『死者との誓い』読了

死者との誓い (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

死者との誓い (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

死者との誓い

死者との誓い

The Devil Knows You're Dead: A MATTHEW SCUDDER CRIME NOVEL (Matthew Scudder Mysteries Book 11) (English Edition)

The Devil Knows You're Dead: A MATTHEW SCUDDER CRIME NOVEL (Matthew Scudder Mysteries Book 11) (English Edition)

アル中探偵マット須賀田さんシリーズ
とりあえず欄だけ作っておきます。
そうとう書かねばならない気がしている。後報で。
【後報】
今回は凌辱犯罪とかの話じゃないので、よかったです。
アディクトやその自助グループを題材にした小説に、
前作の凌辱犯罪はそぐわないです。*1
前々作のマインドコントローラーキャラもどうかと思いましたが、*2
前作よりはマシ。で、今回は訳者あとがきで言うところの、
クラい話をするクラいおじさんにもどった
ということで、安心して読みました。

頁33
でも、そんなふうに思うのは、AAの集会なんてものを知ったせいかもね。これで一週間に三回か四回きちんと集会に参加すれば、もっと冷淡な人間になれるんじゃないかしら」
「AAの集会がきみの気に召さないというのは残念なかぎりだ」
「あの泣きごとのオンパレードにはへどが出るわ。それさえなきゃ、みんないい人ばかりなのに。

いきなりこんな会話www
http://img.ehowcdn.com/article-new-thumbnail/ehow/images/a01/v5/7j/act-aa-meeting-800x800.jpg
http://www.ehow.com/how_2069747_act-aa-meeting.html

頁41
「彼も集会に来てるの?」
「まあ、来たり来なかったりだけど。禁酒してるわけじゃないんだろう。今もビールを飲んでただろ?でも、四六時中酔っぱらってるわけじゃないんだろう。あるいは、集会には人とコーヒーが恋しくて来てるのか」
「そういう人ってたくさんいるの?」
「ああ。でも、そのうちの何人かは来てるうちに実際に禁酒するようになるんだ余。もちろん、まるで禁酒する気なんかない手合いもいるけど。ただ寒さから逃れるためにはいって来るやつらもね。でも、路上生活者がここまで増えると、そのことが今問題になっててね。集会によってはコーヒーとクッキーのサーヴィスをやめたところもある。そういうものを用意すると、よけい人を集めてしまうからだが、そこが難しいところだ。だってどんな人間も拒みたくはないんだから。一方、ほんとうに助けを必要としているアル中患者のためにも席は確保しておきたい」
「バリーはアル中かしら?」
「たぶん。ビールを片手に公園のベンチに坐って語った彼の世界を聞いたかぎりでは。しかし、アルコール依存かそうでないかというのは、酒のために生活がコントロールできなくなってるかどうかということだ。だからアル中かどうか、それは本人に訊くしかない。それでバリーはちゃんとコントロールできてると答えるかもしれない。できてなくてもね。そんなこと私にどうしてわかる?」

福祉を受けるため、という理由はアメリカにはないのかも。
考えたら、アメリカにハンコはないですね。すべて直筆サイン。

頁45
 が、私のほうも知らず知らず彼女と同じ道を辿っていた。酒にいたぶられ始め、救急治療室に担ぎ込まれては、アル中治療病棟に入院させられ、しばらく禁酒をしては、そのことを酒で祝うということを繰り返すようになっていた。

http://aaagnostica.org/wp-content/uploads/2011/11/ManOnBed-II-e1352759480448.jpg
これは、つながりたてのふたりがくっついて、
ガス欠になって別れる過去を回想するつぶやきです。

頁76
一時半、みんなで手を合わせて黙禱をした後、平穏の祈りを唱えた。私の右隣にいた若い男が言った。「無神論グループの集会はどんなふうに終わるのか知ってます?黙禱したら、またもう一回黙禱するんです」


無神論者も集会を行うが、祈らないというジョークでしょうか。

頁93
「彼女のところへ行ってホテルへ帰り、しばらく窓辺に坐って雨を見ていたら、無性に飲みたくなった」
「そう言われても驚かないよ」
「といって、飲んだら楽になれると思ったわけじゃない。自分が欲しているものが酒ではないことは分かっていた。でも、体が欲してたんだよ。その欲望の強さは今でもはっきりとわかる。体じゅうの細胞がアルコールを求めて叫んでた」
「誰だってそういうときには飲みたくなるものさ。だって酒というのはそういうときのためにあるんだろうが。そういうときのために世間じゃ酒を壜に入れて売ってるんだろうが。でも、飲みたくなることと飲むことは違う。そこがいいところだ。さもなきゃ、AAの集会なんてニューヨークじゅうで週に一回も開かれなくなって、電話ボックスの中でも開けるようになるだろう」

http://kusuri-jouhou.com/medi/img/sonota-a1.jpg
不治の病の友人を見舞った後、助言者と話す須賀田さん。

頁94
「ほんとに?われわれの問題もすべてこの、そう十語に尽きるね。“アイ・マスト・ステイ・ソーバー素面でいなければならない。アイ・キャント・ステイ・ソーバー素面でいられない。アイル・ステイ・ソーバー素面でいよう”」
「十一語だ」

