『中国の名酒100選』読了

中国の名酒100選

中国の名酒100選

以下、後報で書きます。
【後報】
出版年を見ると、あの、うれし恥ずかし胡耀邦趙紫陽時代の出版物です。
改革開放ですね。中国国际旅行社(CITS)とインツーリストの違いを見れば、
ソ連社会主義と中国式社会主義の違いはすぐ分かるわけで、
バウチャーとテレックスですべて予約されるソ連旅行と、
人とコネ次第の出たとこ勝負で、
幹部用に取ってあるキップや部屋を開けられるか、
あるいは“メイヨウ”責めで悶死するか別れ目の中国旅行。
規則でがんじがらめでないので、
「中国のほうが人間らしくていい」とか噴飯ものの礼賛が罷り通っていたあの頃。
法治でなく人治だからだよっ!!と、'90年代には早くもその本質が露見したわけですが、
抜け道とか好きな人には、確かによかったと思います。
著者は、1980年から毎年訪中していたということで、
日中友好ナントカなのかなあとも思いましたが、別にどうでもいいです。

アマゾンのレビューで、明代に成立した三国志演義水滸伝の記述から、
三国時代北宋の文化風俗を描いてしまうこの本のトンデモ本的一面が指摘されてますが、
それはまあ、作者だけの責任なのか、中共の元ネタ出版物の責任もあるのか、
不分別なのかもしれない、と思います。頁93で、白酒の起源を、
1975年に出土した金代の蒸留器を紹介しつつ、
何故かその前の北宋であってもおかしくない、と話をワイプさせてしまうあたり、
漢族王朝起源でないとアカン中華思想やなあ、と、頬杖ついてため息でした。
戦後早期の青木正兒先生の本*1では元代と推定された起源が、
新中国での発掘によって金代まで遡れただけでヨロシイのに、
漢族王朝に動いてしまう残念な展開。どこの国でもこういうのはこうなるんですかね。

あと左右の二項対立とかが好きな人にはこういう記述もあります。

頁36
 しかし、残念なことに、歴史のうえでは多くの名酒が現われて詩にうたわれているが、長期にわたる封建社会のもとで生産力が抑制され続け、それに続く内戦、さらに近代における外国との戦争などがその発展をさまたげたため、年月とともに盛名も衰えて、そのほとんどが消滅してしまっていた。
 新中国成立後、中国の宝である民族の伝統工芸と科学遺産を重視した中国共産党および人民政府が、醸造事業をいち早く復興させたため、中国酒は空前の発展を遂げてきた。
 その結果、長いあいだ消滅していた名酒がよみがえったり、新しく醸造された名酒が各地で生まれるなど、まさに百花斉放、集めようがないほどの美酒が生まれて、人々に喜ばれている。その数は優に一千種類を超えているという。

正統中華、中華復興を唱える中華民國からすると、プロ文革の文化破壊がありながら、
何をしゃあしゃあと言うか、と思うでしょうし、
往時中国を訪問した邦人各位におかれましては、
日本軍国主義は悪かったが日本人民と中国人民はポンヨウです、
と嘴甜心苦な媚に羽化登仙したあのこんころもちを思い出されるかもしれません。
江沢民以降そんなスーザン忖度する支那人民はいなくなりまひた。

頁144
 一九五四年以降、青島啤酒は年々輸出がふえ香港、マカオ、東南アジア、ヨーロッパ、アメリカなど三十数ヵ国に輸出されて、「香り味ともによく、名はむなしく伝わらない」とか「農薬汚染のない貴重なビール」といわれて、国際的に好評を博している。

作者もこの本の十年前、華国鋒時代の有吉佐和子の中国レポートで、
中国の人民公社レイチェル・カーソン沈黙の春も真っ青な農薬天国を指摘したことを、
知っててこない書いてるのか、能天気に知らなかったのか…
関川夏央北朝鮮レポートでも、参加者は皆中国の農薬問題知ってて、
ならば北朝鮮はどうかということで意気込んで訪問して、
無知な渉外担当と問題意識の欠如に失望させられる面白い描写がありました。

沈黙の春 (新潮文庫)

沈黙の春 (新潮文庫)

頁112
 以上でもわかるとおり、日本ではあたり前というより、正式な飲み方とさえ思われて信奉されている老酒に氷砂糖というのは、まったく邪道である。あれはまだ熟成していない酒を、古い酒の味に近づけるために砂糖を入れた名残りであって、自然の甘味やまろやかさとは無縁の代物である。かえって老酒の風味をそこない、後味を悪くする。
 むかし、陳年紹興酒という年代物を買えなかった階級がせめてその味をと願った方法が、誤って日本に伝わったのだろう。老酒を飲むときは、けっして氷砂糖を入れてはいけない。そのままの味が最高である。

紹興酒にきざら、は、日本人の発明と何故か知日派中国人からよく聞かされましたが、
中国貧民起源であると、作者は180°ひっくり返したわけで、ここだけ痛快でした。非常に。
そうであっても、いや、そうであるならなおさら、やっすい紹興酒を飲むなら、
きざらをいれておのみやす、ということになるのではないか、とも思いました。

頁182
 数年前、済南の空港でこの酒を見かけたのでぜひ買いたいと思ったが、折悪しくハイジャックの直後で、荷物とボディ・チェックに時間を取られて買えなかった。

下記の事件だと思います。

中国民航機韓国着陸事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E6%B0%91%E8%88%AA%E6%A9%9F%E9%9F%93%E5%9B%BD%E7%9D%80%E9%99%B8%E4%BA%8B%E4%BB%B6
下のチャン・イーモウ映画とは別ですが、なんとなく貼りました。

作者の中国名酒一覧、写したいですが、長いし、敬意を表して、
割愛します。産地と、あとカタカナの中国語読みがいいです。
酒のふりがなは、チウ。

頁247 あとがき
 四川といえば本文にもあるとおり、白酒の五大名酒を生んでいる酒どころ、五糧(粮)液や剣南春を味わえると思ったら、これが大はずれ。輸出用に回すせいか、ショーウィンドーにサンプルが並んでいるだけで、実物にはお目にかかれなかった。そのせいではなかろうが、成都の錦江賓館で四川省外事弁公室の徐世群主任に招待された宴席で味わった全興大曲酒は、ひときわ美味であった。

いい時代でしたね。というと、たぶん、反論必至です。
外貨兌換券の闇レート1.5倍くらいでしょうか。天安門事件まであと二年!以上
(2015/1/24)
【後報】
この本の版元は徳間書店で、確か、中国関係の全集みたいなものも出していたな、
と思いましたが、うまいこと検索出来ませんでした。
映画『コクリコ坂から』で、カルチェラタンの存続を求めて、
学生有志が徳間書店にボス交に訪れる場面で、
その広告があったように記憶しているのですが…
http://pic.prepics-cdn.com/happppppy/20329794.jpeg
そのシーンの画像もうまく検索出来ませんでした。
(2015/1/29)