『台湾の歓び 心悦台灣』读完

ほかの人の日記でこの本があるのを知り、読みました。

台湾の歓び

台湾の歓び

作者は、若い頃韓国に滞在して書いた、われらが他者なる韓国が、
とても面白かったので、同様の趣向で台湾に向き合ってくれるのかと期待して読み、
で、加齢により、みずみずしい感性が、ドッカリしたふてぶてしさに変わり、
面の皮が厚くなって、ハッタリが平然と出せるようになったからでしょうか、
違った切り口にならざるをえなかったのだなあ、と思いました。
われらが「他者」なる韓国 (平凡社ライブラリー)

われらが「他者」なる韓国 (平凡社ライブラリー)

出だしでキューバを挟んでみたり、韓国と台湾の日本観の違いについて、
書きたくないけれどもどうしても書いてしまう展開があり、
でもそれは下記の本のような視座から書いているわけでなく、
朝鮮からみた華夷思想 (世界史リブレット)

朝鮮からみた華夷思想 (世界史リブレット)

中国と台湾についても言及せざるを得ないけれども、
金美麗が「でも、台湾人も中国人なんでしょう?」と言われて、
なぜそのようなことを言うのかと憤慨する*1心理とか、
犬彦去って豚が来たとか、そういうありきたりを書くつもりはないのだと、
思いました。李登輝もホウシャオシエンも主題にはならない。
キッチュスノッブな台湾文化人というと、どうしても、北京語以外を話す外省人の、
二世が出てきますが、水道の蛇口をひねるといくらでも水が出てくるのが不思議で、
蛇口の盗難が相次いだとか、そういう光復直後の台北なんか今さら書くか、
ということみたいです。全然関係ないが、日本もそのうち、蛇口をひねれば、
全国どこでも水が出る時代が終わったら嫌だなあ、と思います。

毎日新聞 2015年12月31日 09時00分(最終更新 12月31日 11時29分)
水道管 老朽化が進行 1割以上が「期限切れ」
http://mainichi.jp/articles/20151231/k00/00m/040/126000c
朝日新聞 2016年1月4日08時03分
老いる水道管、漏水が頻発 「水の4割ムダ」自治体も
http://www.asahi.com/articles/ASHDV7R0KHDVTIPE01F.html

頁12
 わたしの知るかぎり、台湾人がアルコールを嗜むことはほとんどなかった。学会の後に円卓を囲んで開かれる宴席でも、平然と最初から水が出てきた。グルメ街でたまに瓶ビールを吞んでいる卓を見かけると、たいがいが日本人だった。ましてや紹興酒や中国北方の蒸留酒など、見かけたことがなかった。たまにビールを注文するときも、台湾人はパイナップル味やマンゴー味のビールを好んだ。あまりに豊富で安価な果物が、彼らをアルコールから遠ざけているのだろうか。もっともこれは台湾料理店にだけ見られる傾向であったかもしれない。わたしは足を運ぶ機会がなかったが、このグルメ街には最新流行の日本料理店があり、いつも若者で賑わっていた。彼らはそこで、さまざまな種類の焼酎を、あたかもワインを見立てるように賞味していた。

檳榔噛んでるから酒飲まない、わけじゃないでしょうし…
酒税が高いのもあるかな。米酒とか、料理酒という扱いで酒税が安くなってて、
それが低所得者層の晩酌になってるわけでしょう。
カンペイ文化のひとがそれ以外に酒を楽しむすべを知っているかというと、
答えは否だと思います。関係ないけど、むかし西門町で夜ぼーっとしてたら、
隣に、歌舞伎町にいたことがあるという痩せたオカマが来て、
眠れないとかいいながら奴はカリコリビンロウ噛んでましたが、
特に話すこともないので、そのまましばらく立っていて、じゃあねと言って、
立ち去った思い出があります。何がなんだかですね。

確かにアマゾンレビューにもあるとおり、この本は映画KANO*2について、
致命的な間違いを平然と記述しており、つまり嘉義農業は甲子園で、
札幌商業に圧勝して、その後、決勝で名古屋の学校に負けるわけですが、
本書では、優勝決定戦で札幌に負けた、と明記しており、
おま―映画観てないだろ、私がよくやるように寝てただろ、と思いました。

モンガに散る [DVD]

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天空からの招待状 [DVD]

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日本で一般公開された映画でこういうテキトーこかれると、
モンカとか、大稲ナントカとか、紅柿子とかのほかの映画の紹介も、ほんまなん、と、
疑ってかかってしまいます。それは作者も本意ではないでしょう。
岩波書店の編集者も責任なしとは言えないと思う。
名古屋に負けた、という点から、作者なら、汪兆銘逝去の地とか、
戦後長く名古屋から沖縄経由キールン行きフェリーが出てたとか、
そういう箇所にメタファーを絡めてああだこうだ書けたはずなので、
それも残念でしょう。

頁276、沙卡里巴(「サカリバ」と読む)は知らなかったのでよかったです。
頁160、甫以来は本来の誤植。
もう一箇所誤植見つけたのですが、今付箋をつけたページを見ても分からない。
下記の本は私も読みたいと思いました。

中国人の街づくり (相模選書)

中国人の街づくり (相模選書)

これが台湾文化についての著者のバイブルというところがまた悩ましい。
私なら、漢人の街づくり、にします、タイトル。
頁181、学生の立法院占拠事件の数字のソースがアップルデイリーで、
笑いました。ほんと幅のある新聞だから、使いたくなりますよね。
私は、エロ記事の、骨女度の「骨」の意味も考察してほしかったです。

二・二八の発端、タバコ売りの妊娠中のオバサンが射殺された場所の写真と、
頁76の劉自然事件*3を書いたのはよかったです。
私は、アメリカ女性を覗き見しようとして撃たれたと思ってましたが、
また別の事件と記憶がごっちゃになってるかな?
周鴻慶事*4も書いたら面白かったと思いますが、
特に関連する事柄が本文中にないから、書けないですね。
陽明山とか一行も出てこないし。北投とかも。

頁79、陳映眞『鈴璫花』(一九八三)前半はジョイスダブリン市民『邂逅』のプロット借用、
頁99、宋澤莱『蓬莱誌異』はゴーゴリ『ディカーニカ近郷夜話』を連想、
頁152、ビュートル『心変わり』とパヴェーゼ『美しい夏』の剽窃が、
京都と台北の往復を舞台にして、『古都』という題名が付けられているのが、
冗談が強すぎるのではないか。⇒キツい言い切りと思いました。

古都 (新しい台湾の文学)

古都 (新しい台湾の文学)

この辺作者の本領発揮で、もっとやれという感じですが、
どういうモノサシでエドワード・ヤンみたいに絶賛したりするのかがナゾです。

冒頭の、われらが他者なる〜との比較で言うと、本書の李天祿とか、
林瑞明とかが、いつ、われらが〜に出てくる金素雲みたいに、
最初よく書いていて、ラスト、ガラリと、肉親の手記を引用して、
叩いて終わるという構成になるんじゃないかとヒヤヒヤしましたが、
台湾人に対して作者はその手を使いませんでした。よかったです。以上