http://boozebrain.files.wordpress.com/2012/07/sober12.jpg

頁99
AAの集会にはいくつかの形式がある。毎回異なるゲストスピーカーを呼ぶ集会、フリー・ディスカッションをやる集会、そのふたつをミックスさせた集会。それに段階集会。段階集会というのは、決められた曜日に、<禁酒のための十二段階>のうちどれかひとつの段階をテーマにして開く集会のことだ。それと同じようなものに、<禁酒のための十二の手引き>を取り上げて開く手引き集会というのもある。さらに、回復途中にある人を助ける誓いの集会というのもある。それは、回復のための指示に従っている人全員のために開かれる集会だ(誓いもまた十二条ある。一度誰かがこんなことを言うのを聞いたことがある。もしモーゼがアル中だったら、十戒じゃなくて十二戒になってたはずだと)。
ビッグ・ブックというのは、AAの配布物の中で最も重要なパンフレットだ。AAを創設した会員によって五十年ほどまえに書かれたもので、この禁酒会の基本的理念を謳った前文と、当時の会員の告白から成っている。その告白は、われわれが今日集会で語る身の上話――昔はこんな暮らしをしていたが、今はこんな暮らしをしているという類のものと特に変わらない。
禁酒を始めた当初、私はジムにこのパンフレットを読むようにさんざん言われて読んではみたものの、あまり感心はしなかった。内容もつまらなければ、文体も生真面目すぎ、その洗練度は、アイオワ州の田舎町で開かれるロータリー・クラブの朝食会程度のものだった。私は、これは古臭すぎるとジムに言った。するとジムは、古臭いと言えばシェイクスピアもそうだと言った。欽定訳聖書も。だから?というわけだ。それからしばらくして、私は彼に不眠症を訴えたことがあった。だったらビッグ・ブックを読むと言い、というのがそのときのジムの答だった。私は彼のことばに従って試してみた。するとそれが効いた。それで早速そのことを彼に報告すると、効くに決まってるよ、と彼は言ったものだ。このパンフレットには、突進中のサイでも食い止められる力があるのさ、と。
集会参加者がそんな聖なるテキストを数行ずつ順番に読むのが、ビッグ・ブック集会で、その週に割り振られた章を読み終えると、その個所に関する感想をみんなで言い合う。自分たちの経験と現状に照らして意見を述べ合うのである。

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第二次世界大戦の話や、禁酒法のエピソードも出てくる本だといいますが、
よく知りません。

頁115
いったい自分は今どういう心理状態にいるのか。そう思って私は思わず苦笑しないわけにはいかなかった。その答えは明らかだったから。これもまたアルコールが奏でる甘い誘惑の調べなのだ。アルコールの誘惑にはかぎりがない。終わりがない。われわれがどこを歩いていようと、次の角から突然姿を現し、われわれを驚かす。

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頁155
 西六十三丁目のYMCAで開かれている午の集会に出た。その日の話し手はちょうど禁酒九十日目を迎えた男だった。禁酒九十日が過ぎると、集会の進行役ができるようになる。その男はそれがことのほか嬉しいらしく、まるでしあわせを絵に描いたような身の上話になった。そのあと休憩になり、私の隣に坐っていた女が私に言った。
「わたしもあの頃はあんなふうに雲に乗ったみたいな気分だった。でも、あとで雲の上から落ちたときの衝撃と言ったら、そりゃすさまじかったわね」

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ピンクの雲というそうです。禁酒が成功出来て有頂天の状態をさす言葉。

頁228
私が時折足を運ぶAAの集会で、クウェーカー教の教義にのっとって会を進行させるところがあり、そこでは話したい者だけが話せばよく、その結果、かなり長いあいだ誰ひとり口を利かないということが時々起こる。しかし、誰もその沈黙を嫌がらない。

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そんな集会もあるんですね。沈黙の集会。

頁297
相手の罪を問わない聴罪司祭の役というのも、AAのスポンサー助言者が演じなければならない役のひとつだ。たとえば、私は今朝祖母を絞め殺しました、と言ったとする。すると、AAのスポンサー助言者はこう答えるのだ、それがお祖母さんの運命だったのでしょう、いずれにせよ、重要なのはあなたが飲まなかったということです、と。

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現実にはありそうもないです。
須賀田さんとその仲間は前作の段階3の欠如から引き続き、シニカル。

頁351
 そして、暗がりの中でソファに坐り、私の眠りを妨げている思いを頭から締め出そうとした。それはいつか私はまた飲むだろうという思いだった。そのことはどうしても避けられないことのように思われた。
年配のAA仲間が一年単位でものを考えないのは、おそらくこのためなのだろう。長期的展望を持つこと、あるいは遠い将来のことを考えること、それは逆に今を危うくすることだからなのだろう。

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頁405
「ふと気がつくと、わたしはこういうことを理解してた。それは、わたしはどんなものも失いたくないということよ。だってそれが素面でいることの一番の目的じゃない?自分の人生を失うことはもうやめようというのが、素面でいることの一番の目的じゃないの。だから今もわたしはそうありたいと思った。

だから、(病による)死の痛みも肯じて受け入れる、というロジック。
ここに到達して、このお話は終わります。
(2014/4/24,26)