『オンリー・イエスタデイ―1920年代・アメリカ』 (ちくま文庫)読了

オンリー・イエスタデイ―1920年代・アメリカ (ちくま文庫)

オンリー・イエスタデイ―1920年代・アメリカ (ちくま文庫)

小田基という方の、禁酒法について書いた本の参考文献にあった本。
禁酒法が産み落とされた後の、アメリカの大戦間の世相について書かれた本です。
禁酒法それ自体について第十章ひとつまるまる割かれていますが、
専門書で得られるほどの情報量はないです。

小田基『禁酒法アメリカ―アル・カポネを英雄にしたアメリカン・ドリームとはなにか』PHP
読書感想:http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20140517/1400330922

岡本勝『禁酒法―「酒のない社会」の実験』 (講談社現代新書
読書感想:http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20140102/1388648443

岡本勝『アメリカ禁酒運動の軌跡―植民地時代から全国禁酒法まで』 (MINERVA西洋史ライブラリー)
読書感想:http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20131119/1384850197

若者はみな悲しい (光文社古典新訳文庫)

若者はみな悲しい (光文社古典新訳文庫)

ラジオの登場、マイカーの普及、若い女性の開放(スカート丈、ペッティング、飲酒喫煙)、
株価の上昇、不動産投機熱など、どんどん紹介していくのですが、
若者については、今もむかしも、フィッツジェラルドを読めばそれでいいとして、
コモンセンスの変革を促したものがなんだったのか。
ヘミングウェイが描いた戦争帰りのロストジェネレーションなのか、
新移民、ニューカマーたちなのか。
それもあるのでしょうが、この本では下記が面白かったです。

頁263
 すべての科学のなかで一般民衆の心をもっともよくとらえ、宗教心を崩壊させる効果をもたらしたのは、いちばん新しくもっとも科学的でない科学であった。すなわち心理学こそ王者であった。フロイトアドラーユング、そしてワトソンには、何万人もの心酔者ができたし、知能検査がIQを求めるという形で学校にとり入れられた。商社は人を雇い入れたりクビにしたり、広告戦術を決めるために、精神科医を雇い入れた。人びとは新聞が確信をもって、心理学は方針がさだまらぬときや離婚や犯罪の問題を解く鍵をにぎっている、と書いているのを読みたいばかりに新聞を読んだ。

原理主義者と現代主義者(モダニスト)との軋轢のひとつが禁酒法という形をとった、
とは書いてませんが、私が読んで思ったことはそういうことです。
禁酒法と婦女子のモラル低下以外に、この本でこの時代の出来事として書かれていることに、
クー・クラックス・クランの伸張がありました。で、うっかり読み飛ばして頁忘れたのですが、
KKKの反カソリック性、という単語があり、
ワスプなら、ワスプの「プ」はプロテスタントの「プ」なので、
ありうるだろうけど、伸張したKKK会員たちは、
匿名の白いかぶりものを取ると、プアホワイトの「プ」である気がして、
で、プアホワイトなら後進移民が多いだろうし、当然カソリックも多いのではないか、
(イタリアやらアイルランドやらポーランドやら)
なら、反カソリック性を保つのは大変ではないか、と思いました。
レイシズムなら簡単ですが…
http://kkk.org/wp-content/uploads/2011/09/kkk_1920s-300x241.jpg
http://kkk.org/kkk-history/kkk-in-the-1920s
Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%B3

あと、軋轢の例として、進化論裁判が出てきます。

スコープス裁判(1925年)Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%B2%E5%8C%96%E8%AB%96%E8%A3%81%E5%88%A4#.E3.82.B9.E3.82.B3.E3.83.BC.E3.83.97.E3.82.B9.E8.A3.81.E5.88.A4.EF.BC.881925.E5.B9.B4.EF.BC.89
http://en.wikipedia.org/wiki/Scopes_Trial

