に来ても入れないでもええやん、けどもや、夫人は他の夫人認めなんならんねやで、それってすっごい負担やん、ウチ、でけんわ、ぜったい無理やと思う、てなもんで。

作者は続けて、第四夫人まで持っているが、相手はすべてクリスチャンというマラナオ男性との遭遇を紹介します。彼曰く、相手がマラナオ(伝統的ムスリム)だと、後の婚姻が先の妻とその親族に気に入られなければ、火が付いたような反発が待っており、最悪は殺害されることもありうるとか。しかしキリスト教徒は「汝の敵を愛せ」でやさしいので、そういうことは起こらない。ニューワイフを連れてきてモメても、最後はオールドワイフも受け入れてくれるんだとか。"God grant me the serenity to accept the things I cannot change, Courage to change the things I can, and Wisdom to know the difference." 平安の祈りはこういう時に使うべきなのかなあ。使うとしたら「帰られるものは変えてゆく勇気を、そして二つのものを見分ける賢さを」であるべきではと思いました。

その二つ後に、今に生きるマラナオ社会の「名誉殺人」未遂のエピソードが紹介されます。マラナオの血が入っていない男性(母親はキリスト教徒と推定)とマラナオ女性の婚姻が、「マラナオの血が入っていない」という理由で女性親族から強硬に反対される件。男性の宗教はイスラームで、熱心な信徒です。しかしそれは婚姻を認める理由にならない。そしたらその「名誉」は部族の名誉で、信仰の名誉じゃないですよね。しかし「名誉殺人」を行う(かつて行っていた)のはイスラームのマラナオで、カソリックの部族ではない。なぜ実行されなかったかというと、当人同士が泣く泣く結婚をあきらめたから。チャンチャン♪ ひどい話。

最近日本でも事実婚の多重婚生活の人たちのニュースがあり、ヤフコメに、回教の場合全ての妻を扶養しなければならないのに、稼がないとかなんなんと書かれてました。おそらく、モノホンの回教圏だったら、愛するだけで稼がないとはと、それぞれの女性の親族が黙ってない気瓦斯。若い男性親族が銃持って車で乗り付けて、詰め腹切らせに来そう。そういうふうに周囲の目がキツく監視出来てないと、一夫多妻はモラル的に破綻するのではというのが作者の考え。

頁60

(略)一行はジョリビーのドライブ・スルーに立ち寄った。バリーが車を停めると、若い女性店員が接客してくれた。バリーは店員に「僕達はバリック・イスラームなんだ。君はキリスト教徒かな?」と話しかけた。すると彼女は「私はハーフ・イスラーム教徒ですよ。父がマラナオなんです」と笑顔で答えた。(略)「なんだって! そんなことはあり得ないはずだ。もう一度聞くけど、君はどの宗教から祝福されているの?」「キリスト教イスラーム教の両方から」。店員は笑顔を崩さない。「それはあり得ない。今、真の知識を共有しようか?」と詰め寄るバリーに、女性は少し焦った表情になる。(略)「お客様、次の窓口へお進みください!」と、彼女は店内に身を隠して叫んだ。(略)「宗教にハーフなんてあり得ないのに。ハーフ・マラナオならありえるよ。だってマラナオは民族だから。でもイスラーム教徒にはハーフなんて……」(略)

 サハラが、バリーには自分の想いを話したくないと言った理由は分かる気がする。確かに教養上、両方の信徒であることはできないというのは事実である。しかし、自分の両親が信仰する二つの宗教からそれぞれ祝福されていると感じることは、それほど非難されなければならないことだろうか。

サハラはイスラームの父(マラナオ)とクリスチャンの母を持つ若い女性で、作者の友人で、バリック・イスラームとしてダアワ(布教)に熱心なバリーの親戚です。彼女の願いはこんなの。

頁60

「私は思うの。イスラーム教徒とキリスト教徒はただ祈りの方法が違うだけで何も変わらないって。なんで神様は人々を二つに分けたのかな? 地獄も天国も一つずつ。神様も一つなのに。(略)」サハラは、宗教的に敬虔だけれど、人の悪口ばかり言って横柄な態度を取る親戚を見ると、信仰って何なのだろうという考え込んでしまう。「ただ人に優しく、親切にする。それがイスラーム教徒であろうとキリスト教徒であろうと一番大切で、人の本質だと思う」

本書の参考文献は日本語英語、紙とデジタルあわせて18個くらい。『スリランカ学の冒険』*11の庄野護サンは百冊嫁と言い、百冊くらい読んでそうですが、本書で使ったのは18個。本書を読んで、フィリピン南部の基回混在地域に興味を持って、行ってみたいと思う若者向けに、作者は、冒頭の身代金目当ての誘拐多発を書き、巻末に2017年IS絡みの組織と国軍のあいだで戦闘が始まり、死者何人負傷者何人避難者何万人というインフォメーションを冷静にあげています。かつての作者のホストファミリーも、引っ越し先でビュンビュン銃弾が飛び交って、銃撃戦のさなか脱出しようにも動けなかったとか。

下は、バリック・イスラームになったが、またカソリックに回帰した女性についての動画。

www.youtube.com

www.youtube.com

オーストラリアのバリック・イスラームの動画。

あとがきを見ると、その後作者は会社勤めをされているようで、産休もとったのではないでしょうか。その後、子連れ参与観察を始めるのかどうかは分かりませんが、日本にいても日本のフィリピン人社会や日本のイスラーム社会を調べることは出来ますので、次の仕事に期待です。東京ジャーミィの日本語サイトを見ると、シャハーダ信仰告白)した邦人女性たちのよろず相談先がない苦しさが、如実に伺えてしまう。以上

*1:

m-78.jp

(グーグル翻訳)

Originally an astronaut from a certain country, he was lost in an accident during the space race, and his appearance changed as he adapted to the harsh environment of the star he washed ashore on.
His weapon is Thatchfire, a flame that comes out of his mouth.
His weakness is water, as he was transformed in a harsh environment with no water.
He resents people for covering up his accident, and returns to Earth to take revenge.
An invisible disk made from a modified spacecraft that was on board at the time of the disaster, it was attacking ships and aircraft of countries attending the International Peace Conference one after another, but the disk was made visible by the spectrum alpha, beta, and gamma rays of the scientific special investigation team. He appeared just after being shot down.
He destroyed people's homes while heading to the site of an international peace conference.
He was bathed in water at his weak point by the Special Investigation Team's artificial rain bombs, and although he was in pain, he tried to attack the venue, but when Ultraman appeared and was attacked by Ultra Water, he died.
After his death, a memorial monument was erected to commemorate his achievements during his lifetime.

*2:

www.vogue.co.jp

*3:"Balik"は回帰、復帰の意味だそうで、タガログ語は出ませんでしたが、インドネシア語(≒マレー語)でも同じ意味だそうです。

balikの意味 - インドネシア語辞書 - Weblioインドネシア語辞典

タガログ語ではバリク・マンガガワ"balik manggagawa "(復帰労働者)というイミグレ、査証関係の用語がいちばん出ます。海外で出稼ぎを行う際事前にこの申請を行い、海外雇用許可証"Overseas Employment Certificate"を取得したり、一時帰国前にそのポータルにアクセスしてエクスパイアしたOECの再申請を免除出来たりするのかな? よく分かりませんが英語ばかりのコントラクトの中に突然タガログ語が混ざるのが面白いと思いました。

"Balik Salmon"ということばも検索上位に來るので、鮭は戻り魚だからそう言うのかなと思ったら、関係ないようです。フランスだか麻布だかの高級サーモンの商標?なのかな。

caviarhouse-prunier.jp

ややこしいのですが、トルコ語では"Balik"は魚の意味だそうです。魚<゜)))彡はキリスト教の象徴ですので、"Balik Islam"はその意味でも「(キリスト教徒からの)改宗ムスリム」と言えてしまう。フィリピンやマレー世界にトルコ系民族が絡んだ形跡はないと思いますが、面白い偶然です。

balık - Wiktionary, the free dictionary

*4:http://www.fukyo.co.jp/search/?search_keyword=&search_title=&search_author=&search_genre=&search_series=3866&search_isbn=&amount=10&order=book_date_asc&binb_status=&format=0&search_submit=%E6%A4%9C%E7%B4%A2

*5:

stantsiya-iriya.hatenablog.com

*6:

stantsiya-iriya.hatenablog.com

*7:

stantsiya-iriya.hatenablog.com

*8:

stantsiya-iriya.hatenablog.com

*9:

stantsiya-iriya.hatenablog.com

stantsiya-iriya.hatenablog.com

stantsiya-iriya.hatenablog.com

stantsiya-iriya.hatenablog.com

*10:

stantsiya-iriya.hatenablog.com

*11:

stantsiya-iriya.hatenablog.com