Wikipediaには書いてませんが、この本では、進化論を禁止した州で進化論を教えた教師は、
仲間うちの冗談で、ふざけてわざと進化論を教えたとあります。(頁267)
そうすればこの田舎町も有名になるだろうと。
で、実際有名になり、有名な開明派弁護士のデマゴギー
クラレンス・ダロウが教師弁護を買って出て、
Wikipediaには3度大統領候補になった反進化論法成立の立役者としか書いてませんが、
国務長官の肩書を持つ信仰の徒、ウィリアム・ジェニングズ・ブライアンが検察を務め、
http://spartacus-educational.com/USAbryan5.jpg
http://spartacus-educational.com/USAbryan.htm

頁271
 ダロウはブライアンにむかって、ヨナと鯨、ジョシュアと太陽について、カインが妻をめとった場所、ノアの洪水の起こった日付、バベルの塔の意味などをたずねた。ブライアンは彼の信ずるところを、次のように表明した。世界は紀元前四〇〇四年に創られた。洪水は紀元前二三四八年か、その前後に起こった。イヴは文字通り、アダムの肋骨からつくられた。バベルの塔は世界中の言語がまちまちになった原因である。“大きな魚”はヨナを吞みこんでしまった……等々である。ダロウがカインが妻をめとったところを聖書のなかに発見できたか、と問うと、ブライアンは「いや、彼女を追跡するのは不可知論者にまかせましょう」と答えた。また、ダロウが「あなたは五千年前、この地球上に文明があったとは信じていないと言いましたね」とたずねると、ブライアンは「私の知っている証拠によっては、そのことは納得できません」と、断固たる態度で答えた。緊張と暑さで、気分がいらいらしてきた。かつてダロウが公表したところによると、ブライアンを審問した目的は、「頑固な信仰家や、知ったかぶりをする馬鹿者が、合衆国の教育制度を支配するのを阻止するために……ファンダメンタリストの本性を暴露すること」にあった、と言う。やがて、ブライアンは顔面蒼白になって、とび上がり、げんこつをふりまわしてダロウをおどしながら「合衆国一番の無神論者と不可知論者から、神のことばを守らにゃならん」と、叫んでしまった。

http://www.nebraskastudies.org/0600/media/0601_030401.jpg
http://www.nebraskastudies.org/0600/frameset_reset.html?http://www.nebraskastudies.org/0600/stories/0601_0304.html

頁272
 これは、前国務長官にとって、残酷とも、悲劇的ともいえる闘いであった。彼は心に抱いていた最愛のもののために抗弁し続けてきた。彼は――本人は気づかなかったが――かつて彼に名誉を与えたアメリカの民衆の前に、最後の雄姿を見せていたのだ(わずか一週間後に、彼は死んだ)。彼は屈辱にまみれていた。彼が説明したような宗教的信仰とは、証人席に立ったり、告発者としてその理由をつきつめたりするような種類のものではなかったのである。

裁判官は、この老いた原理主義者の絶叫を、証言記録から削除したとのことです。
そして、進化論支持者たちは、進化論の証拠を提出することが出来ず、敗訴しました。
罰金刑となり、釈放されたので、上告もされませんでした。
人びとの心はいっそう原理主義者から離れていき、ただし法律はそのままなんだそうです。

禁酒法と似ていると思いました。(禁酒法は撤廃されますが)
アメリカ人もまた、人類の一種ですから、自ら守れもしない、信じもしない法を、
但し道義的にブラックorホワイトのホワイトになるので、
おもてだって反論できないからしかたなしにかつ無責任に通過成立させ、
そして個人個人として守らない、そんな一面があるのではないでしょうか。
法を守らない文化と云うと私はすぐ中国を連想しますが、
アメリカもまた、ルールを作るがルールを守るかどうかは別問題、
ただしルールによる既得権益や権利を主張しないということは絶対にない、
と思います。アル中の自助グループの運営でもそうかな。
日本人は実によく伝統を守る。(ただしなあなあ文化がある)
アメリカ人は伝統を作り、主張するが、守るかどうかは自己申告、別問題。以上

Only Yesterday - An Informal History Of The Nineteen Twenties

Only Yesterday - An Informal History Of The Nineteen Twenties